気が狂いそうな中、
何が真で何が偽なのか…
私は分からなくなっていた。
恋愛と結婚は別?
愛されて結婚するのが幸せ?
渦巻いて何も見えない。
でも、たった一つ分かること。
それは、
私の愛する人は一人だけ。
結婚相手も、あの人しかいない。
――愛って何だろう?
目に見えないモノ信じられる?
所詮、自分が愛されているかなんて分からない。
他人の気持ちを分かろうとするなんて、おこがましい。
“愛されている”なんて他力本願で抽象的な虚像に騙されたりはしない。
“愛してる”自分の気持ち以外、それは不確かで推測の域を脱しない。
――自分を信じる。
確かなモノに従う。
―性格ヤバイよ?
でも好きなの!
―就職ないよ?
私が働く!
―幸せになれないよ?
幸せだよ!
「恋愛と結婚は別」なんて、ちゃんちゃらオカシイ
。
別だなんて思ってた自分に腹が立った。
一瞬でも揺れた自分を恥じた。
愛する人に対する罪悪感に押し潰された。
しかし、このような状況になってもなお、
母は弁護士との結婚を望んだ。
「恋は盲目。幸せになってほしいの。」
――幸せって何だろう。
子どもの幸せを願わない親はいないはずだ。
母は本気で私に幸せになって欲しくて言っているんだ。
「弁護士夫人の座を見す見す捨てる!?情けない…」
「あんな男にうつつ抜かして。情けない…」
「頼むから別れなさい。あんたが苦労するのが目に見えてる。情けない…」
――母に泣かれた…
情けない、情けないと泣く母。
私はどうすることも出来なかった。
母の期待に添えない自分に苛立った。
この頃、まだ弁護士さんは「キープでもいいから」と、懲りずにしつこく言い寄って来ていた。
この人が狂っているのか、私を狂わせたいのか。
母も狂っていたのかもしれない。
私のために高級な着物を購入した。人間国宝の作家先生が作った着物らしい…。
「今ならまだ間に合う。
相手は弁護士さんでしょ。うちは片親やし、家柄がいいわけでもない。
せめて着物だけでもちゃんと持たせないとね。」
それはとても美しい着物で、私は、その美しさに比例するかような多大な圧力を無視することは出来なかった。
私は常々、彼は猫みたいだと言ってきた。
それでだろう。
帯には猫の刺繍が施されている。
「これで我慢しなさい。」
私が愛する人を選んだらどうなるの…
こんなの買われたら…
どうしたらいいの…
お金…
大丈夫なの…
これまでずっと、母の期待に添って生きてきた。
それは私が望んでしてきたこと。
母の喜ぶ顔がみたいから。
それが私の幸せだから。
でも…
無言の圧力でそれを強いられた。
自分の意思なんてなかった。
病的だった…
ということに気付かざるを得なかった。
出来ることなら気付きたくなんてなかったのに。
自分が結婚したい相手は分かってる。
母が私に結婚して欲しい相手も分かってる。
期待には…
添えない。
私の幸せ…
母の喜ぶ顔?
私はその時、どんな顔してる?
――死にたいと思った。
「死にたい」なんて簡単に口にしちゃいけない。
簡単に死を口にする人間は最低だ。
私は最低だ。
でも当時は、当時なりに本気だったんだ。
私は、愛する男に会いに行った。
連絡がつかなくても、バイト先に行けば会える。
私こそストーカーだな…と自嘲的に笑う。
バイト終わりの彼は、汗と仕事の香りがする。
やっぱりこの人しかいない。
一部始終を話す。
この人はいつだって、聞いてるんだか聞いてないんだか…
相槌を打つことを知らない。
人の目を見ることを知らない。
それでも、じっと黙って聞いているんだ。
これがこの人の集中している顔。
その横顔が大好きなことを彼は知らない。
愛する男に言った。
「一緒に死んで」と。
愛する男は答えた。
「一緒に死ぬなら、一緒に生きよう」と。
“一緒に死ぬなら、一緒に生きよう”
生と死は対極ではないんだ。
同じ性質のもの。
死ぬというベクトルを生きるというベクトルに変えるには十分な言葉だった。
志賀直哉の「城の崎にて」
言ってることは同じだと思うんだ。
短編にまとめあげた志賀直哉も素晴らしいけど、
「一緒に死ぬなら、一緒に生きよう」という一言にまとめあげた、私の愛する人も素晴らしいと思うのは、やはり私が夫を愛してるからなのかな。
これが、私の志賀直哉「城の崎にて」と言えば思い出すお話。
********************
彼は、私が他の男に揺れたことを責めることはしなかった。
むしろ彼の中で何かが変わったようで、就職についても真剣に考え出したようだ。
バイト先の店長に、就職をお願いしたら、OKの返事をもらった。
しかし推定月給10万。
それでも、初の内定は涙が出る程嬉しかった。
母を喜ばせようと、バイト先の内定がもらえたことを伝えたのだか、
また「情けない」と泣かす結果となってしまった。
その反応には私も理不尽で、母とはしばらく口を聞かなかった。
その後、相変わらずノラリクラリと過ごしたが、
最後には、皆を唸らせる逆転ホームラン就職を決めるとは、この時の私には想像もつかなかった。
何が真で何が偽なのか…
私は分からなくなっていた。
恋愛と結婚は別?
