「近代化」や「自由化」、国際的な「開発」の問題や「資源」の問題に関する箴言の備忘録
第9章 ユーラシアの内陸諸国をめぐって
1.21世紀のシルクロード
(2)関係各国の事情
a. モンゴル国
本編の前に番外編が割って入る展開になってしまいました。仕切り直します。
関連する図表については、以前の情報が更新されているものもありますので、必要に応じて適宜再掲します。
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国土面積は日本の約4倍だが、人口は2015年2月にようやく300万人を超えたところである。(図表1)
ただし首都ウランバートルは、人口約130万で比較的稠密な上、過半数が上下水道の未整備な「ゲル地区Ger District;
Ger Khoroolol」に住む。
政治体制は、大統領制と議院内閣制の併用による共和制とされ、大統領と国家大会議(国会)議員の任期はいずれも4年である。
国会大会議は一院制で定員76名のところ、直近の2012年6月選挙では、民主党35、人民党26、公正連合10、国民勇気・緑の党2、無所属3の構成となった[1]。
この選挙の前もモンゴル人民党と民主党の連立政権であったが、2012年1月に連立が解消され、人民党が与党、民主党が主要野党となった上での選挙となり、結果は与野党逆転であった。しかし民主党は多数とは言え単独過半数を獲得できず、改めて連立政権が組まれた。こうして誕生したアルタンホヤグ内閣はその後2年余り続いたものの、2014年10月、人民党と数名の与党議員までもが首相解任決議案を提出し、11月に可決、内閣は総辞職した。その後、12月にサイハンビレグ内閣が誕生して、現在に至っている。
新内閣成立に際し、次の15省体制となった。(資料引用元Website掲載順)
1.自然環境・緑化開発・観光省
2.外務省
3.財務省
4.法務省
5.工業相
6.国防省
7.建設・都市計画省
8.教育・文化・科学省
9.道路・運輸省
10.
鉱業省
11.
労働省
12.
人口開発・社会保障省
13.
食料・農牧業省
14.
エネルギー省
15.
保健・スポーツ省
出所:http://zasag.mn/ministry (なお、新内閣の発足時期と予算の編成時期が重なるなどしたため、行政所管の面で、既出の財政関連資料 http://ameblo.jp/development-philosophy/entry-11997663004.html との間で不一致が見られる。)
次の国家大会議議員選挙は来年、2016年である。更に2017年には大統領選挙が予定されている。社会主義体制崩壊後、議会制民主主義は比較的安定して発展してきたとされているが、概ね二大政党制に近い状況の中、選挙の度の政権交代や、強弱ところを替えた連立政権樹立の繰り返しも目立つ。そのため、例えば投票率の低下傾向からも窺われるように(図表2)、一般市民の政治参加意識の低下が顕著である。皮相な離合集散ではない、内外の信頼を得られる政治体制をつくれるかどうかは、今後の課題の一つである。
歴史的・地政的特徴としては、北のロシアと南の中国に挟まれた内陸国であり、チンギス・ハーンとその末裔たちが活躍した時代を除き、特にそれ以降はこの南北の両大国から政治的・経済的に多大な影響を受けた。
特に20世紀、70年近く続いた社会主義体制=モンゴル人民共和国時代(1924~1992年)の、ソビエト連邦との協調路線、ソ連・東欧への経済的・技術的依存、そして社会主義体制崩壊後の、取り分け経済面における対中国依存への転換は、複雑な民族感情とも相まって、両大国間のバランスをどう取っていくかという点で、陰に陽にモンゴルの内政にも影響を与えている要素である。
また、内陸国(陸封国;Landlocked
country)としての諸々の制約のため、米国や日本を「第3の隣国」と位置付け、広汎で多岐にわたる国際関係を取り結ぶ中で政治経済的な安全保障を確保したいという意志が、顕著に窺われる。これは2015年2月10日、日本との間で結ばれたEPAとも深く関連する事情である。
1990年に本格化した民主化は、1992年の新憲法に結実し、政治面における社会主義体制からの脱却と、経済面における市場経済化が果たされることになった。以来二十数年、このプロセスは、貧富の格差の拡大[2]や環境破壊等の問題を抱えながらも、最近の年10%前後の経済成長につながった。1人当たりの所得水準も、4000米ドル程度にまで上昇してきている。(図表3,4,5)
成長要因の中でも際立って大きな柱が、鉱物資源開発である。十数年前、当国の輸出全体に占める鉱業部門の割合は6割弱であったが、今や9割程度にまでなり、GDPに占める割合で約30%、また歳入の約40%を鉱業に依存している[3]。ただし現状では、当国内での地下資源の加工、高付加価値化は十分進んでおらず、さらに内陸国であるため、国際的な資源価格の変動や運輸・流通環境に大きく左右される経済構造である。2009年のGDP水準の急落は、世界同時不況、より直接的には主要産品である銅の国際市場価格の下落が直撃したものであった[4]。
