・side-4・ 残されたもの
〈パンドラ〉は、私の予想を超えた働きをしてくれた
彼女を地上に放ってから幾年もの月日が過ぎた
その間に、私は〈人間〉に「火」を与えた
〈人間〉は、「火」を自在に操り始める・・・そして〈人間〉は
その「火」を粗野な行為に使い始める
殺戮・・争い・・
私は、なぜかそうなることを知っていたように思う・・・
ティタン神族の末裔である〈プロメテウス〉と〈エピメテウス〉の兄弟は
〈パンドラ〉に恋をした
兄である〈プロメテウス〉は、その名の通り先見の明があるのか
〈パンドラ〉への恋心に邪悪なものを感じ身を引いた
だが、弟である〈エピメテウス〉は、これもまた名に殉ずるかのように
〈パンドラ〉へ求婚し、そして結ばれた・・・
私は、なぜかそのことも予め知っていたように思う・・・
ある日、〈パンドラ〉は〈エピメテウス〉の留守中に
その植え込まれた『好奇心』の誘惑に負け、〈壷〉の栓を抜く
次々と勢いよく飛び出す数々の災い・・・
慌てた〈パンドラ〉は、やっとの思いで栓を閉めた
私はその様子を天界で眺めながら笑みを浮かべていた・・・
そのときになって、私はなぜ〈人間〉を創り出したのか理解した
私の中には、祖母ガイアと父クロノスの怨念が封じ込められていたのだ
知らず知らずのうちに、私は邪悪なる未来を迎えるよう
その意思を操られていた・・・
ぃや・・・私は、その中に少なからず喜びを見出していたようにも思う・・・
この日のため・・・
〈パンドラ〉が、〈壷〉の封印を解き災いを蔓延させるときを
この目で見るため・・・
そのために、私は〈人間〉を創りだしたのだと・・・
今までに、〈人間〉には五つの時代があった・・・
『黄金の種族』の時代
誠実で敬虔(けいけん)な人間・・・無欲で略奪も戦争も売買もなかった
私が「アルカディア」と思い込んでいたとき・・・
『銀の種族』の時代
神々を敬わず義務を守らず、貧欲になった人間・・・
『青銅の種族』の時代
猛々しく傲慢で残忍な人間・・・
『英雄の種族』の時代
優れた能力と誇り高き気性を兼ね備えた英雄と呼ばれた人間・・・
そして、
『鉄の種族』の時代・・・
今、地上にはあらゆる災いが広がり世界中を埋め尽くしている
祖母ガイアと父クロノスの怨念の招いた仕業なのか・・・
それとも・・・
私の中にある怨念を取り払うために私自身が選んだことなのか・・・
「ゼウスよ・・・お前の運命は選択できたか・・・」
「あぁ・・・ノルン・・・
私は、至高神ゼウスであり・・・邪神ゼウスでもある・・・
その運命を受け入れよう
もう、その運命に抗うことは無意味だ・・・」
「そうか・・・ではゼウスよ
お前の名の下にこの世界を浄化することとしよう・・・
ゼウスよ・・・今一度聞く・・・後悔はせぬな・・・」
「無論!・・・ただ、最後に二つお前に問いたいことがある」
「・・・なんだ?」
「・・・人間は、清くなれるのか?・・・」
「ゼウスよ、その答えは私の中には無い・・・
答えはお前の心の中にある・・・」
「・・・・・そう・・・か・・・・・
では、今一つ・・・
あの壷に残った最後の一つは・・・『希望』・『予兆』・『絶望』のうち
どれだったのか・・・」
・・・・・
「・・・・お前が望んだものが残った・・・」
「私が望んだもの・・・」
「そう・・・お前が望んだもの・・・」
「そうか・・・私が望んだものが残ったのか・・・」
私は、ノルンに背を向けて歩き出した
私の周りを眩くばかりの光が飛び交う
それと共に薄れ行く意識・・・
(ヴァルキューレよ・・・アテナを・・・)
目の前が白くなった・・・・・
・・・fine