何故俺がその場所が怪しいと思ったのかと言うと、依頼者の最近のミーちゃんの状態を聞いて、思い出したからだ。
「そう言えば・・・最近のミーちゃんは元気がありませんでした?」
「元気が無い?」
「はい、何時も遊ぶ時に使うおもちゃに反応を見せなくて、食欲もいっさいなく、消える二日前には吐いてしまって・・・」
「?・・」
「それで彼と一緒に病院へ連れていこうとした日にいなくなったんです」
この話を聞いたときストレスか何かが原因じゃないのかと考えていた。しかしそれは間違いだ。本当はミーちゃんは何かの病にかかっていて、自分の生きる時間が残り僅かだと気付いたんだ。だから主人の前から姿を消したんだ。主人に自分の最後を見せないために・・・
 こんな話がある。猫は愛された主人の前で死ぬ姿を見せないようだ。もしその姿を見せてしまったら、主人はとても悲しくなる。だから猫は死を感じたら主人の前から姿を消し、ひっそりと死んでいくのだと・・・もしその話通りなら猫はその場所にいる可能性は高い。


 数分後、俺達はその場所に着いた。学校と幼稚園の間にある川にかかっているコンクリートで出来た橋に・・・そしてこの場所がネットで見た橋と一緒であることも・・・
「血糊すまんが下に下ろさせてくれ」
「えっ・・・でも・・・」
「大丈夫。危なくなったら逃げてくる」
俺は力強く言うと、胸ポケットから出て、そのまま下に降りると、ゆっくりな足並みで川沿いを下り、橋の下を見た。人間が捨てたゴミと土の上に白い毛をした猫がぐったりした状態で倒れていた。俺は急ぎ足で近づこうとすると、あの独特とした声が響いてきた。俺はその声を無視しながら、急いで走り出す。と同時に現れた野良猫が俺を捕まえるために走り出す。俺は必死になって走る。こんなところで猫の餌になるのはゴメンだからだ。しかし野良猫も諦めずに俺を追いかける。そこで俺はゴミとゴミの間で出来た溝に入り、隠れる。野良猫は俺がいなくなったことに気づき辺りを見回して探すが、すぐに諦め、ノソノソと先ほど走ってきた道に沿って歩いて行った。俺は野良猫がいなくなったことを確認し、姿を表し、倒れている猫に近づいた。猫の顔からしてそれは依頼者が二日間かけて探したあのミーちゃんだった。俺はミーちゃんに言葉をかけてみる。
「おーい、大丈夫ですか?」
しかし何の反応も返って来なかった。俺はもう一度声をかける。
「おーい・・・おいっ!!」
するとミーちゃんの閉じていた目がうっすらと開き、俺を睨み付ける。そして弱々しい声でこう言った。
「何だいネズミさん・・・」

俺は人間の言葉を喋るネズミだが、実は他の生き物の言葉もわかるネズミだ。俺は探偵を開業する前にあの事務所で生き物達の相談相手となっていた。相談相手の大体がネズミだが、たまに鳥や野良犬、はては野良猫なんかが俺に相談してきた。まぁその当時から俺は猫を苦手としていて、それは今もあまり変わらない。何故俺が人間の言葉や生き物達の言葉を理解出来たかって・・・それは自主勉強のおかげだ。今はそういうことにしといてくれ。


