シナリオセンター。
最初は「基礎科」
まずは、「脚本」ってものの書き方を習う。・・・形式ってことだよな。
物語を紡ぐ・・・ということじゃなく、
「脚本形式」ってものを習っていく。
「脚本」というのは物語じゃない。小説じゃない。「映像」をつくるための設計図だ。
設計図ってことは、多くの人がそれを見て、「作品」を作り上げていくってことだ。
だから、何より大事なことは、「見る人全員が同じ理解をする」ってことだ。
小説であれば、・・・読んだ人間、それぞれの感じ方があっていい。・・・それが小説の楽しみ、面白さでもある。
しかし、脚本は、読んだ人全員が、同じ理解をするように書かなきゃなんない。
あくまで、「映像化」するうえでの「設計図」だ。
プラモデルの設計図が、見る人によって解釈が違ったら困るってのと同じだ。
そのためには、書き方のフォーマットがあって、ルールがあって・・・まずは、「基礎科」では、それを学ぶ。
物語の良し悪しは、そのあとの話。
で、基礎科で書くのは・・・課題として22本の脚本。
これを書いてる段階で、もう、残りも少ない。
基礎科も終盤。
残り、あと2本。
今回の課題は「職業もの」 サラリーマンもの。
映画、テレビ・・・どこで仕事をするとしても、絶対に避けては通れない場面だよな。
課題も残り2本。
このあたりから、本格的に「物語」を・・・・クリエイティブな能力も求められてるような感じがした。
それでは、いってみましょう。
課題「職業もの」サラリーマンもの。
題名「切腹最中」
人物
大谷 翼 (25) 有明空調 ヒラ社員
ルイーズ (37) 四友自動車 常務
権藤 源一郎 (55) 有明空調 部長
稲生 二郎 (55) 四友自動車 部長
○新正堂・店の前
東京新橋の老舗菓子店。開店前。大谷翼(25)権藤源一郎(55)が並んでいる。
他にサラリーマン3人連れが3組。皆中年。皆同じようなスーツにコート姿。
寒そうに開店を待っている。大谷だけがモッズコート。スマホを触っている。
権藤「大谷は何回目だ?」
大谷、スマホから目を離さず、
大谷「はい?」
権藤「切腹最中だよ」
店をチラと見て、
大谷「あぁ、初めてっす」
権藤「オレは4回目だ…5年に1度くらい買いに来るハメになる…」
大谷、ぐるりと見渡し、
大谷「なんか意味あんすか?」
権藤「バカ!目いっぱいの謝罪を示すのは、ここの「切腹最中」って決まってんだよ!」
大谷「そうなんすか…」
権藤「そもそも浅野内匠頭がこの地で切腹されたことからできた最中で…」
店が開く。順番が動く。
○新正堂・店内
順番がきてカウンター前に権藤、大谷。
権藤「切腹最中20個入りを2個」
店員が返事。テキパキと動く。紙袋、小分け袋、会計、領収書の発行までが流れ作業のようにスムーズに運ぶ。
それに感心した様子の大谷。
権藤「朝は切腹のかかった武士が並ぶ…お家を背負って謝罪に向う武士たちだ。皆、時間との闘いだ…店も心得て対応してるんだ」
権藤、大谷、店を出る。列ができてる。
権藤「タクシー使うぞ」
時計を見て急ぎ足。大谷、後に続く。
○タクシー車内
後部座席に権藤、大谷。
権藤「しかし、今回の納品ミスは、オマエだけがが悪いとは言い切れんな…」
大谷「え?ボクが悪いんすか?」
権田「いや、だから…そもそもは、むこうさんの無茶な発注変更だ。しかも深夜」
大谷のポケット、軽快な通知音が鳴る。
権藤、通知音に顔をしかめながら、
権藤「天下の四友自動車もフランスに買われておかしくなっちまった…下請けだからって日本人を舐めてんじゃねーっつんだよ」
大谷「そうなんすか…」
大谷、ポケットからスマホを取り出す。
権藤「あのMBAだかの小娘が来てからだ…」
権藤、煙草を取り出して咥えようとする。車内に「禁煙」のステッカー。
憮然として煙草をポケットへ。
大谷は忙しくスマホを操作している。
○四友自動車・本社ビル全景
○四友自動車・本社ビル・エントランス
小走りで入ってくる権藤、大谷。
○四友自動車・小会議室
6人が座れる小会議室。権藤、大谷が座っている。神妙な表情。
扉が開いて稲生二郎(55)が入ってくる。
立ち上がる権藤。遅れて大谷。
権藤「稲生部長、このたびはまことに申し訳ございません」
権藤、儀式がかった頭の下げ方。
大谷もつられたように頭を下げる。
