ゴロウ、黒猫、男子、捨て猫

 小さな黒猫は目をつぶると顔がわからない。
鼻も黒いし、目を開けてくれないと顔のパーツがないみたいだ。
ちなみにこの子の目の色はダークブルーだった。

青い目なんて外国人みたいじゃない?
もしかしてこの子は海外から渡ってきたのかしら、と珍種扱いしていた。
(・・・ただの雑種で黒猫です。)

この子猫を友達の家に連れてきてざっと1時間くらいだったと思う。
友達のお父さんが会社から早退してきた。

 「!!!!」

もちろん、この情景を見れば、どこの親だって怒るだろう。
彼女の父親が顔を出した瞬間に私は凍りつき、私のせいで彼女が怒られるんではないかと不安がドッと押し寄せる。
私はすぐにこの子猫を外に連れ出す算段を立てていたが、間合いがわからない。
しかし、この子猫を連れ出すのはあっという間の出来事だった。
彼女の父親もあまり我慢強いほうではないのだろう、箱の中身を一瞬で理解したようで、友達が呼ばれる。
私も負けじと「あ、この子うちで飼うんで!」と即座に箱を持って立ち上がる。
(本当に飼えるのだろうか・・・。しかし、嘘でも言わないとまずい状況だと判断した。)

私は玄関まで来て靴を履き始めた。
彼女の父親に挨拶もしていない。
すぐそばで友達が怒られているのがわかった。
(もっと、彼女のために言い訳したほうがよかっただろうか・・・。)

それにしても私には、あの嘘の一言が限界だった。
「うちで飼うんで!」
勢いで言ったその無責任な言葉が頭の中でこだまする。

(何がなんでもうちの父を説得せねば・・・。)
友達の家のドアを締め、彼女が出てくるのを待っていた時、私は怯えて泣きそうだったが、父に挑む覚悟を決めていた。
打たれても、わんわん泣かされても、父の足にしがみついて離さない図を想像していた。
(まだ小学5年だっていうのに、父に頼み事するときは、必ず昼の連ドラ並みの惨劇を想像する私だった。実は今でもそうだ・・・。)

やっと彼女が出てきて、顔をみると「何でもない」って顔をしていたが涙が一滴伝っているのが見えた。
私は謝り、箱を抱えて帰っていった。

その後、私は家に帰るまでの間、ひたすらイメージトレーニングをしていた。
父に言うタイミング、この子猫を隠す場所・・・
まず、先程の友達の家での出来事が教訓となり、家に連れ帰って子猫を見せながら父に頼むのは、危険と判断したので、家から50mもないだろう小さな空き地に隠すことにした。鬱蒼と草が生えているので子猫の入った箱がまあまあ隠れる。
もちろん、隠す前に母に見せバックアップを要求する。
母は「あ~、わからないけど・・・まず頼んでみなさい・・・。」
まったく頼り甲斐がない母だった。

夜、父が帰宅する。(うちの父は帰宅時間が遅い。)
私はその日は諦め、子猫が無事でいるよう祈った。
次の日は学校がお昼で終わりなので、子猫回収の手順を考えながら眠りについた。

さて翌日、お昼に帰宅した私は、今から出かける素振りを見せている父を見て「チャンスは今しかない!」と猛烈に確信する。(なんだかいい波が来てるような気がする・・・絶対に!)
いつもどおり頑固そうで、すぐ怒鳴りそうな怖い父を前にオドオドしながらも昨日のイメージトレーニングを思い出す、が無理だった。

正座してやっと言った。
「子猫が飼いたい・・・。」
それ以降は、父がどういうことだと予想外の冷静な話方で促すが、生き物への責任やら、私には無理だとかポポの時はどうたらこうたらと続く。
私の勇猛果敢な熱弁をするイメージトレーニングとやらは吹き飛んで、ただ「飼いたいの・・・」「はい・・・」と小さく頷きながら涙を堪える図だった。
(もう、ダメなのだろうか・・・)
そこへ、父が意外な一言を発する。
「連れてきて見せろ!」