普通、通史といえば戦勝国側からの視点で戦勝国に有利なように、もっと言えば戦勝国を正当化するための歴史本が多いですが、この本は日本人によって、平等な視点で書かれた通史となっているのが大きな違いで、かつ面白かったです。

印象に残った部分をまとめますと、

1、ペリーの来航
  「黒船来航で日本の歴史が変わった」的なのが教科書的な歴史本ですが、本当は違って日本はかなり対等に、いや、場合によっては対等以上に外交を行った、というのがこの本の主張です。

  具体的に申しますと、ペリーは江戸湾内に測量船4隻を送り込み、武力の示威によって金沢湾にまで侵入するが、これは当時の国際法違反である。
  ペリーは、文明国が他文明国に対するように、儀礼的に対応するように断固要求してきたのに、自分は文明国らしからぬ行動をとるわけです。(ちなみにこれはアメリカ国防省の指示に従ったのであり、ペリーが独断で行ったわけではありません。)

  ペリーが国際法を破った理由としては、当時の日本は「文明国ではない(未開国)から、国際法の対象外」というのがあるそうですが、文明国ではない理由として、「モリソン号事件」があるそうです。
  モリソン号事件とは、アメリカ商船「モリソン号」が、漂流していた日本人を救いだし、日本へ送り届けたそうですが、当時の日本は鎖国の上、「異国船打払令」が出されていたため、この商船を撃退したそうです。これが、「日本は自国民も救助しない国家(=未開国)」と判断された理由だそうです。

  ここまで読むと、確かにアメリカの言い分が正しいような気がします。それにしても当時の江戸幕府は自国の海上に異国船が侵入してきたのに撃退どころか、何もせず冷静に対処しています。その理由が次です。


2、日本はペリーの来航と、その本当の目的を事前に知っていた
  当時の江戸幕府は、鎖国しながらも、オランダとは貿易をしていました。その条件として、世界で何が起きているかを逐一報告することを負わせており、その報告書が「オランダ別段風説書」というものだそうです。
  この中に、ペリーが日本に来航すること、さらにその目的として、通商貯炭所提供が記述されていたそうです。

  さらに当時の幕府は武力では世界相手にはとても戦えない弱小国であることも自認していて、だからペリーが来る前に、非戦の方針を決定していて、ペリーが侵入してきても何もせずに冷静に対処できたそうです。


3、ペリー VS 林全権
  ペリーは当初強硬な姿勢を打ち出します。
  モリソン号事件に見られるように江戸幕府は人命を軽視すべきではない、と戦争も辞さない覚悟開国を要求
  当時の浦賀の外交官林大学頭は、江戸は人命を尊重するから300年もの間平和だったことを説明し、そもそも人命尊重が来航の目的なのに、何故戦争しようとするのか?とペリーの矛盾を指摘。
  ぐぬぬ、となったペリーは、交渉を本来の目的である通商に切り替え、通商は日本にとって有益である、と説明。
  林全権は、日本は国内で事足りていると説明。そもそもペリーの来航目的は人命尊重と船の救助と言った。交易は利益の論であって、人命とは関係ない、と説明。
  この時の様子を収めた対話書には、「この時、ペルリ無言、よくしばらくあい考えおり候体にて」と記述されているそうです。
  さらにペリーは函館視察の際に約束を破って勝手に外国人居留地の範囲をめぐって松前藩と交渉して条約を結ぼうとしており、その10日後に林全権から咎められます。
  ペリーは当時の日本の飛脚システムを知らなかったようで、当然自分の方が早く江戸に着くから約束なんか破ってもへっちゃらだと思っていたようです。
  飛脚システムの説明を受けたペリーは、「困迫の様子にて、大息至し、笑うべき体にござそうろう」と対話書に記録されているそうです。
  

4、ハリスの演説の嘘を見抜いていた幕府
  ハリスの演説によって日本は開国に向かった、と教科書的にはなってますが、本当は違って、
  ・アメリカは戦争で他国を占領したことはない→メキシコ(現カリフォルニア)を占領した
  ・外交官を駐在させることは平和、貿易の両面で有利である→西洋は戦争ばかりしている
  ・アメリカはアヘンを戦争より危ぶんでいる→アメリカはトルコのアヘンを毎年大量に中国へ輸出している

  というようなことで嘘ばかり。そしてそれを知っていた幕府。ということも本書を読めばよくわかります。

以上長くなりましたが、これでもまだ冒頭部分だけの抜粋です。読んでいて非常に面白く、痛快な部分もあります。
また本書の言いたいことは、文明国って何?ということがあるかと思います。
開国し、文明国となった日本は、その後、神話に基づく天皇を神とする明治政府になりましたが、神話に基づくのが本当に文明国になったことだったのか?という疑問です。
そういうことも考えさせられた、面白い本でした。