ありがとうございますの響く店で -お多幸本店(日本橋) | 丁稚烏龍帳

丁稚烏龍帳

today,detch stood live on the earth,too…

 雨の昼下がり、降り立ったのは日本橋駅。

今日はちょいとやぼ用で都心まで上京ザンス。時は昼時、どちらに行こうかと思いを馳せるに、

昔から気になってはいたものの、平日しかランチをやっておらず、味わってないものに思いが

至るわけでございます。ということで、日本橋の路地裏にゴー。


丁稚飲酒帳-おでんの名店  目指すお店はこちら、おでんの名店としてその名も高き「お多幸」さんでございます。

こちらの名物ランチったら、皆さんもご存知ですよね。そう、とうめしです。おでんやさんの〆の一品として定番の茶飯に、おでんの豆腐がどかんと半丁乗せられた代物で、各種メディアにもとりあげられておりますので、ご覧になったことのある方も多いと存じます。


 傘をたたんで、紺地の暖簾をくぐり、店内にお邪魔しますというと、ちょうどお会計が終わったのか、五人ほどが掛けられる一階カウンターの左隅に空いた一席を案内されます。

ごめんなさいよと腰掛けると、正面に並んだ焼酎の一升瓶の向こうに、六十絡みの厳しい顔つきのお父さんが、おでん鍋をさばいている様子が見えます。

 席に着くや、すぐに注文を取りに店員さんが見えます。おでん定食や大山鶏の親子丼など、ランチメニュー数あれど今日は決めてかかってきてますから、迷わずとうめし定食(650円)をお願いします。おなかも空いているし、50円増しの大盛りにしましょうね。


 さて、仕上がってくるまでの間、さきほどのおでん鍋の様子を拝見しているとしましょう。

四角い鍋の中には、大量のお豆腐が綺麗に列をなして並んでいます。さながら、木場に浮かぶ材木の如く、飴色に煮込まれた姿はいかにもおいしそうです。さらには2階からのオーダーでしょうか、おでん定食の大皿に盛り付けられるハンペンのふわふわ感がうらやましい。

 時刻はまもなく一時になろうという頃合、2階、3階で昼食をとり終えた方が、間をおかずに降りてこられます。お会計を済ます、その都度におでん鍋の親父さんが、枯れていながらよく通る声で「ありがとうございました~」と、独特の節で御礼申し上げる声が一階に響いています。心地よい声だなぁ…どこかで聞いたような節回し…あ、ミツワのお兄さんのご挨拶に似てる気がしますよ。



丁稚飲酒帳-とうめし定食  なんて思っていると、出てまいりましたよ、とうめし定食…って、なんじゃこりゃ~。お盆の上には、大根サラダに、大根とニンジンの煮つけ玉子添え、さらにはお椀に香の物、そしてメインとなります、とうめしは…正しく日本昔ばなし盛りですがな。

 表のメニューのごはんは、お茶碗にすりきり一杯くらいだったのに、50円増しで倍の量になっているんじゃございませんか?きれいな二次曲線の頭頂部には、先ほどの豆腐が鎮座ましましておいでです。


 では、早速一口、茶飯に箸を入れると豆腐がふるふると震えます。なんとも柔らかそうですね。

丁稚飲酒帳-こんもりと  茶飯の方は、あっさりとした味付け。醤油の香ばしさが食欲をそそりますが、味付け自体は薄めで頂上のふるふる豆腐とあわせていただくと、ちょうどいい感じ。よく煮込まれた豆腐は、口の中に含むだけでほどけて、豆腐が限界まで吸い込んだおでん出汁と渾然一体となって、旨味が口いっぱいに広がっていきます。


 それにつけても、茶飯の味付けが弱い気がするなぁ。というのも僕の茶飯の原体験は学校給食なんですが、そこは田舎のこと田舎風の濃い目の味付けだったもので、本来はこうしたお上品なものなのかなぁなんて思っていると、とたんに口の中に旨味のインパクトが。茶飯の味がいや増す一箸がありましたよ、なんだろうと思うと、たっぷりのおでんスープが茶飯にかかっています。

 答えは目の前の親父さんのとうめしの仕上げにありました。 次々に入るとうめしのオーダーのさばきを見ていると、お茶碗にもられた茶飯の上に丁寧に豆腐を盛り付けた後、さらにはお玉杓子でおでん出汁をたっぷりと回しかけています。この濃い味はこれか~、この部分があるからベースの茶飯は薄味なのね。関東風の醤油出汁の甘辛さが茶飯に更なる一味を加えて、これは箸が止まらないです~。


 付け合せの甘辛の煮つけも、口の中をさっぱりしてくれるサラダも美味しい。さらには、お椀は蜆のお味噌汁。これに添えられたネギを振りいれていただくと、なんともさっぱりとした味わい。いやぁ、腎臓の弱ってる呑み助ならずともありがたい味わいです(^^; 


丁稚飲酒帳-掘っても掘っても  それにしても食べ応えのあること(笑)。掘っても掘っても、まだ茶飯がある。しかも、掘り進めるほどに先ほどのおでん出汁が、お茶碗の下にたまっているのがわかります。なんとも嬉しいですねぇ。このボリューム感は、普通の男性だと空腹状態でこないと、結構たいへんかもしれませんよ。実におなか一杯、満足のいく昼食になりました。


 ご馳走様とお会計は700円、これはすばらしい。すると、先ほどの親父さんの「ありがとうございます」の声が耳に届きます。気風のいいご挨拶はなんとも気持ちよく、思わず「また来ます」とお返事して、雨の路地に足を踏み出しました。平日しか味わえないのは残念だけど、夜のメニューでも確か400円ほどで味わえたはず。ランチはなかなか来ることはできそうもないですが、たまには、おでんと燗酒で、しめにとうめしいただきに参りましょうか。

 どうもごちそうさまでした!

 

 お多幸本店 ランチ(月~金)11:30~13:30L.O.