「人生なんて」 | desert.com別館

「人生なんて」



ついにレコーディングが始まる。

一体どれだけ待たせれば気の済むのだ!

・・・という、見えないプレッシャーに圧され、

このスタジオは永い眠りから目覚める。





今回は、長期ブランクのリハビリにちょうどいい、

オリジナルではギター1本で録った「人生なんて」を選ぶ。

アコギがまだ息をしている。

チューニングすら狂っていない。


僕が、そう、21歳頃だ、この曲を録ったのは。


そして楽曲も少しも狂ってはいない。

ずれて狂ってしまったのは全て僕の方だ。


ミディアムゲージなのに指がつらい。

その指先にある確かな痛みこそが、

僕自身であったではないか!


リズムもテンポも機材も操作も、まるで振り出しだ。

最初のギターを録っている最中に「ポテち印刷」がいきなり話しかける。

当然録音はストップし、彼はアニキの容赦ないガチの視線を浴びて、

ただうろたえる。


僕はもうすっかり地を離れて全世界観を僕だけのものにする。

声が違う、

音が違う、

息が乱れる、

イメージが撹乱する、

もうあの奇跡的に無垢な病魔と結んだウタは決して戻って来ない。


故に僕は歌い続けることができる。


今、刹那的儚き今にこそ、歌える歌がある。


ブルースハープにリバーブがかかって、

あの夕闇迫る河原に僕は行ってしまう。


あの手に余る自由な心へ・・・。



「ポテち印刷」が何度も水を差す(大笑)

アニキが時折本気で睨んでいる。

そうさ、僕らはいつだって自由の因子だったじゃないか。

紆余曲折に果たして意味があったのかなんて、どうだっていいじゃないか。


「ポテち印刷」は暴言を吐きまくり、最後はアニキにぴしゃりとやられ、

「切腹します!」

と言った。




また、もう一度ウタを歌い始めた僕らに救いはあるのか、

さあ、行ける所までは行ってみようじゃないか!


by Tajima Yohsuke