愛されて結婚するのが幸せ?
渦巻いて何も見えない。
でも、たった一つ分かること。
それは、
私の愛する人は一人だけ。
結婚相手も、あの人しかいない。
――愛って何だろう?
目に見えないモノ信じられる?
所詮、自分が愛されているかなんて分からない。
他人の気持ちを分かろうとするなんて、おこがましい。
“愛されている”なんて他力本願で抽象的な虚像に騙されたりはしない。
“愛してる”自分の気持ち以外、それは不確かで推測の域を脱しない。
――自分を信じる。
確かなモノに従う。
―性格ヤバイよ?
でも好きなの!
―就職ないよ?
私が働く!
―幸せになれないよ?
幸せだよ!
「恋愛と結婚は別」なんて、ちゃんちゃらオカシイ
。
別だなんて思ってた自分に腹が立った。
一瞬でも揺れた自分を恥じた。
愛する人に対する罪悪感に押し潰された。
しかし、このような状況になってもなお、
母は弁護士との結婚を望んだ。
「恋は盲目。幸せになってほしいの。」
――幸せって何だろう。
子どもの幸せを願わない親はいないはずだ。
母は本気で私に幸せになって欲しくて言っているんだ。
「弁護士夫人の座を見す見す捨てる!?情けない…」
「あんな男にうつつ抜かして。情けない…」
「頼むから別れなさい。あんたが苦労するのが目に見えてる。情けない…」
――母に泣かれた…
情けない、情けないと泣く母。
私はどうすることも出来なかった。
母の期待に添えない自分に苛立った。
この頃、まだ弁護士さんは「キープでもいいから」と、懲りずにしつこく言い寄って来ていた。
この人が狂っているのか、私を狂わせたいのか。
母も狂っていたのかもしれない。
私のために高級な着物を購入した。人間国宝の作家先生が作った着物らしい…。
「今ならまだ間に合う。
相手は弁護士さんでしょ。うちは片親やし、家柄がいいわけでもない。
せめて着物だけでもちゃんと持たせないとね。」
それはとても美しい着物で、私は、その美しさに比例するかような多大な圧力を無視することは出来なかった。
私は常々、彼は猫みたいだと言ってきた。
それでだろう。
帯には猫の刺繍が施されている。
「これで我慢しなさい。」
私が愛する人を選んだらどうなるの…
こんなの買われたら…
どうしたらいいの…
お金…
大丈夫なの…
これまでずっと、母の期待に添って生きてきた。
それは私が望んでしてきたこと。
母の喜ぶ顔がみたいから。
それが私の幸せだから。
でも…
無言の圧力でそれを強いられた。
自分の意思なんてなかった。
病的だった…
ということに気付かざるを得なかった。
出来ることなら気付きたくなんてなかったのに。
自分が結婚したい相手は分かってる。
母が私に結婚して欲しい相手も分かってる。
期待には…
添えない。
私の幸せ…
母の喜ぶ顔?
私はその時、どんな顔してる?
――死にたいと思った。
「死にたい」なんて簡単に口にしちゃいけない。
簡単に死を口にする人間は最低だ。
私は最低だ。
でも当時は、当時なりに本気だったんだ。
私は、愛する男に会いに行った。
連絡がつかなくても、バイト先に行けば会える。
私こそストーカーだな…と自嘲的に笑う。
バイト終わりの彼は、汗と仕事の香りがする。
やっぱりこの人しかいない。
一部始終を話す。
この人はいつだって、聞いてるんだか聞いてないんだか…
相槌を打つことを知らない。
人の目を見ることを知らない。
それでも、じっと黙って聞いているんだ。
これがこの人の集中している顔。
その横顔が大好きなことを彼は知らない。
愛する男に言った。
「一緒に死んで」と。
愛する男は答えた。
「一緒に死ぬなら、一緒に生きよう」と。
“一緒に死ぬなら、一緒に生きよう”
生と死は対極ではないんだ。
同じ性質のもの。
死ぬというベクトルを生きるというベクトルに変えるには十分な言葉だった。
志賀直哉の「城の崎にて」
言ってることは同じだと思うんだ。
短編にまとめあげた志賀直哉も素晴らしいけど、
「一緒に死ぬなら、一緒に生きよう」という一言にまとめあげた、私の愛する人も素晴らしいと思うのは、やはり私が夫を愛してるからなのかな。
これが、私の志賀直哉「城の崎にて」と言えば思い出すお話。
********************
彼は、私が他の男に揺れたことを責めることはしなかった。
むしろ彼の中で何かが変わったようで、就職についても真剣に考え出したようだ。
バイト先の店長に、就職をお願いしたら、OKの返事をもらった。
しかし推定月給10万。
それでも、初の内定は涙が出る程嬉しかった。
母を喜ばせようと、バイト先の内定がもらえたことを伝えたのだか、
また「情けない」と泣かす結果となってしまった。
その反応には私も理不尽で、母とはしばらく口を聞かなかった。
その後、相変わらずノラリクラリと過ごしたが、
最後には、皆を唸らせる逆転ホームラン就職を決めるとは、この時の私には想像もつかなかった。