Side-12
7月8日未明
アルボルス山脈を抜け、僕たちはカスピ海沿岸にあるチャルースという
小さな町に入った。首都テヘランから100kほどに位置した町。
町には人の気配がなかった
燃料補給のためスタンドを探す・・・防御スーツが息苦しいが脱ぐわけにはいかない
しばらく走るとスタンドがあった
斉藤が給油している間、僕は店に入る・・・誰も居ない・・・奥にあるドアに手を掛けあけた
おびただしいほどのハエが飛び出してきた
ベッドに横たわる人が目に入った・・・すかさず僕はドアを閉めた
腐っていた・・・おそらく細菌に感染し、ベッドの上で動けなくなり
横たわったまま腐りはてそのままハエの食料になったのだろう・・・
店を出た
〈誰かいたか?〉・・・「あぁ・・・腐ってたがな・・・」
給油を終え、僕たちはまた車を走らせた。バクーまでおよそ400kほど
何もなければ夕方までには到着できるはず
「なぁ、斉藤・・・村上さんと田中は大丈夫だろうか・・・」
〈さぁな・・・俺には知る術がない・・・〉地図を見ながらつぶやいた
「まったく、お前はいつも冷静だな・・・」
〈心配しても、何も出来んしな・・・どのみち村上さんがいればなんとかなるだろうさ〉
核のせいなのか細菌のせいなのか、ほとんど車とすれ違うことはなかった
路肩のあちこちには破壊された車両の残骸や死体がころがっている
それにしても、防御服は暑い・・・
冷却装置が付けられているが、妙に息苦しく感じる
この細菌が空気中で生存しているのは2週間と聞いた・・・
だがそれは実験場での結果・・・自然界に放たれた細菌がどう動くのか
実際には未知数のことだ
〈松下・・・放射能が電波に干渉せしめる時間はどのくらいだった?・・・〉
「え?・・・干渉?・・・まぁ、多くても数時間ってとこだな。どうした?」
〈核が打ち込まれたのが7月4日・・・今日が7月8日・・・4日間も過ぎてる
松下、お前のGPS稼動できるか?〉
「俺の?・・・あぁ・・・ちょっとまってくれ」
僕は路肩へ車を止め、GPSを取り出しスイッチを入れた
「・・・あれ?・・・衛星が反応しない・・・」
〈やはり、お前もか・・・破壊されたか・・・〉
「バカな!斉藤、お前何機の衛星が軌道上にあると思っている!
日本だけで200機、アメリカを含めると3700機もの衛星が軌道上を飛んでるんだぜ。その全てを破壊なんて、出来るわけがない!」
〈そんなことは知ってるさ!だが、反応しないのは事実だ・・・どう思う?〉
「どう思うって・・・」
〈まぁ、ここで議論してても埒が明かないのは確かだ・・・
すまん、松下。先を急ごう・・・〉
「あ・・・あぁ・・・」
言いようの知れない不安に駆られていた
言葉には出さないが、斉藤も同じ感覚を受けているはず・・・
7月8日 PM16:00
薄っすらと夕闇が迫る頃、僕たちはアゼルバイジャンの首都バクーへ到着した
不気味なほど静まり返っていた
放置された車・・・崩壊したビル・・・人影は見当たらない
ところどころ陥没した道路・・・
標識を頼りに飛行場へたどり着いたときには