スタニスワフ・レムという作家のSF小説「ソラリスの陽の下に」という作品があります。
映画にもなり有名なので読んでいる方も多いと思いますが、ちょっと解説しましょう。
惑星全体がある生命体で、センサーと表示装置の機能をもっていました。その「惑星」が、侵入者である人間の脳の無意識領域に入り込み、価値判断なしに無意識下のイメージを現実に再現するというストーリーです。亡くなった妻や愛人などが登場します。いろいろ隠したいこともあるのですが、主人公はそんな過去の問題に振り回されるのです。
この小説は観点を変えれば、もし個々人の情報が極限にまで一斉公開されたらどうなるのかという問題提起を行っているように感じます。高度ネットワーク社会で生じるプライバシー侵害の問題を考えるのに参考になると思いました。
そんな「ソラリス惑星」はその気になれば作ることができます。
現在のインターネットがその可能性と危険性を秘めています。インターネットではご存じのように、隣同士のコンピュータ間でバケツリレーのようなやりとり、データの蓄積交換をしています。ある特定のパソコンから、いつなにをアクセスしたかその気になれば全記録をとることができます(Sniffingやスパイウェア)。この記録はその特定パソコンを扱う人の意識や無意識の構造(抑圧して近づかない操作のパターン)を表現します。こうした記録はスーパーユーザーという管理者はいつでも見ることはできますが、電気通信事業法の守秘義務があり、また通常は膨大なデータ量なので限界があります。しかしコンピュータなら分析が可能なのです。
以下は作り話ですが、現在の技術で十分実現可能です。その実例は軍用の個人情報分析システム「エシェロン」でしょうか。ここでは、おそらくエシェロンでも行っていると思われる分析処理を再現してみます。
「惑星ソラリス」と呼ばれるサーバーがありました。通信経路の記録を次々と保存し、いちどもホームページを作ったことのない人にも、そうした操作記録をもとにメールを作り出し発信することができました。
意識というものは不思議なものです。
自分がこうだと思いこんでも、他から見れば別の人格のように見えるものです。また無意識に抑圧しているものはその話題から避けるなど、操作のクセから推測できます。「惑星ソラリス」もそんなあなたの意識を分析して、語りかけてきます。小説と同様に、無邪気に、価値判断もせず、本人も忘れていた話題を突然提示します。びっくりして返信したその反応に対し惑星はまた分析を加え、エンドレスの心理戦を開始するのです。相手は惑星。生身の人間がかなうわけはありません。
いままでプライバシー侵害というと、人間が他人の情報を公開する問題でした。
人間が意図的に公開しなければ侵害を受けないと信じられていました。しかし機械が単純に通信する時系列の操作記録も立派な個人情報です。現在は「機械が見ている。問題だ!」などのクレームは笑われるだけですが、長期間で考えるとこれがワナなのです。
今後も携帯電話やインターネットで情報交換が徹底して行われ生活に関わるほとんど全ての事柄が時系列操作情報で流れる状況です。日常的に操作するパターンはあなたの思い込んでいるあなたではなく、現実のあなたの人格そのものです。ソラリス惑星はそんなあなたに、ある日突然、心理戦を挑んでくるのです。