でびノート☆彡

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映画監督/演技講師 小林でび の「演技」に関するブログです。

 

ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』!!!
・・・なんかすごいもの見ちゃった感ありましたねーw。

主演の杉咲花さんと若葉竜也さんの演技・・・地上波のテレビドラマで、あんなに小さな声で喋るなんて! あんなに小さな表情の変化で大きな情感のうねりを表現するなんて!
そして何よりも、その「小さな小さな芝居」が、ちゃんと一般の視聴者の心に届いて大ヒット作になるなんて・・・!
 
そう、届いたんです。あんなに小さな小さな芝居が。
あの若葉竜也さんの小さな小さな芝居が、杉咲花さんの心にしっかり届いて、小さな小さな反応を起こしている・・・そして杉咲さんの中で起きる「小さな小さな変化」が画面にしっかり映って、視聴者にもその波紋が届いている。
いや~それは俳優だけでなく撮影も素晴らしかった。
 
『アンメット』の芝居はむしろ小さいからこそ、従来のテレビドラマっぽい大げさで説明的な芝居では伝えることが出来ない「親密さ」のディテールを大写しで視聴者に見せることに成功したのでしょう。
そして2020年代の日本人の心を動かすためには、日本の俳優もこれを演じるべきだと思うのです。

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静かな、心に刺さる芝居。

『アンメット』の芝居と言えばやはり14分間の長回し、第9話の後半の夜の医局のシーンでしょう。 ミヤビと三瓶のリラックスした雑談が、やがて静かに心の扉が次々と開いてゆく・・・その「親密さ」にドキドキしましたね。
 
俳優って人物の心が動く瞬間に、よく表情を作って「心が動いてます」という演技をしたりするんですが、杉咲さん若葉さんは違うんですよね。
むしろその真逆で、深く心が動く瞬間、芝居が「静止」するんです。

夜の医局のシーンのその前のミヤビが大迫教授と話しているシーンからずっとそうなんですが、ミヤビの心が深く動いてる瞬間って、たいていミヤビはただじっと相手を見つめている。もしくはじっと自分の心を見つめているんです。
 
で、それはほとんど「無表情」に見えるんですが、じつは無表情ではなく、無数の「小さな小さな情感の揺れ」が演じられているんです。
 
そして杉咲さんは、そんな「ニュートラル」な状態からすっとセリフを喋り出すので、視聴者にはミヤビが次に何を喋り出すのか予測がつきません。なのでセリフが心にトンと刺さるんです。
 
「わたしだったら・・・嬉しかったと思います」
 
「たぶん光は・・・自分の中にあったらいいんじゃないですか」
 
「三瓶先生は、わたしのことを灯してくれました」
 
すごく静かな、でも心に刺さる芝居。
こんなわけで『アンメット』の小さな小さな芝居は「一見無表情に見えるんだけど、情感の深いディテールに溢れていて、しっかり伝わってくる」のです。

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Netflixの棚に並ぶということ。

従来のテレビドラマ的なわかりやすく大げさに、説明的に演じられた芝居は、前ぶれが沢山あるので次のセリフの予測が立ちやすいんですよね。つまりネタバレしているので心に刺さりにくいんです。
だから相手の心に刺さらないので、相手役はまた「刺さった」という大げさな芝居をせざるを得なくなる・・・悪循環なのです。
 
テレビドラマの芝居が「①セリフ中心」で、「②感情表現が大げさ」で、「③説明的」なのは、テレビの視聴者がご飯を食べながらとか、洗濯物をたたみながらとか、「ながら」で見ているから、というのは昭和の時代からよく言われる事でした。
 
でも今の時代、たとえばこの『アンメット』も放送されたらすぐにNetflixに上がるんですよね。つまり視聴者は「ながら」でなく、自分の好きなタイミングでじっくりと見ることが出来るんです。お茶とかを入れ終わってから、腰を据えて・・・そうしたら別にもう大げさでわかりやすい芝居を演じる必要は無いじゃないですか。
 
しかもNetflixに並ぶという事は、もっともっと大予算の映画だったり、世界中の名優が演じる素晴らしい作品群と競い合う、という事ですよね。
大げさでわかりやすくするために、ディテールを軽視した演技をさせるべきではないですよね。そういう意味でも『アンメット』はテレビドラマの演技の歴史を変えるような、そんな意義深い作品だったと思います。
 
しかも『アンメット』のこのディテールたっぷりの「小さな小さな芝居」、これクライマックスシーンだけで行われているわけじゃないんですよね。
仕事中のシーンとか飲み会のシーンとか、そういうシーンでも杉咲さん若葉さんはあの演技をしていましたよねw。覚悟を感じました。

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巻き込まれて、飲み込まれて。

さてこの「小さな小さな芝居」って、芝居の最中に俳優さんがかなり深いところまで役の人物とシンクロしていて、役の人物として世界を見ていて、役の人物として感じ、役の人物として心を動かされているからこそできる演技だと思うのです。

「演技プラン」みたいなことで演じられる領域ではない。

脚本を徹底的に理解して、でそういう状況の中でその役の人物がどのように感じているのか?を徹底的に洞察して実際に感じてみる、みたいなことをして、「実際に脚本で起きている状況に巻き込まれて、飲み込まれて」「役の人物として実際に体験している」からこそできる芝居だと思うのです。
 
だからこそあれだけの「意図的にコントロールできない系の表情」が画面に映っているのだと思います。
 
いや~圧巻でした。杉咲花さんと若葉竜也さんの圧倒的なディテール。
そして脇を固める俳優さん達も「ギバー」に徹して、主演の2人の心を動かすことに集中している俳優さんが多かったですよね。それも素晴らしかった。
 
杉咲さんの食事のシーンも好きだったなあ。本当に美味しそうに食べてた。
ちゃんと「これが食べたい!」という衝動が伝わってきて、そして口に入れた時のその料理を食べる喜びが、ミヤビの心と身体を駆け巡っているのが視聴者に伝わってくる・・・これもまた素晴らしき「小さな芝居」でした。
いや~すべてが目が離せなかったです。
 
以上ドラマ『アンメット』の演技の感想でした。
続編やるかもらしいですよね。やって欲しいなあ。
 
小林でび <でびノート☆彡>