当国には6000箇所に上る鉱床・鉱徴があると言われ、これまで調査や開発が進んでいるのはその10%にも満たないとされるが[5]、これがそのまま強みになるとは限らない。資源は、それに対する需要があってこそ資源たりえる。先ず「買ってもらえるかどうか」が問題である。当国が海への出口を求めようとすれば、例えば中国の天津までなら約2000km、ロシアのナホトカまでなら約5000kmの輸送を覚悟しなければならない。そのため、嵩張ったり単位重量当たりの価額が低かったりする商品の輸出は不利であり、この点でも、主力輸出品である石炭や銅等の地下資源の扱いには苦労が伴う。
当国の輸出相手国は47箇国に上るが、うち中国が輸出総額の94%を占める[6]。石炭について見れば、2010年、重量ベースで99.08%(16,650,130トン中16,497,280トン)、金額ベースでも99.15%(878,952,400米ドル中871,532,000米ドル)が中国向け輸出であった。また、銅精鉱の場合も、総計値568,664トン、770,594,200米ドル、このほぼ100%が中国向け輸出であった[7]。
したがって、中国の経済動向は当国の経済にも極めて大きな影響を与えており、過去数年間の高度成長を支えた面があると共に、最近の中国経済の減速や資源価格の下落に伴うマイナスの影響もまた深刻である。
【脚注】
[1] http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/mongolia/data.html#section2
[2] 国際比較を行うには十分な計測値ではないが、CIAのThe World Factbookによれば、当国のジニ係数の推移は「2002年:32.8⇒2008年:36.5」と格差拡大を示した。この2008年の数を基に141か国で比較した中では84位、中程度の位置にあった。しかしこれらの数値は、当国が急激な経済成長を遂げる前のものであるから、参考程度にとどめておく。
ⅰ)https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/mg.html
[3] ⅰ)“УУЛ УУРХАЙН САЛБАРЫН 2010 ОНЫ ҮЙЛ АЖИЛЛАГААНЫ ТУХАЙ” モンゴル国鉱物資源庁(Mineral Resources Authority of Mongolia)資料
ⅱ)http://www.jica.go.jp/press/2010/20101119_01.html プレスリリース「モンゴル国政府向け円借款契約の調印」
[4] 「最近のモンゴル経済」(2011年8月)在モンゴル日本国大使館http://www.mn.emb-japan.go.jp/news/EconomyofMongolia2011Aug.pdf
[5] 土居正典「モンゴルの投資環境調査」〔JOGMEC平成21年度戦略的資源確保事業〕『2010年11月金属資源レポート』p.134
[6] 「モンゴル経済概況(7月)」、p.11、日本貿易振興機構海外調査部中国北アジア課(2012年)
[7] 拙稿「オユ・トルゴイ、タバントルゴイ、新鉄道等、鉱業関連領域に見る、モンゴル国の市場経済の深化」『東洋研究』第182号、p.10、大東文化大学東洋研究所(2011年)
図表1
出所:モンゴル国国家統計局 Mongolian Statistical Information Service http://www.1212.mn/en/
図表2
出所:The International Institute for Democracy and Electoral Assistance http://www.idea.int/vt/countryview.cfm?CountryCode=MN より、筆者加工。投票率計算の母集団は登録有権者数で、選挙権を持つ年齢で単純に層化された場合の人口とは異なる。
図表3
出所:International Monetary Fund, World Economic Outlook Database,
October 2014 より、筆者加工。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2014/02/weodata/weoselser.aspx?c=948&t=1
なお、表中2014年はIMF推定値。モンゴル国立統計局発表の速報値によれば、2014年の成長率は7.8%。
図表4
出所:International Monetary Fund, World Economic Outlook Database,
October 2014 より、筆者加工。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2014/02/weodata/weoselser.aspx?c=948&t=1
なお、表中2014年はIMF推定値。
図表5
出所:International Monetary
Fund, World Economic Outlook Database, October 2014 より、筆者加工。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2014/02/weodata/weoselser.aspx?c=948&t=1
なお、表中2014年はIMF推定値。