 さて話を元に戻そう・・・弱々しい声で言うミーちゃんに俺は少し後ろに下がり、返事を返した。
「あんたは・・・ミーちゃんか?」
「確かにあたしはミーちゃん、ミーラルだよ」
まさかミーちゃんはあだ名だとは思わなかった。それはさておき俺はミーちゃんの姿を見る。写真に写っているミーちゃんより体は痩せこけ、綺麗だった毛並みはボロボロになっていた。
「・・・」
「何だい美味しそうなネズミさん。あたしの体何か見て・・・」
その言葉を聞き、俺はさらに後ろに下がる。その姿が面白いのか、ミーちゃんはクスクスと笑う。しかしその笑っている声も弱々しかった。
「面白いネズミさんだね。悪いけど食って焼いて煮ろうなんて考えてないよ・・・主人に言われているしね・・・」
「そっ、そうか・・・」
俺はそう言ったがミーちゃんの容態が良くなるわけではない。これが命が散る瞬間なのか・・・俺は感じていると、ミーちゃんが弱々しい声で話し掛けてきた。
「あんたは・・・主人に頼まれてあたしを・・・探していたのかい?」
「あぁ」
「悪いけど・・・見つからなかった・・・ことにしてくれよ・・・」
「何故だ?必死になってお前を探していたんだぞ!!」
「気持ちは嬉しいよ・・・でも・・・もうこの世にいられなく・・・なるんだよ」
「・・・」
「猫は昔・・・死者の使いと呼ばれた・・・時があってね・・・その名残か・・・自分の命が散るのが・・・分かるんだよ・・・」
「だから主人の前から去ったのか。自分の最後を見せない為に・・・」
「そう・・・こんな姿を見たら・・・主人の心に・・・深い傷が入る・・・あたしは主人が・・・幸せならそれで・・・いい・・・」
「・・・」
俺が黙っているとミーちゃんは前足で俺を優しく撫でた。
「昔ね・・・あたしがまだ幼い時に捨てられてね・・・段ボールの中・・・最後を迎える覚悟を決めた時・・・主人が現れた」
「・・・」
「主人は・・・汚いあたしを大事に抱いて・・・家に連れてった・・・それからの十年間・・・幸せだった・・・それだけであたしは・・・満足だよ・・・」
「けど・・・」
俺が何か話そうとした時、後ろから大きな声が聞こえた。
「マウスさん!マウスさん!!」
その声の主は血糊だった。どうやら心配になって下りてきたのだろう。俺も大声で返事を返す。そうしないと俺の声なんて聞こえないからだ。
「ここにいる。ミーちゃんもいた。けど・・・」
「それなら良かった。今河瀬さんが国崎さんに連絡したところです」
「えっ・・・」
俺が返事をかえそうか悩んだ。しかしそれより早く血糊は俺とミーちゃんがいる場所へ来た。そしてミーちゃんの姿を見て、沈黙する。血糊もこの現状にどうするべきか悩んでいるようだ。
「マウスさん・・・」
「・・・」
「あんたマウスって言うのかい?」
「あぁ・・・ミーちゃんみたいなあだ名だ」
ちなみに先程のミーちゃんの言葉は血糊には弱々しい声でニャ~としか聞こえていない。で俺も同じ様にニャ~と言っている。そう思ってくれ。
「あたしは・・・もう死ね・・・」
「・・・」
「最後にあんた見たいなネズミに会えて・・・良かったよ・・・」
「まだだ!まだ行くな!!」
俺は叫ぶと、後ろにいる血糊にこう言った。
「血糊、ミーちゃんを主人である国崎さんに会わせるぞ!」
「えっ・・・でも・・・」
「分かっている。もうすぐミーちゃんは死ぬ。けどこれで終われたくない!」
俺は力強く叫んだ。その言葉を聞いた血糊は分かってくれたのか、血糊はゆっくりとミーちゃんを抱えた。ミーちゃんは抱えられた状態だが驚いている様子は分かった。
「ネズミさん・・・これは・・・」
「お前もお前だ。もうすぐ死ぬかもしれない。それなら主人に最後の別れぐらいしてやったらどうだ!」
「そんなことしても・・・あたしの言葉は通じるか・・・」
「例え言葉が違っていても、伝わるはずだ!!」
俺はミーちゃんに向けて叫ぶと、ミーちゃんは何かを考える仕草をしていた。俺の言葉は伝わったようだ。そうだこんな別れ方じゃダメなんだ。別れるならちゃんと伝えないといけないはずだ!

中編終わり

後編へ続く・・・