すでにこちらで映画の感想は書いたのですが、この映画、後々まで心に残って時々思い出してしまいますので、感想の続きを書きたいと思います。
心に染み入る映画と絶賛されている「この世界の片隅に」ですが、徹底的に事実を調査し、写実的に描かれた映画です。
アニメに写実も何もないだろ、とか言われそうですが、よくみて見ると戦艦大和とかめちゃめちゃリアル(写実的)に描かれてます。
一方、食糧難の時代に、昆虫たちが樹液をたっぷり吸ってたりする描写が出てきたりします。
これは、何かを暗示してるはずで、これなんかは象徴主義的な描かれ方かと思います。
この映画の特徴として、何かを主張したり押し付けてきたりしないので、何を象徴してるかは鑑賞者に委ねられます。
古典芸術の場合、作者は鑑賞者に何かを主張してきます。つまり鑑賞者は受動的な立場に立たされます。
それで、鑑賞者は「わー、綺麗ね。」とか感想を漏らすわけです。この場合、鑑賞者の感想は、作者の意図したものになることが多いです。
宮崎駿監督の映画を見ていると、どことなく説教臭さを感じることがありますが、あれなどは作者の意図が伝わってくるので、古典芸術の範疇に入るのではないでしょうか。もちろん古典芸術だから悪いとかではなくて、良いものは本当に良いものです。
ところが、現代芸術の場合、作者は鑑賞者に作品への参加を求めてきます。つまり鑑賞者は能動的な立場で作品を鑑賞します。
だから、作品の印象はそれぞれの鑑賞者によって様々なものになります。
ここはこういう風に凄い、ここはこういうことなんじゃないか?などです。
映画「この世界の片隅に」は、鑑賞者が様々な感想を持ちます。だから、鑑賞者によって結構感想が違ってきます。
シュールレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリの作品に「パン籠」というのがあります。
ダリにしては珍しく、籠に入ったパンが、これ写真なんじゃないの?と思うくらいに写実的に描かれてます。
ダリは言いました。
「最も写実的な絵画が最もシュールな作品である。」
シュールレアリスムは、人間の意識下に現れない、深層心理、普遍の真理を描き出そうとします。
「この世界の片隅に」は、写実主義と象徴主義を混合することで、鑑賞者を映画に参加させます。
その上で、徹底的にリアルに描きつつも、人間が持つ普遍の真理を浮かび上がらせようとします。
だから、心の琴線に触れ、染み入ってくるんじゃないでしょうか?
以上が、芸術的観点から見た「この世界の片隅に」ですが、写実主義という古典、象徴主義からシュールレアリスム、そして現代アートに必要な要素など、全てが含まれている映画だから、映画に詳しい人などは「歴史に残る映画」と絶賛したりするのではないでしょうか?
もちろん、感じ方は人それぞれですので、あくまでも個人的な分析ということでご了承ください。
