「由美さん。ちょっと、これ見てくれませんか・・・」
「・・・ん?なに?・・・」
・・・・・
気象庁兵庫測候所オペレーションルーム
佐藤由美は、ここからTV局への天気予報を放映している
今日の夕方への天気情報を収集し、明日の予報を考える
モニターには、アメリカの気象衛星から送信されてきた情報が
映し出されていた・・・
・・・・・
「これ、1時間前の情報なんですけど・・・ほら、ここ・・・」
「・・・あ・・・なにこれ!?いつのまにこんな雲が・・・」
「でしょ・・・急に現れたんですよ。こいつ」
南アメリカ大陸の太平洋沿岸に一面を覆う熱帯低気圧の雲
だが、その範囲は尋常な範囲ではなかった
今が、日本時間の午後1時。昼に由美がモニターを確認したときは
こんな雲は発生していなかった・・・たった1時間の内にこれだけ大きな低気圧
が発生することは、通常考えられないこと。
電話が鳴った。
「はい。兵庫です。」
「あ・・由美さん?。佐世保の長谷川です。見ました??」
「長谷川さん・・・見たわ。なんなの?あれ・・・」
「僕もわからない。とにかく急に現れた。今、NASAに確認してるとこ」
「NASAに?」
「うん。ついさっき、厚木の村上から連絡が入ったんだ。地殻変動の情報が入ってないか
って・・・それで、あいつにこの雲の件も話したんだ・・由美さん。なんかおかしいよ」
「村上さん・・・村上さん、どこ飛んでるの?」
「この雲から北東へ1000k付近らしい」
「ここから北東へ1000kって・・・」
「・・・そう、バミューダ海域・・・」
「バミューダ・・・あ・・村上さんは、大丈夫なの?」
「ああ・・・すでに帰途に入ったらしい。僕のところからも観測班が飛び立ったところ」
「またなにか情報が入ったら連絡する。由美さん、気をつけて。」
「うん。・・・長谷川さんも・・・」受話器を置く由美・・・
モニターに目を移す由美・・・刻々と広がる暗雲・・・
「な・・なんだ、この数字・・・」
「え?・・どうしたの?」
「由美さん、これ・・・この中心気圧・・・」
モニターに映る低気圧の情報
通常台風の中心気圧は900hp~980hpの間にある・・・地球上の環境でそれ以上強大な台風は、いまだかつて存在しない・・・人類が生まれてからは・・・
だが・・・そこに映し出された数値・・・
「・・・750hp・・・なに・・これ・・・ありえないわ、こんな数値」
「由美さん・・・こっち・・・TV・・」
「え?・・TVがなによ・・・」
「いいから!・・・見て・・・」
そこには退去を急ぐ民衆の姿があった・・・そしてその画面の奥に映る暗雲・・・
逃げ惑う人々、揺れ動く画面、マイクが拾う声、見る見るうちに空を覆う雲
ライブ映像が切れ切れになる、TVクルーの声が聞こえた・・・
「oh my god・・・」
画面が途切れた・・・
凍りつく由美・・・「由美さん!!」後ろで聞こえる声
モニターに映る情報・・・南半球がすっぽりと暗雲に包まれていた
「・・・・・」食い入るように見つめる由美・・・声が出ない・・・
電話が鳴った・・・
放心したまま受話器をとる由美
「・・・もしもし・・・」
「由美さん。長谷川です・・・」
・・・・・
長谷川の話では、たった今ヨーロッパで大規模な地震が発生したとのこと
震源地は地中海・・・震度230m・・・マグニチュード8.5の直下型地震
イタリアを含め沿岸諸国は壊滅状態・・通信機能も麻痺・・・
その影響はロシアを含めた北欧諸国・・・そしてアフリカ諸国へも・・・
・ ・・・・
「・・・なんなの?何が起こってるの??・・ねぇ長谷川さん・・・」
「わからん・・・僕のいる海上保安庁と海自から合同で調査隊の派遣が決まった
すまない、僕もまもなく出発する。村上と浅宮さんも一緒なんだ。」
「・・・そ・・そんな・・・」
「大丈夫。調査に行くだけだよ。・・・それに・・・村上は僕が守るから・・・
由美ちゃん。心配しないで。」
「・・・うん。・・・わかった。長谷川さん、賢二さんを・・・お願いします。」
「うん。・・・じゃ、行ってくるね。」
受話器を置く由美の手・・・震えが止まらない・・・
1980年12月24日、奇しくもクリスマスイブ・・・
世界各国は逃げ出した民衆の保護と調査隊の派遣に追われた
南半球の諸国とは連絡が取れず・・・非難の為飛び立った旅客機も
暗雲に襲われ、そのほとんどが海に沈んだ
ヨーロッパ諸国からは・・・あまりにも突発的な地震だったため
誰一人逃げ出すことは出来なかった・・・生き残った人はいるのか・・・
それを探し出すのも、調査隊に携えられた任務だった
日本時間12月24日PM15:35
海上自衛隊佐世保基地から飛び立つP2J
機長:村上賢二1尉 副長:早瀬2尉 浅宮修一:海自2佐 長谷川和幸:海保特務1課
課長 向かう先はバミューダ海域・・・フィリピン沖でアメリカの原潜に合流・・・
機内の4人に会話は無かった
これから向かう場所に何が起きているのか・・・
数時間後に知ることになる