あの街を出てから、僕は何軒かの病院に従事した

だけど、その度にアキの姿を追い求めている自分がいた・・・

僕は医者を捨てた・・・いや、捨てようと思った

・・・・・

ある田舎町の診療所へたどり着いた僕・・・

年老いた院長だった

見も知らぬ僕を我が子のように接してくれた院長・・・

無力感の塊だった僕の心に一筋の光が産まれた

毎日のように訪れる町の人々

病気でもないのに会話をしたくて集まってくる

《なんだ、こいつら・・・ここは集会場じゃないんだ!いいかげんにしろ!》

声を荒げたくなるときもあった・・・

そんなとき、院長はいつも僕の後ろにいた

肩をたたかれ振り向いた僕に院長はいつも微笑んでくれた

やがて、僕は人々の会話に加わるようになった

自分でも気づかぬうちに心は穏やかになっていった

アキと緑との想い出・・・

いつしかそれを懐かしんでいる自分がいた

吹っ切れたのか・・・それとも・・・

ふと、緑のことを考えた

彼女の力になってあげられなかった僕・・・

どれだけ辛い思いをしたのだろう

いつの間にか僕の中に緑がいた・・・

《しゅう・・・お前ひどくないか?アキが死んでまだ1年足らずなんだぜ・・・

それなのにもう、別な女に走るのかよ・・・》

そう言う、もう一人の自分がいた・・・

でも、緑に逢いたかった

ただひとつ、恐かった・・・

逃げるように街を出た僕を緑がどう思っているのか・・・

・・・・・

彼女がまだ、あの街にいることは友人に伝え聞いて知っていた

駅を降り、彼女がいる病院へタクシーを走らせる

少し手前でタクシーを降り僕は歩いた

もともと内科だった彼女は今、心療内科にいるらしい・・・

病院の門を入ると木立に覆われた庭がある

数人の患者が看護士と一緒に庭にいた

その中に緑はいた

長かった黒髪はカラーリングされ肩までの長さにカットされていた

でも、相変わらず緑の笑顔は癒される・・・

近づく僕の気配を察したのか、緑が振り返った

一瞬、小首をかしげる緑

でも、次の瞬間彼女の目からは大粒の涙が零れ落ちていた

「・・・ただいま・・・」

「・・うん・・・おかえりなさい・・・」

僕と緑の時が始まった



第3話 「 愛すること 」 へ続く