ポポの評判はよろしくなかったようだ。
評判と言っても子供の自分が聞いた噂など2~3件くらいのものだが、一体なんだったのだろう。
道を挟んですぐの床屋のおばさんは「あの猫!!このへんのボスだから~!」と言っていた。
(これは単に事実というより警告にも聞こえるかもしれない。ポポ猫を心良く思っていない人もいるのだろうか?)
このおばさんはここら辺の「噂好きもとい噂を流すババア」だったと覚えている。まあ、おしゃべりが過ぎるだけだったかもしれない。(母は苦手だったようだ・・・。)
もう一つはこれから話す出来事である。
ある日、私は庭の入口を出てすぐの道でポポとしゃがみこんでいる姿勢である。
もう1匹、野良だがメス猫がいる。キジトラ柄でよく見かけるタイプだ。
ポポとは喧嘩せず私たちは三竦み状態で何をするでもなくまどろんでいる。
この2匹は顔見知りなのか?とりあえずポポが許しているようだったから私は惣菜用のトレーにシラスをのせて、そのメス猫に与えてやった。メス猫がちょびちょび食べている時だった。
そこへ、当時の私より3歳くらいは年上であろう男の子が友達らしき者を一人引き連れて私たちの側にやってきた。
「あ!猫がいる。」
(このとき私は少し嫌な感じがしたかもしれない・・・。)
その男の子はポポを見て言った。
「あれ!?この猫・・・。」
「やっぱり、こいつだ!!」
「こいつ!うちの台所から魚を盗んだんだぜ!!!」
(!!!ポポが?うそ、この子はちゃんとうちでご飯を食べてるし、そんなことしない!!)
この子達が来てから私は一言も発することなく、この信じられない話を聞いて呆気た顔で見上げている。
いきなり男の子は目の前で信じられない事をした。
もしや!?と思ったがその体勢は予想通りの結果をしたのだ。
私の目の前で、男の子のつま先がポポの柔らかそうなお腹に思い切り当たる。
ドカッ!!!
私は悲痛な呻き声を聞いて恐怖におののいた。
(ポポっ!?)
ポポは隣の家の庭に逃げ込みわずか3メートルばかり先のところで苦しそうに唸っている。幸い、格子があって人間は追いかけることができない。
男の子は、ざまあみろ当然の報いだ、とばかりの顔をして満足気だった。
私はショックで震えながらポポの様子を見ているけれど声をかけることはできなかった。
その男の子はもう1匹のメス猫に目をつけたが何もしなかった。
「この猫は?大丈夫だな。こいつは可愛がっていいよ!」
キジトラのメス猫は男の子のブラックリストに入ってなかったようだ。
ポポが心配で駆け寄りたかったが声をかけることもできない。
早くこいつらに立ち去って欲しかった。
「おまえ、あの猫知ってるのか?」
この言葉に私は狼狽えたが、そのまま無言でいた。
何も答えない私にそいつらは、まあいいやと思ったのか、立ち去った。
・・・・・・・
私はとんでもなく卑怯者だと思った。
私が無言でポポに何もしてやらなかったのは、自分も蹴られるのではないか?という恐怖からだった。
乱暴な男の子達が立ち去った後、すぐに屏によじ登り隣の庭へ、ポポの側に行った。
人間にあんなことされて私からも逃げるのでは?と当時の私は考えていたのだろうか。そして何もしない私に裏切られたと思われたのではないか?
「ポポちゃん・・・ごめんね、ごめんね。大丈夫・・・?」
涙を流しながら謝るが、自分のしたことを許してもらおうと必死だったと思う。
とにかくポポは少し落ち着いてきた様子だった。
私は先にポポを屏の上へ押し上げ、続けて自分が屏によじ登り我が家の庭に戻った。
続けてポポを屏の上からそっと下ろす。
(子供というのは不法侵入にあまり罪悪感は感じない。そして登ることにはプロである猫を介助する私は少し変わっていたのだろうか。)
少し先になるが、この乱暴な男の子とは、その後2回ほど出会う。
1回は近所の道で子猫をいじめている場に遭遇した。
始め遊ばせているだけかと思ったら、自転車を器用に動かしスタンド部分をガツガツ子猫の頭にぶつけていた。最後には走行中の自転車から子猫を高く放り投げた。子猫はクルンと1回転し下手な潰れたような姿勢だがなんとか着地をした。(顎とか地面にぶつかってたと思うが・・・)
私がじっと見ていたら「見てんじゃねえ!!」と怒鳴られる。
2回目は工事中の空き地で高く盛り上がった土の上から私に石を投げつけてきた。ぶつかったときは本当に痛かった。私が逃げてもしつこく投げ続けてきた。
本当に腹が立つ男の子だが、私も猫いじめの際に2回も傍観するのみだったことを思い出すと、石を投げつけられたのは天罰かもしれないと、ちらっと思ったものだ。
大人になってもこの男の子のしたことが許せない。
そして、自分のできなかったことを悔やみ反省する。(あ~あ、ナウシカ目指してたのに何やってんだろ・・・。←おいおい・・・。)
補足として、このとき一緒にいたメス猫は子猫を生んだ、その後しばらくして空き地で見かけたときはボロボロで痩せこけて見るに耐えない姿になっていた。(まだそんなに年じゃないはずだが、老衰とも見えた・・・。)
足もヨボついていてこのまま死んでしまうのではないか?と思うくらいだった。(もう、戦う力は残っていないようだった。)
そこへまた猫いじめの奴らが現れ、ビービー弾?という鉄砲玩具でその猫を的に打ってきた。(たしか私にも?)
私はそいつらが年下であるのをいいことに何か発したがその先はあまり覚えていない。そのメス猫のことも・・・。
テレビでやっていたが、野良猫というのはせいぜい1,2年しか生きられないことが多いらしい。
人間が餌をやっても外気の暑さ寒さは猫の生命を容赦なく削り取る。もちろん縄張り争いのケンカ傷が原因でもある。
こんな野良猫たちに餌を与える人間を横目で「エゴだ」と思う人は少なくないだろうが、生きてるときに少しでも満足感を与えてやるのは、自己満足だけではないと理解したい。
「一生面倒見てやれないのに中途半端に助けるのは可哀相、猫のためにもよくない・・・。」と何もしないのは前者とさほど変わらないと私は考えている。可哀相なのはどちらも同じだし、猫は生きることのみ頭にあるのだから。