薄紫色と
薄紅色と
薄黄金色の
その向こうに

真冬のパリ



二月
午後22時00
氷点下3℃
パリ。


誰もいない広場の
葉のない大木の
枝にそよぐ風。


凍てつく
石畳みの
様々な
灰の色。


カーブをゆっくり回って
注意深く通り過ぎる車。

路面は凍っている。

手を擦り合わせて
暖をとる女性も
足早に去ってゆく。


そして
人を乗せない
空っぽの
メトロの音が、

冷たく寒い
地下をゆく。


学校に続く狭い路地を入って
オレンジ色の街灯に照らされた
眠る街を見た。


どこも静かで
動きがない。


ただ凍った空気の気配が
小さな音を立てて、

いつもよりも
耳のすぐそばに
あるような気がした。


目を凝らしてみると
幾重にも重なった
紗幕のような闇が見えた。


茄子色
黒色
青い色
深い藍。

黒に近い
深いグリーン。


黒い帳は
劇場の幕のように
多層的に
立体的にそこにあった。


夜を覆う幕を

震える手で
一枚目をめくってみた。


そこには
眠りがあった。
老人の
消灯された寝室の
沈黙があった。

寂しいけれど
安らかで
とても静かな眠りだった。


二枚目をめくると
そこには
安堵があった。

暖炉を囲んで話す
兄妹と小さな弟と
犬の姿があった。
毛糸玉が転がり、楽しげな色が見えた。


三枚目をめくると
家族の団欒があった。

子どもたちの素足が
木目の床をペタペタと走る。
母親は子どもを追って
パジャマを着せる。

ふざけた子どもは
母親に抱きつき笑う。

湯気とリネンと
タオルと
優しい石鹸の匂いがする。

うっすら灯ったランプは
子ども部屋で
眠そうな色で輝いている。


わたしまで笑顔になったところで
四枚目の闇をめくってみた。
そこには
ひとりの男がいた。


わたしが心に想う男に
違いなかった。


ここから
一キロメートル東
ある小道に面した建物の窓に
その
水色の目をした男がいた。


その男は老いていたが
まだどこか輝いていて、

その光を辿ると
それは目だった。

目だけは決して老いないという。


その男の癖は
眩しそうな表情をすることだった。


男は
外を眺めている。
アパルトマンの中には妻と息子がいて、

テーブルには
明日のパンや
ランドセルや
ノートなどが置いてある。


男は外を見ていた。
何というわけでもなく
なにかを探していた。


往来の闇には
ありと
あらゆる人の
愛にまつわる想いがあった。


ある人は
彼からの連絡を待っていた。


ある人は
夫からの
優しい言葉を待っていた。


ある少年は
片思いの少女を想っていた。


そしてある人は
恋人と別れたことを
後悔していた。


水色の目の男は
子どもに笑いかけた後
また、外を見た。


悩ましい瞼には
愛が漂っていた。

今にも飛び立ちそうな
愛が
今、最期の合図をして
窓から飛び立たとうとしていた。


子どもが寝室にかけてゆく。


正しさも
抑制も
法律も
寸法が合わない
自由な愛が
その目から
溢れていた。


ただ戯れていたい、
妖精と風の
飛翔のような愛だった。


命の躍動の
あまりの衝撃に

男は瞳を閉じた。
ピアノの蓋を閉じて
本を閉じた。


そして
子ども部屋に行き
寝息を立てる
その子の額に手をのせると
髪を撫でた。


男は部屋の明かりを消し
注意深く
扉を閉めた。


窓の外は
凍りつき

近くの植物園から
冬の音が聴こえていた。


男は
寝室に入ると
ガウンを脱いで

静かに眠る妻の横で
目を閉じるのだった。


本は閉じられ
鎧戸は降ろされ
暖炉の火は消えた。


彼の想いは
静かに
眠りについた。


わたしは
男につながる空に
願いをかける。

その人が眠れますように。


この星空の下
どこかで
わたしの祈りを
受けとりますように。


なにかの知らせで
その人が
愛を感じますように。


見えない手が
その人を守りますように。


その人がどんな時も
幸せでありますように…。


メトロの入り口は
仄暗く
ただぼんやりと光っていた。


階段を降りて
プラットホームに立ち


わたしは
明日への
車両に乗り込んだ。



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こんにちは。
花🌸です。


パリも もう春です。
今日は最高気温18度になるそうです。


それで一番寒い日に書いた詩を
急いでお届けします。


季節は明らかに 螺旋に進んでいて
同じ冬には戻りません。行ってしまう冬を思って抱きしめます。


そして
寒く厳しい季節に感じた思いを
鳩のように、空に放ちます。



素晴らしい毎日でありますように。


一見そう見えなくても、
信じられない日があっても、
四季のように、
時は成長と実りへと動いています。


今日も幸せです。


いつもありがとうございます😊。


花🌸