『祖父の言葉』
「裕之・・・」
背中から声が聞こえた
聞き覚えのある声・・・
振り返ったそこには
祖父がいた・・・
僕は目を疑った
(なぜ?島根にいるはずなのに・・・)
「・・・じいちゃん・・・」
かろうじて、そう言葉にするのがやっとだった
僕の横に座り
祖父は静かに口を開いた
沈みかけの夕陽が
赤から紫に変わろうとしていた
僕は身構えながら祖父の言葉を聞いた・・・
「裕之・・・
これから話すことは、お前にはにわかに
信じることは無理じゃろ・・・
だが・・・心して聞け
・・・・・
裕之、お前「古事記」という本を知っておるか?
古代日本の伝説を書いたものじゃ
日本は「神の国」と言われておる
その神の中に「イザナミノミコト」と呼ばれた
神がいた
「イザナギノミコト」と共に、日本を創ったと
伝えられておる・・・二人は夫婦・・・じゃった
何人かの子を産み落とし
最後の子を産み落としたとき
「イザナミ」は死んだ・・・
「イザナギ」は嘆き悲しみ、黄泉の国まで行って
妻に逢おうとした・・・だが
変わり果てた妻の姿に恐れおののき
地上へ逃げ帰った
「イザナミ」は恨み言を叫び、黄泉の国へ堕ちた
「イザナギ」は、その後新たな神と夫婦となり
10人の子を世に放った
末端の3人の子
「アマテラスオオミカミ」・「ツクヨミノミコト」・「スサノオノミコト」
この3人の名は、お前も聞いたことがあろう
10人の子の中で、この3人の賢さは異彩を放った
「イザナギ」は、この3人にそれぞれ神器を授けた
神の力をよりいっそう増幅させるために・・・
「アマテラスオオミカミ」は、暗黒の夜に光を放った
「スサノオノミコト」は、邪悪な「ヤマタノオロチ」を封印した
そして、「ツクヨミノミコト」・・・
この神には、さまざまな言い伝えがある
「月読命(ツクヨミノミコト)・・・
月は、その昔黄泉の国の出口・・・
そう言われておった
黄泉の国・・・そうじゃ、イザナミの堕ちた世界・・・
ツクヨミは、イザナミの生まれ変わり
そう、先祖代々伝えられておる
ツクヨミに与えられたのは、『勾玉(マガタマ)』・・・
この神器は、冥界を自在に操る力を持っておる
『勾玉紅く染まりしとき黒き使者舞い降りる
汝、明鏡をもってそれを鎮めるべし
さすれば、新たな力舞い降りる
勾玉白く染まりしとき紅き使者舞い降りる
黒き使者封じる者なり
汝、勾玉をみがまうことなかれ
言霊をかろんじることなかれ
勾玉授かりし者よ
心乱れしとき黒き使者現われし
いたわりをもってこれを鎮めよ』
・・・・・ふぅ・・・
裕之、これが代々伝わる封印者の言葉じゃ
ツクヨミは、確かにイザナミの生まれ変わりかも知れん
だが、悪しき心は黄泉にある
ツクヨミには善き心が
イザナミには悪しき心が
それぞれ備わった
地上に居た頃のイザナミは心優しき神であった
黄泉へ堕ちイザナギの背信に逢い
心は闇にまみれたのじゃ
小さく残った慈悲の心が黄泉の国を抜け出て
分身であるツクヨミを創りだした
もちろんイザナギは、それを知らん
裕之・・・
我が祖先はツクヨミの子孫になる・・・
お前がまだ幼き頃
このわしが、お前の心を封じ込めた
この世にはもう、不要と考えたからじゃ
だが・・・
わしは、お前の封印を解かねばならない
イザナミの邪悪な心が黄泉の国を支配したからじゃ
祠から飛び出た赤い物体は
・・・・・
イザナミ・・・
・・・・・
ツクヨミを復活させねばならぬのじゃ
裕之・・・すまぬ・・・」
僕は放心していた
何を言ってる?・・・じいちゃん・・・
じいちゃんの指が
僕の額の中央に触れた・・・