サラリーマンエッセイ

サラリーマンエッセイ

サラリーマンのおバカな毎日を綴ります

サラリーマンが体験した非日常をお伝えします



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 T急TY線はその名が示すとおり東京(渋谷)と横浜を結ぶ私鉄である。
かつては渋谷と桜木町を結んでいたが、今は横浜から先、元町・中華街
までの間をMM線と呼ぶ。
TY線は田園調布や自由が丘という駅があることもあってか客層の品
はとてもよい。
多分痴漢の発生件数も少ないのではないだろうか。
 いつもの月曜の朝、私がK名駅でTY線に乗り換えて、勤務先に向かう
時の事である。
 K名駅での電車は特急も急行も超満員である。
赤の他人と密着することが大嫌いな私は、いつも少しすき間のある各駅停車
を選ぶ。
その日も乗り込むと、車内の中程に進みつり革につかまった。
 この日私は一番のお気に入り、厚さ4センチという薄型のアタッシュケース
を持っていた。
アタッシュケースは肩にかけられず、硬く重い。
だから混みあった車内では、アタッシュケースを手に持っていると他の乗客に
迷惑をかけることがある。そこで網棚の上に置くことにした。
 私の隣には30代半ばほどと見られる婦人が立っていた。
多分OLだろう。この女性の名前を仮に圭子としよう。
 圭子は独身でアパレル関係に勤めている(に違いない)。
現在は彼氏もなく、社内で8年不倫関係を続けている上司がいるのだが、二人の
関係も最近は冷めかけている(のではないだろうか)。
 圭子が立っている正面の座席には、真新しいランドセルを背負ってセーラー服
を着た女の子がちょこんと座っていた。
この女の子の名前をかおりちゃんとしよう。
かおりちゃんの父親はIT関係の会社に勤めており、母親は専業主婦である
(と思う)。
 このように朝のTY線では横浜市内から都内の私立小学校に通う可愛い制服姿
の小学生が多く見られる。
 K名から電車が出て、しばらく外の風景を眺めながら、今日の仕事のプランに
想いを馳せていた時、車内の様子がおかしいことに気付いた。
そちらに目を移すと、かおりちゃんがとても気分悪そうにしていたのだ。
 どうもかおりちゃんは満員電車に酔ってしまったのだろう。
そして気分が悪くなり、ついには嘔吐してしまったのだ。
量は少なかったがかおりちゃんの吐瀉物が圭子のスカートにかかってしまった
のだった。
 すばやく周囲の大人達がかおりちゃんを介抱し、圭子はスカートに付着した
吐瀉物を拭き取って事態は収拾された。
かおりちゃんの体調も回復した様子だ。
 「ごめんなさい」と小さな声で圭子に謝罪すると、圭子は「大丈夫よ」
と笑顔で返した。
車内には安堵と同時に再びいつものブルーマンデーの朝のような少し憂鬱な
雰囲気に戻りつつあった。
 しばらくすると電車はM吉駅に到着し、乗客を呑み込むと発車し始めた。
私の目的地は次のM杉である。
 目的地に着いたら素早く降りようと体勢を作るべく網棚の、お気に入りの
アタッシュケースに手を伸ばした。
アタッシュケースの側面を右手でつかみ少し持ち上げたその瞬間、電車の
ブレーキが強めにかかり進行方向にガクンと揺れたのだ。
 右手の力が弱まり、アタッシュケースが滑り落ちた。
そしてアタッシュケースの角の部分が圭子の頭に勢いよく当たり、そこで
止まったのだ。
 おかげでアタッシュケースが床に落ちる難は逃れられたのだが、圭子は
小さく「ウッ!」と唸り、頭を手で抱え込んだのだ。
 私はあわててすぐ謝った。
「どうもすみません。申し訳ありません。大丈夫ですか?」
圭子は「だ、大丈夫です・・・」と答えたのだが、顔は苦痛でゆがんでいた。
恐らくその場にうずくまってしまいたいくらいの激痛に耐えていたに
違いない。
 まもなく電車はM杉に到着し扉が開いた。
私はもう一度圭子に謝って、逃げるように電車を降りたのだった。
 圭子にとってゲロはかけられるは、頭にカバンをぶつけられるはと散々な
月曜だったに違いない。
 その後の一日は無事に過ごせたのだろうか?
文字通りのブルーマンデーだったはずだ。
今でも私はそれを想い出し苦笑してしまうのだ。
の力が弱まり、アタッシュケースが滑り落ちた。
そしてアタッシュケースの角の部分が圭子の頭に勢いよく当たり、そこで
止まったのだ。
 おかげでアタッシュケースが床に落ちる難は逃れられたのだが、圭子は
小さく「ウッ!」と唸り、頭を手で抱え込んだのだ。
 私はあわててすぐ謝った。
「どうもすみません。申し訳ありません。大丈夫ですか?」
圭子は「だ、大丈夫です・・・」と答えたのだが、顔は苦痛でゆがんでいた。
恐らくその場にうずくまってしまいたいくらいの激痛に耐えていたに
違いない。
 まもなく電車はM杉に到着し扉が開いた。
私はもう一度圭子に謝って、逃げるように電車を降りたのだった。
 圭子にとってゲロはかけられるは、頭にカバンをぶつけられるはと散々な
月曜だったに違いない。
 その後の一日は無事に過ごせたのだろうか?
文字通りのブルーマンデーだったはずだ。
今でも私はそれを想い出し苦笑してしまうのだ。
以上
『S鉄道線の終電にて』

