処方箋のないクリニック / 仙川 環

 

 

 

 

 

青島総合病院は東京都多摩地区では、そこそこ名の知られた病院だ

 

その敷地内に本院とは別に廃屋同然の建屋がある

 

そこには「総合内科」という科があり、主に診療相談を行っている

 

 

 

責任医師の青島倫太郎は将来を嘱望されたエリートだったが

 

院長の診療方針に納得がいかずに本院を飛び出し

 

たったひとりで、この総合内科を立ち上げた

 

 

 

ここには様々な患者が訪れるが、そのほとんどが厄介な患者ばかりである

 

自分は元気だから検査など受ける必要がない言う頑固な老人

 

サプリメントを手放せないご婦人

 

彼らの話を辛抱強く聞き、いつしか頑なな心を解きほぐしてゆく

 

 

 

病院に来る人というのは、みな不安を抱えてやってくる

 

あれ?なんかおかしいなあ、でももうちょっとだけ様子みよう

 

そして次の日になっても状況は改善されず、漸く事の重大さに気づく

 

 

 

自分はだいじょうぶだと言い聞かせて、ギリギリまで我慢して

 

それでもよくならなくて、藁にもすがる思いで来院する

 

そんな人だって、きっといると思う

 

 

 

それなのに、何時間も待たされた挙句、診察時間はたったの数分

 

こちらの話などろくに聞いてもくれない

 

それでは患者が救われるはずがない

 

 

 

自分がどこがどういうふうに辛いのか

 

それを訴えたい、聞いてほしい

 

そんな心の声を聞いてあげるのが医者の一番大事な仕事だと思う

 

 

 

以前、「医は仁術」という記事を書いた

 

その時私を診て下さった眼科の先生は

 

一度も遮ることなく私の話を最初から最後まで聞いてくれた

 

 

 

そして最後に私の目を真っすぐ見て言って下さった

 

「だいじょうぶ、心配ないですよ。」

 

その言葉を聞いて私がどれだけ救われたか、ほっとしたか

 

 

 

パソコンの画面とカルテだけ見て

 

患者の顔などろくに見ようともしない医者に

 

病気を治せるはずがないと思う

 

 

 

確かにひっ迫した今の状況で、そこまで求めるのは酷な話かも知れない

 

でも、この状況が落ち着いた時

 

主人公のような医者が一人でも出てくればいいなと思う

 

 

 

 

千川環さん、初読みの作家さんだったが、面白かった

 

読書メーターで、たまたま目に留まって借りたのだが大正解だった

 

こういうことがあると嬉しくなってしまう

 

ふらっと立ち寄ったフリーマーケットで、思わず掘り出し物を見つけた気分だ

 

 

 

著者は大学院で医学系研究科修士課程を取得しているとのことで

 

医療に関して深い造詣があると思われる

 

過去にも医療系の著作を多く書いているらしいので

 

また他の著作も読んでみたいと思う

 

 

 

アメブロもされているようなので、紹介したいと思う