稲生「いやいや、ウチの発注変更も悪いんだよ…なんせ、ホラ…日本人じゃないから…」
稲生が座る。権藤、大谷も座る。
権藤「いえ…それは時代の流れですし、発注変更は23時までというご契約ですから…」
稲生「いやいや、微調整の変更ならいいけどねぇ。4倍じゃあねぇ…そりゃ「納期も無理ですよ」ってボクは常務に言ってやったんだ」
権藤「いえ、滅相もございません。理由はともかく納期を守れなかったのは事実です。深くお詫びいたします…しかし、稲生部長の、お言葉、ありがたく頂戴いたします」
ルイーズ(37)が電話をしながら入ってくる。ミニスカート。青い瞳。ブロンド。
稲生が飛び上がったように立ち上がる。
権藤も慌てて立ち上がる。遅れる大谷。
ルイーズ「座って下さい」とジェスチャー。
稲生、権藤、大谷、座らない。
ルイーズの電話が続く。ルイーズが座る。
ルイーズ「Sorry…ミーティングに入ります。あとで資料お持ちします」
ルイーズ、電話を切る。スマホを表面にしたままテーブルに置く。稲生が座る。
ルイーズ、笑顔で一礼。
ルイーズ「遅くなりました」
権藤「常務、この度は、まことにご迷惑をおかけいたしました。今後二度とないよう社員一同、再発防止に努めてまいります」
権藤、芝居がかったお辞儀。大谷、横目で権田を見る。見習ってお辞儀。
3秒の沈黙。権田、大谷、そのまま。
ルイーズ「で、いかがいたしましょうか?」
権藤、お辞儀のままルイーズを見る。
権藤「は?」
ルイーズ「再発防止策を具体的に説明してください」
権藤「…具体的ですか…具体的…御社のご発注に対して、社内一丸となり…ダブルチェック、トリプルチェックをいたしまして…」
ルイーズ「今までダブルチェックもなかったと?」
権藤「あ、いえ…」
ルイーズ「大谷さんおひとりで、弊社の受注業務をなされていた?」
権藤「いえ、そういうわけでは…」
ルイーズ「御社の納品ミスで、横浜のラインが4時間止まりました。これの意味がわかりますか?稲生部長、どうしますか?」
稲生「…はい…えー変更は23時まで可能と契約書でうたっている以上、納期は絶対のこと。なんらかのペナルティは必要かと…」
権藤、驚いた表情。横眼で稲生を見る。稲生、権田の顔を見ないように、
稲生「円滑な部品供給を受けるために、常務の仰る通り、海外メーカーへの発注を増やすべきかもしれませんな…」
権藤、泣きそうな顔。ルイーズのスマホの着信ランプが点滅。ルイーズが出る。
ルイーズ「Yes,Rui,Speaking」
ルイーズ、立ち上がってドアの方に向かう。
権藤、ガバっと土下座。大声。
権藤「申し訳ございません!」
ルイーズ、あっけにとられる。
大谷のポケットから軽快な通知音。
慌てて取り出し落とす。拾う。バイブに。
ルイーズ「Sorry、Later」
ルイーズ、電話を切る。
ルイーズ「権藤部長、私は、そのようなことを求めてはおりません」
ルイーズ、仁王立ち。足元で権藤の土下座。
大谷のポケットでバイブ。気になる。
権藤「何卒、何卒、ご容赦を!今一度、チャンスをお願いいたします!」
ルイーズ「再三再四チャンスはあったと思いますが」
権藤「今一度!今一度だけ!」
権藤、切腹最中の紙袋を捧げ持つ。
ルイーズ「なんですか…これは?」
権藤「切腹最中でございます!」
ルイーズ「私に、スイーツで便宜をはかれと?」
権藤「いえ…」
ルイーズ「権藤部長。今回のペナルティですが、2億円でいかがでしょうか?」
権藤「2…億…ですか…」
ルイーズ「弊社の横浜は年産70万台です。妥当な数字だと思いますが」
ルイーズのスマホ。着信ランプが点滅。
権藤「…至急、持ち帰りまして検討させていただきまして、お返事をさせていただき…」
ルイーズ「権藤部長、あなたはメッセンジャーボーイということですか?」
権藤「いえ…あの…はい…カタチとしてはそうなってしまいます…」
ルイーズ「わかりました。では、次は、メッセンジャーではない方のご来社をお待ちしております」
笑顔で権藤に一瞥。電話に出る。
ルイーズ「Yes、今、終わりました…」
権藤項垂れている。ルイーズ、電話しながら会議室を出ていく。権藤、立ち上がる。
最中の紙袋を持つ。稲田に紙袋を渡そうとする。稲生、手を振って避ける。
大谷、急いでスマホを取り出す。
○大谷・自宅マンション・全景(夜)
東京タワーが見える高層マンション。
