「親(家族)の悪口と、名前を侮辱することだけは絶対にしてはならない」


小学校低学年くらいの時に、母だったか、学校の先生だったかが言ったのを覚えている。


家庭に関することには、皆沸点が低くなる。

自分を悪く言われる分には我慢できても、親の悪口は許せないものだ。

また、名前は親からの初めてのプレゼント。
名前を侮辱されるというのは、親を侮辱されるのと同じ。だから決して名前を侮辱してはならない――。




私の祖母はアルツハイマーだ。
夫の父もアルツハイマーだ。
祖母も父も、似たようなもの。

私の場合、私が主に祖母の介護をしていた時期もあるし、実家に帰った時は祖母を目の当たりにしている。

しかし夫は、実家には滅多に帰らないし、帰っても長居しない。義母も、息子には何も言わない。
だからか、自分の父の具合を全く分かっていない。
いや、分かりたくないのか。


夫の実家に帰って、義母と一緒に夕食を作った時、私は義父の具合を聞いた。

やはり祖母と同じで酷い状態で…、でも複雑な事情もあり、預けることも、愚痴を言うことも出来ない。


私は夫に、義母から聞いた義父の具合を話した。

しかし夫は信じない。
信じたくないんだろう。


事実を受け止めたくない気持ちは分かる。
私も祖母の時そうだった。

でも、私は受け止めざるをえない環境にいたし、嫌でも受け止め、アルツハイマーという悪魔と闘っている…。

夫の場合、ずっと事実から逃げられる環境にいた。
中高は寮に入っていたし、大学から一人暮らししてからは実家には滅多に帰らない。


――今の父の姿が見えていない。


見ようともしない。


私が何度義母から聞いた話をしても、毎回「そんなの知らない」と言う。


夫の中では、
私の祖母は“異常”。
自分の父は“正常”。



夫は、自分が一番。
自分以外の人間が何を考えているかなんて興味がない。

だから時にすごく差別的な発言もするし、軽率な発言もする。


それを悪いと思っていない。
悪いことと思えない。


そんな夫の一面をすごく恥ずかしく思うし、軽蔑さえしてしまう時もある。

他にどんないい所があろうと、その発言だけで全てを台無しにしてしまうような発言、態度――。


でも、なぜだろう。
夫を嫌いになれない…。
それどころか愛してる。



とはいえ、愛してるからといって、何でも許せるわけではない。


私は嫁いだ身で、夫の家族にはなったが、私を育ててくれた家族も大切に思ってる。


私の祖父、祖母、母、兄…。


侮辱されたら許せない。
愛する夫からであろうと。



寝起きの機嫌が極端に悪い夫。
毎朝散々悪態をつく。

しかし、仕事に行く前に、さらに機嫌を損ねないよう、腫れ物にさわるように、優しく優しく対応するんだ。

家計を稼いで来てくれることに感謝してる。
職場ではストレスも溜まるだろう。
だから家では出来る限りストレスを溜めないでほしい。


しかし――。

2月5日朝。
祖母を侮辱する発言をした。


自分の父は棚に上げて、「アルツハイマー」に関する侮辱的な発言をした。


――ふざけるな。お義父さんもじゃないか。


嫌味を言わずにはいれなかった。

「そうだね。大変なんだよね。

…お義父さんもね。」



夫はキレた。



怒鳴り、物を投げ、
自分の父を擁護し、父の様子など聞いていないと言い、さらに祖母の悪口を言い、私に悪態をつき、仕事に出た――。




「…お義父さんもね。」
たったこれだけでキレた夫。


自分はどれだけのことを言った?




こういうとこ――


大嫌い――。

大嫌い――。