 横浜を起点にして、郊外へと延びるS鉄道線は、神奈川県内を走る鉄道
の中でもとりわけローカル色の強い路線である。
1,2年前の事である。私がいつものように勤めを終えて帰宅しようと横浜駅
から海老名方面行きの相鉄線最終電車に乗った時の体験だ。
私が終電に乗ることになってしまったのは酒を飲んだからではなく、仕事
で時間がかかり、終電に間に合うように切り上げて会社を出たからだった。
 どの路線でもそうだが、終電間際の時間帯は朝のラッシュに匹敵する
ほどの混雑ぶりを示す。
さらにほとんどの乗客が酒を飲んでいるので、車内はアルコール臭が充満
し、素面(しらふ)の人間には憂鬱の種になる(自分が酔っている時は何とも思わ
ないくせに)。
 横浜駅が始発とはいえ、座席は既に埋まっていた。私は、前方寄りの
比較的空いている車両に乗り込み、ドアの奥側に立つと、程なく発車の
音楽が鳴り始めた。
音楽が終わると同時に一人の女性が駆け込んできた。
年齢は20代半ば、濃いめの化粧、派手なミニスカートをはいていた。

 この女性の名を仮に蘭子としよう。蘭子はかなりのお酒を召しており、
明らかに酩酊状態一歩手前で、体が揺れていた。
電車が走り始めると蘭子は揺れる体を支えようと、入り口の座席横の握り棒
に身体を預けていた。
そしてうつろな半白眼で車内を見渡しているのだった。
当然こんな蘭子の様子を周囲の乗客達は、醒めた目でながめているのだった。
次の駅H橋に着くと、ショルダーバッグを掛けスポーツ新聞を持ったおじさんが乗り込んできた。
彼を仮に正蔵と名付けよう。
正蔵は私と同様、仕事帰りで明らかに素面(しらふ)だった。
毎日の帰宅時に終電を利用する真面目な労働者である(と思う)。
年齢は50代半ばくらいだろう。
一方蘭子は立って寝ていたのかと思ったが、依然として半白眼で周囲に
挑むような視線を投げかけていたのだ。
 私を含め車内の人々は蘭子への興味も薄れ、それぞれ物思いにふけようとしていた(と思う)。
まあ、そうして蘭子と視線を合わせないようにしていたという表現が正しいだろう。
ところが正蔵は少し違った。乗ったばかりなので、蘭子を理解していない。
ほんの一瞬蘭子を見たのだ。
その時、蘭子はこの一瞬を逃さなかった。

