ゴロウのトイレは人間のトイレの前にかろうじてあるスペースに置かれた。
これがちょうど良い。
人間が用を足す場所に自分の用を足す場所がある。
ゴロウもタカタカ一人前に歩けるようになると、寝床とトイレは別になり、その区間がだいぶ広がった。
しかし、その時の私は知らなかった・・・。
ゴロウが私の後を追ってトイレに侵入していたことを。
振り返ると見上げた子猫がちょこんと座っていた。
つぶらな瞳で私のトイレシーンを見ていたのだ。
我が家は借家ではあるが、一戸建てであり、なかなかの広さだった。
1階に和式トイレ、2階に洋式トイレがある。
私は子供の頃、トイレのドアをきちんと閉めない子だったので、
わずかな隙間から小さな頭をぐりぐり押し当て、自分の体が通れる隙間を作り、
おしりを向けた私の様子をずっと見ていたのだ。
「!!!っ」
「ゴロウ!!」
こんな子猫相手でも見られていたと思うと、カーッッと恥ずかしさがこみあげてくる。
「も~、なんでいるの!?ゴロウ!?」
ゴロウは子猫らしく無垢な瞳で見つめ返してくる。
(・・・・・・・・。)
この時は知らなかった。
ゴロウがとんでもなく学習能力のある猫だとは思わなかった。
ゴロウも大人になった頃、ある日、トイレのドアを開ける私。
ふと振り返った先客。
ゴロウだった!!
ゴロウは和式便器を器用にまたぎ、振り返って私と目が合っている。
茫然と私は見つめ返す。
ゴロウは何でもない様子で次の行動に移す為、足場を変えながら何かを試すように見えた。
私はゆっくりと目を動かし、ゴロウの様子を静かに見守った。
(声も出せない、目を疑うとはこのことか!?)
?ゴロウは考えを変えたようだ。
便器の前後、人間の使い方とは逆に、おしり側のカーブに前足を乗せ、頭側に自分のおしりを向けている。続いて後ろ足をサイドにうまくかけ、踏ん張るスタイルになった。
(まさかっ!!!)
まさかである!
ゴロウは人間と同じ様にやって見せたのだ。
用を済ませたゴロウは便器の中、水の上にプカプカ浮いている自分の物をじっと見下ろしている。
そして・・・
「やめて!ゴロウ!」
悲痛な私の声が響き、ゴロウは水の中に前足を入れ、かき混ぜている。
(砂をかける行為か・・・。砂は無いのに!?)
私は我慢ならず、ゴロウの前足をつかみトイレットペーパーで拭った。
そのまま洗面台まで運び、前足と後ろ足を石鹸で洗ってやった。
ふう、と一息つきゴロウを投げ出した。
タンッ!!
着地したゴロウはいかにも不快そうな顔をしている。
「失敬な!!」
とでも言いたげだ。
その顔が猫らしくもあり、高貴な人間をも想像させる。
(貴族か!?)
ゴロウは前足をチロチロ舐め、しっぽを苛立たしげに動かしている。
「も~!あれはあれでいいけど、やめてよね!」
なんだか褒めてやりたい半分、叱りたい半分である。
前足を便器に入れる前まではパーフェクトだったのだ。
いや、いけない。
これは褒めてやることなのだ。
ゴロウは悪くない。
気を取り直して、買い物から帰ってきた母に、ゴロウが今しがたやった事の詳細を説明してやった。
母は信じられない、という調子で笑っている。
私もゴロウを見ながら、先ほどの光景が信じられない、と腹の底から笑った。
ゴロウは「知らない。」という顔で、そっぽを向いている。
私たちの会話を理解しているのか、時折、耳だけがこっちにピコっと向いたりしていた。
余談だが、子猫のゴロウは外に出歩き始めた頃、庭から始め、徐々に出かける範囲を広げていった。
私は庭を散策しているはずの子猫の姿が見えないとふと気づいた。
(あれ?)
しばらくした後、探したほうが良いかと考え始めた頃、黒い子猫が弾丸の様に家の中に駆け込んできた。
(何か怖いもの、それとも他の大きな猫に出会ったのだろうか?)
「ゴ、・・・・。」
言いかけるも、ゴロウは私を素通りし、玄関の方向へ走って行った。
ダダダダダダ!(バッバッバッバ!)
絨毯にゴロウの爪が引っ掛かる音もついでに聞こえてくる。
彼が目指したものは・・・・、トイレだった。
(゜o゜)
追いかけて見たその先では、ゴロウが猫用トイレに収まり、カッと目を見開いている。
どうも、ブルブル小刻みに震えているようだ。
(そ、それほどまでに我慢して家に戻ってきたんだ・・・。)
私はあっけにとられ、息を飲み込んだ。
「ふっ!!!」
吹き出した途端、トイレで踏ん張っているゴロウを前に大爆笑してしまった。
ゴロウは大笑いの私など相手にしている様子はない。
だって、一大事だからだ。
この時も私は買い物から帰ってきた母に教えてやった。
何をしてもゴロウは私たちを大笑いさせてくれる、面白い猫だ。
ゴロウはどう思っているのか知らないが・・・。