○大谷・自宅マンション・リビング(夜)
電気が点く。入ってくる大谷。白で統一された高級家具。ドッカとソファに座り込む。スマホを確認、大きく溜息。
○居酒屋・店内(夜)
権藤と稲生が焼酎を飲んでいる。
権藤「最近の若いヤツはダメだな」
稲生「飲みニュケーションが大事だよな!」
頭にネクタイ、割り箸が刺さっている。酔っ払い。
○大谷・自宅マンション・大谷の部屋(夜)
PCを見ている大谷。PC専用眼鏡に画面が映っている。早業の様なキーボード操作。黒で統一された無機質な部屋。6面のディスプレイ。各国の為替チャートが動いている。銀行のディーリングルームの様相。
大谷の座っている椅子越し、後ろから抱きしめてくる手。左手薬指に指輪。
大谷「お帰り…」
ルイーズ、大谷に頬ずり、ふざけた様子で、
ルイーズ「今日はどうですか?」
大谷「3千万の負けだ。昼間スマホに触れなかったからな…でも、1億マイナスから、7千万戻したんだぜ…」
ルイーズ「じゃあ…今日中にはプラスになりますね。さすがは旦那様」
大谷「あのあと大変だったんだぜ…わけわかんねー話を…ったく…つかえねーな…バブル期世代ってヤツは…」
高級ビールを持つ薬指、ルイーズと同じ指輪。
・・・・はい、いかかがだったでしょうか?
実際に「切腹最中」は買ったことがある。
「切腹最中」は、赤穂浪士、浅野内匠頭がお預けとなった、切腹した田村屋敷跡にある和菓子店の商品だ。
本当に劇中の風景そのままで・・・
朝早くから・・・・店の開店前から、これから謝罪に向かうサラリーマンが並んでいる・笑。
東京のビジネスシーンでは「あるある」って話だ。
出す方も、出された方も「知ってる」って商品なので、
まぁ、場面が和む。・・・・謝罪の状況にもよるだろうけど。
さて、課題は「サラリーマンもの」ってことなので・・・
最近は、「日本型サラリーマン」の弊害が浮き彫りになる時代なので、そんなシーンを描いてみました。
・・・で、講師陣の総評は、
面白い!!
という評価。
・・・・しかし、
「主人公の大谷が何もしていない」
と言われた。
主人公が、「何か」をして、・・・トラブルを解決する・・・あるいは、その一端を担う。
でないと、物語にならない。って指摘された。
主人公が「傍観者」では、ドラマにならない。という指摘だった。
その通りだと思った。
「眼から鱗」の指摘だった。
この物語だと・・・
物語としては面白いけど・・・・そこから、さらに踏み込んで、観客が感情移入していくことができない。
つまり、ヒットする物語にはならない。って言われた。
じつは、これが大事なことだった。
そして、素人の物書きと、プロとの違いなんだった。
素人は「ストーリー」を考える。
面白いストーリーを考える。
・・・それが「面白い物語」だと思っている。
プロが考えるのは物語じゃない。
キャラクターだ。
物語上で、キャラクター、主人公が右往左往して「何か」を成し遂げていく。・・・その行動や、心情の変化に観客は感情移入し、感動するんだと考えている。
その「ドラマ作り」の基本の基を教えてもらった課題になった。
ドラマ作りは、キャラクター造りだ。
とにかく主人公を右に左に走らせる。
困難に立ち向かわせる。・・・そして解決させる。
これが大事なんだと教わった。
むっかし・・・・
昭和の時代の大ヒットドラマ。
刑事ドラマの金字塔。
「太陽にほえろ!」
めっちゃくちゃヒットしたんだけど、
あの物語の中で、とにかく刑事たちは走る。・・・走らされる。
役者さんたちが回顧する時でも、
「とにかく走らされました」
ってなことを言う。
どうやら、それが、ドラマ作りの基本の基らしい。
主人公を「困らせて」「走らせる」
それが、観客の感情移入を生む方程式だと教えられた。
・・・・なるほどなぁ・・・・・
これを教えてもらっただけで、学校に行った甲斐があったというものだ。授業料回収したってくらいの金言だ。
ここら先、
私の物語は、
主人公が、
困難にぶつかり、そして走る。
って王道の物語を紡ぐことになる・笑。
ちなみに、本来の脚本であれば、人物紹介の欄で、
ルイーズ(37)四友自動車 常務
↓
ルイーズ(37)四友自動車 常務 大谷の妻
と書かなければならない。
今回は、「物語」として読んで欲しかったので書かなかった・笑。