 突然、「何見てんのよ―!」という蘭子の声が静けさを打ち破ったのだ。
その声は当然正蔵に向けられていた。正蔵は瞬間読みかけの新聞に視線を戻
したのだが遅かった。
蘭子はさらに
「あんた!何見てんのよ―、このスケベ!!」
と叫んだのである。
正蔵は気付かないふりをして蘭子の言葉を無視していたが、
蘭子の執拗な追求に、ついに
「見てないよ―」
と言い返したのだ。その声は若干震えていた。
次の瞬間、蘭子は正蔵の言葉も聞かず
「見てんじゃね―よ!」
と言いながらすさまじいタックルをかましたのである。
急襲を受けた正蔵はたまらずバランスを崩しかけたが、何とか持ちこたえ
蘭子を押し返した。
しかし蘭子はいっこうに攻撃の手を緩めない。
「水商売だと思って馬鹿にすんじゃないわよ――」
と叫び、再びタックルをかけ、同時に大外刈りをかけた。
社内の人たちはここで
「やっぱ、水商売だったのか」
と納得したに違いない。
そして正蔵はたまらず床に尻餅をつき、蘭子も勢いで床に転がった。
正蔵が水商売の女だと思って馬鹿にしていたとは思えない。
だって知らなかったはずだから。
数人の乗客が蘭子を押えようとしたが、いくつかの駅を過ぎても
蘭子と正蔵のもみ合いはさらに続いていた。

 そこへ後方の車両から移動してきた3人連れの若者がやってきた。
その若者達はこの異常な光景を目の当たりにした。
この若者達もまたアルコールが入っていて、はしゃぎながら歩いていた
のだが、蘭子と正蔵の姿を見つけて会話を止め、一瞬のうちにこう判断
したらのだろう。
「痴漢だ!」
と。
3人の中でも最も血の気の多い男、彼を達也としよう
達也はすぐさま蘭子を車内の角に追いやり、その後正蔵を投げ飛ばしたのだ。
そして「何いやらしい事してんだよ―!このおやじ―!」と言いながら床に
這いつくばる正蔵に蹴りを入れたのである。
正蔵はたまらず身体を丸めてこの蹴りに耐えていた。
そして達也が少し攻撃を休めた瞬間、正蔵は別の車両へと逃げて行ったの
だった。

 この時点で乗客はかなり減り始め、私も中程の座席に座っていた。
正蔵にもこれが幸いしたようで、この場から速やかに離れることができたのだ。
達也は蘭子の方を振り返り
「さあお嬢さん、痴漢はやっつけましたよ。お怪我はありませんか?」
と言う表情を投げかけた。
しばらく成り行きを見守りながら息を整えていた蘭子は果たして達也に礼を
言うのか?と注目していたら、再び意外な行動に出る。
「余計なことするんじゃないわよ―!」
と言いながら正蔵に食らわせたのと同じタックルを達也にかませたのだ。
達也はさすがに若い。体勢を崩すことなくこのタックルを受け止めた。
しかしこの意外な行動に納得がいかない表情であった。
「せっかくたちの悪い痴漢を追っ払ってやったのによ―」
といった心境だろうか?
そして今度は達也が蘭子を投げ飛ばしたのだ。
蘭子のスカートは既に上までめくれ上がり下着が露わである。
それでも委細構わず立ち上がって達也に襲いかかっていく。
すさまじい根性だ。
ついに達也は切れた。
「この酔っ払い女!!」
と罵声を浴びせながら蘭子の髪をつかみ、K川という駅で引きずり降ろした
のだ。
発車の音楽が鳴っても達也と蘭子は戻ってこない。
私の席から2人の様子は見えない。
心配した達也の仲間は
「おい達也!早く乗れよ!電車もうねぇぞ―!」
と声をかける。
しかしそれでも達也は乗ってこない。
「俺は乗らない!先に行っていいぞ!」
達也はそう言い残して車内の仲間に別れを告げたのだ。
2人の若者も諦めて一緒に降りることはしなかった

やがて電車は走り出し車内は静けさを取り戻したのだった。
その後の達也と蘭子はどうしたのだろう。 
もう上りも下りも電車はない。
達也は蘭子を駅員に突き出したのだろうか?
ひょっとして2人の間に愛が芽生えたとか?(それはないか)
2人はそれぞれタクシーで帰ったのだろうか?
きっと蘭子はお店で辛いことがあったに違いない。
蘭子にとって最悪の日だったのだろう。
そして達也にとっても、正蔵にとっても。


以上