秋の柔らかな日差しの中、僕と緑は互いを見つめあった

言葉はなかったけど、お互いの想いは伝わった・・・僕はそう感じていた

「あ、・・・病棟に戻らないと・・・

ねぇ、しゅう。すぐ帰っちゃうの?」

「いや、大丈夫。時間はあるよ」

「そう・・・いつもの喫茶店で待っててもらえる?

今日早番だから、もうすぐ終わりなの・・・待っててくれる?」

「あぁ・・・あの喫茶店・・・ね

うん、いいよ。待ってる」

「ありがと・・・」

そう言うと緑は患者達に向き直り、それぞれに声をかけ病棟へ向かい始めた

《あいつ、涙も拭かずに話してたな・・・》

・・いつもの喫茶店・・

この病院からそう遠くない場所にある

僕たち3人の共通の待ち合わせ場所・・・

そうだよなぁ、アキが死んでからまったく行ってないんだ・・・

喫茶店までの道筋にあの頃の状況が重なる

ほどなく着いた喫茶店のノブに手をかける

一陣の風が僕を通り抜ける

《・・・アキ?・・・》・・・瞬間的にそう感じた

振り向いた先には・・・誰もいなかった・・・

《・・・だよな・・・いるわけないよな・・・》

店に入る

馴染みのマスターがビックリした顔で僕を迎え入れた

3人でよく座った席・・・「予約席」と書かれた札があった

無言のままその札を取るマスター・・・「どうぞ・・・」

僕はいつもの場所へ座った

「いらっしゃいませ」マスターが水とお手拭をテーブルに置く

「モカ・・・でよろしいですか?」

「・・・はい」

無言のまま立ち去るマスター

カウンターに入りサイフォンに火をかける

その姿を見つめる僕とふと顔を上げるマスターの目が会う

軽く微笑むとマスターは仕事に移った

・・・・・

呼び鈴が鳴った

ドアを見ると、緑が入ってきた

いつもの席へ座る、マスターが運ぶ水とお手拭

「カプチーノ・・・で?」

「あ・・・はい」

《何を話したら良いんだよ・・・まいったな・・・》

僕の中で言葉が見つからない・・・

「・・・しゅう。憶えてる?・・・」

「え?・・・なにを?・・・」

「あの日、駅前で待ち合わせしたとき、あたしとアキがなにか話してたこと・・・」

「・・・あぁ・・・うん、憶えてる」

「あれね・・・」

「お待ちどうさま」そう言うとマスターはカプチーノのカップをテーブルに置いた

「お替りです」僕の前にはモカのカップを置く

互いに一口すする

「・・・あたし・・・ずっとしゅうのことが好きだったの・・・

初めて逢った時からずっと・・・

でも、しゅうはアキばっかり見てた・・・あたし・・・

それでもいいって思ってた・・・だって、アキのことも大好きだったし・・・

でもね、しゅう、憶えてる?あたしの自転車に乗ってアキが転んで怪我したこと・・・

あのとき、あたし気づいたの・・・アキにやきもちやいてたのよ、あたし・・・

『しゅうを取らないで!』って思ってるあたしがいたの・・・

告白できなかったわ・・・わかる?あなたはあたしを妹程度にしか思ってないかもしれないけど

あたしはあなたが好きだった・・・傍にいられるだけでよかったの・・・

告白することでその関係を壊すのが恐かったのよ・・・

・・・

あの日、アキはあたしにこう言ったの・・・

『あたしはもうすぐ死ぬの・・ねぇ、緑、あたしの最後のお願い聞いてくれる?

・・・あたしが死んだら、しゅうをお願い。

あたし、緑がずっとしゅうを好きだったこと知ってるわ

あたしね、緑にやきもちやいてたの・・・

あたしは、もうすぐ死んじゃうのに緑はずっと生きてられる・・・

ずっとしゅうのそばにいることができる・・・だから・・・

今、このときだけでいいからしゅうをあたしのものにさせて・・・って

あたし、緑のこと大好きよ・・・あなたに逢えて幸せだったの・・・

ごめんね、緑。・・・こんなこと頼めるのあなたしかいないの・・・

お願い、あたしが死んだらあなたがしゅうの傍にいてあげてほしいの・・・ね。』

正直、びっくりしたわ・・・アキがそんなこと思ってたなんて

あたし・・・頷くことしか出来なかった・・・

アキが死んで、あなたがいなくなったとき正直恨んだのよ・・・あたし

『なんで逃げるの!卑怯よ!』って

でも、・・・あたしの気持ちは変わらなかった・・・変えられなかったって言うほうがいいかな

さっき、あなたの姿を見たとき自分の気持ちに確信をもったわ・・・

あたし・・・しゅう、あなたを愛してる・・・」

カップを手にしながら緑は一気に話した

僕を正面から見据える眼差しに僕は言葉を失っていた

話し終えた緑はカップを上げ口に近づけた

その仕草を見ながら僕はどう答えてよいのか自分の気持ちが混乱していた

今日ここへ来たのは、緑にきちんと僕の気持ちを伝えるためだったのに・・・

なぜ、今になって混乱する?

僕は気持ちを落ち着けるかのようにカップを口に運んだ・・・

ふとカウンターに目が行く

荒いものをするマスターの前の席に、アキが座っていた

僕の目を見ている・・・アキは微笑むと静かに頷いた

カランベルドアの呼び鈴が鳴った

扉に目をやる・・・扉は開かなかった

カウンターに目を戻す・・・アキの姿はなかった

・・・・・

「・・・緑・・・」

僕は俯く緑に向かって言葉をかけた

・・・・・

窓から差し込む西陽はやんわりと温かかった

外の喧騒とは裏腹に店の中には静寂があった

僕と緑は店を出た

カップを片付け、テーブルを拭くマスター

手にした「予約席」の札・・・

陽にやけたその札を静かに破り捨てる

「・・・アキ・・・よかったな」

カウンターに戻り引き出しから手紙を取り出す

宛名は・・・・・「お兄ちゃんへ」

「アキ・・・大丈夫だよ、あの二人きっと幸せになる・・・」

遠ざかる二人の背に向かいつぶやいた


fine・・・・・