Rusty-Words -6ページ目

硝子の雨


檻の外へ…
一度きりの自由へ…



箱の中 身を竦めて
獣は空を眺める
果て無く広く遠い空に
何を探していたのか



苦痛を与えられ
憎しみに牙を剥き爪を立て
内も外も傷だらけの箱は
磨り硝子の心



優しい歌声が箱を震わせ
獣は僅かに心を寄せる
閉ざす瞼の向こうの明日に
微かに怯えながら



嗚呼、彼に愛された貴女の様に…
俺の傍らにも誰かが居れば…



一度きりの自由に焦がれる事は
無かったかもしれない。



箱と呼ばれた繭の中で
微睡みの中、鳥へと姿を変えた獣
その羽撃きは硝子の檻を砕き
煌めく破片を振るい落とした翼が
風を捉える

檻の外へ…

あの広い空へ…

一度きりの自由へ…

全ての向こう側へ…



歌はもう聞こえない。



アスファルトと思い出と、蒼空と枯れた花束




痛い、痛い、こんなにも痛いのに

どうして貴方は見つからないの?



いつも通りの朝、変わらない日常

なのに貴方が何処にも居ない

私は今日も独り、この部屋で帰りを待つわ

だから、ねえ早く戻って来て



『…随分、冗談が苦手なのね

どうしてそんな目で見るの?

あの人は嘘なんて吐かない

きっともう直ぐ帰って来るわ』



約束したのよ、守らなきゃ。



幾つも季節は廻って

手向けられた花は枯れてゆく

指折り数える日々に倦んでいく
もう疲れてしまった



貴方が最期に見た景色が

蒼空だったと信じたい

ねえ、皆が言うように

貴方は其処に居るの…?



貴方と同じ場所から跳んで

なのに貴方は何処にも居ない



理解と共感




『人は互いを理解し得ない』と

誰かが嘆いた

『分かり合えればどれ程幸せだろう…』

誰かが囁いた



本当にそうだろうか

本当に幸福だろうか

俺はそう思わない



理解も共感も必要無い

互いの痛みを分かり合う?

傷を埋め合う事に意味なんて無い

簡単に理解される程度の痛みを

『傷』と呼ぶのは哀れな道化



この痛みこそが俺を俺にするから



理解も共感も必要無い

理解も共感もする気は無い

誰にも触れないこの場所で

俺は俺であり続ける



この胸に残るのは

埋め様の無い傷痕ばかり

この胸に残るのは

薄れる事無き痛みばかり



誰でもない、俺が俺である証