ここ地力塾で日頃している外仕事は基本的に全部好きだけど、その中で一つだけ苦手な作業がある。
それは、草刈り。
草刈機(通称ビーバー)が未だにうまく使えず、手際は悪いわ、刈る方向を間違えるわ、すぐ歯をダメにしてしまうわ…
斜面は特に、草刈りと言うよりも、土ごと削り落とす事も少なくない。
先日は午前中に稽古場の周りをゥワッと刈ったが、勢いの余り草に埋もれた小さなブルーベリーの木まで危うく切ってしまう所だった。
それでもヘタクソなりに、白く可愛らしいヒナギクや、キリッとした佇まいのアザミなどが咲いているところは避ける様に心掛けている。
それはお師匠さんの感性に学んでの事。
少し前の出来事だけど、乾かすために積んでおいた薪を別の場所に移動する事になり、どこが良さそうか話していた時。
風通しも良く、邪魔にならない、ちょうど良さそうな場所があったのだけれど、お師匠さんは:「あそこは最近花が咲き始めたから、先にあちらに移しましょうか。」と、別の場所を選んだ。
見ると木の下に可愛い白い花がまとまって咲いていた。そこに薪を積めば、ちょうど潰されるか、陰に入ってしまう位置にある。
次に何をどうするか決める基準が、花、だと言う事に、私は密かに感激した。
チェーンソーでバリバリ木を切ったり、バコバコ薪を割ったり、汗だらだらになりながら畑の畝立てをしたり、ビーバーでブィィィィィンと草刈りしたり、結構勢いのある、いかにもたくましい仕事をしていながらも同じ作業の流れの中で、小さな花の居場所を気に留める、その勢いと繊細さが共存している事にハッとしたのだ。
特に体力的にも激しい作業をしていると、勢いでそのままエーイ!と全てをぶった斬りにしたくなるのが、普通だと思う。ただでさえ草刈りは体力とコツを必要とするのに、いちいち小さな花を避けるなんて…
でもよく考えてみれば、そのバランスこそがお師匠さんの舞台の魅力なのでは…と言う事に気づいた。
力強い動きの中に、フワッと抜ける軽やかな扇の返し。
バッと跳んだが、無音の着地。
ドーン!と打つ様に見せて、空振る手。
一見険しく、激しい鬼や獣も、気高さや可愛らしさがきらりと光る。
人も舞台も外仕事も、その時、その空間によって変わるいくつもの面がある方が、複雑で、奥深くて、味になる。
最近は来月の「和来座」に向けて、芝居の稽古の機会も増えているが、ついつい初めに決めたキャラで全てのセリフを通したくなってしまう。でも本当は、いつも同じ人なんていない。
難しいけど、「もういいや!全部刈っちゃえ!」などと単純にならず、その時目の前にいる人や状況に反応しながら作業にも、舞台にも、挑んで行きたいと思う。
梅雨に入り、草がグングン伸びていく。少なくとも草刈りは、これからしばらく練習する機会がたっぷりあるだろう。