マツムラブ | Commentarii de AKB Ameba版

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Tags:School days、かおたん、片想い

 AKB界隈では研究生を「R」という文字で表現することがある。
 たとえば「R公演」と言えば、研究生公演のことだ。
 察するに「研究生」の直訳「Researcher」ないしは「Research student」がその由来なのだろう。しかしAKBの研究生は、何かを「Research=研究」しているわけではない。「見習い」「半人前」「修行中」の身である。ここでいう「研究」とは「研修」の意味だ。だから「R」ってのはちょっと実情にあわない。
 だからJKTでは、研究生は「Trainee」、つまり「トレーニング中の人」とよばれる(そいやJKTのDVD買ったらtraineeの誰かの直筆サイン入りカードが入ってたよ)。

   夢見がちな私に/どうかチャンスください
   先輩のことだけを研究ね!

 だが松村香織先輩のことを素直に「Trainee」と呼ぶのは、どうにもはばかられる。紛う事なき研究生なんだけどね。

 本来は正規メンバーに昇格するために切磋琢磨する通過点でしかない「研究生」。
 松村先輩はその地位に自ら(公式にはね。ホントはどうなのかわからない。でも先輩が自分の意思でそう決めた、と言うのだから僕らはそうだと思うべきなんだ)留まることを選んだ。
 すでに「見習い」でも「半人前」でも「修行中」でもない「研究生」。ひょっとしたら、彼女こそホントの研究生、「Researcher」なのかも知れない。

 研究する松村香織。いったい何を?

 AKBという運動体の、本来あるべき姿とは何か。
 たくさんの少女たちとヲタどもの「夢」を、どう叶えていくか。
 夢の代償として傷ついていく魂たちを、どうやって癒していったらいいか。

 本来それを考えるべき太ったおっさんは、どうやらここのところ居眠りをしているらしい。


 やれやれ、最近そんなことを真剣に考えてるのって、かおたんだけじゃねえの? 
 たとえばこないだの、「新曲PV歴代センターに内田さん呼ばれなかった事件」。
 夢想してみる。松村先輩がその現場にいたら。

 「うっちーさんいないのおかしくないですかー」。
 渋い顔の「大人」たち。
 「いや、ほら、チャン順はミリオンいかなかったから」。
 「えーじゃあ、たかみなさんのセンター曲って、軽蔑ですかー? ミリオンどころか3万いってないですよねー」。 
 「…お前もう帰れ。あとこれぐぐたすに上げるなよ」。
 その夜。
 「上げるなよって言われちゃったんだけど-。やっぱおかしくないですかー」。
 「センターってそんなに軽いもんだったんですかー」。
 「チャン順って、いつかチャンスが来てもいいように、くさらずに普段から自分を磨いて行こう!って曲ですよね-。今のAKBってそれ否定しちゃうんですかねー」。
 炎上炎上炎上…
 
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 ところでこの「マツムラブ」、「歌ネット」「うたまっぷ」「歌詞ナビ」等々、メジャーどころの歌詞検索サイトでは軒並み404を喰らってしまう。まるで自主製作盤なみの扱いだ。
 「SKE初のソロプロジェクト」と大言壮語しておきながら、わざわざ「錦通レコーズ」というインディーレーベルをでっち上げて、しかも枚数限定の販売。普通に販売していたらそこそこの成績でチャートインしてたはずなのに。
 「栄で最初にソロデビューした」のは松村香織だが、「栄で最初にメジャーソロデビュー」するのは別の誰か、ということにしておきたいんじゃないかって邪推したくもなる。

 余談だがこの辺の事情は、本店のソロプロジェクトにちょっと似てる。
 巷間AKB初のソロデビューは板野△ということになっているが、ホントは「大堀めしべ」ことめーたんの「甘い股関節」の方が先だ。作詞作曲は秋元康&後藤次利のゴールデンコンビね。
 ちなみに2番目は増田有華の「Stargazer」だし、3番目は「おぐまなみ」ことまーたんの「かたつむり」だ。
 でもこの3曲は、AKB的にはいつの間にか「なかったこと」にされてしまっている。
 それぞれのリリースは、AKBが広く世の中に認知される前だったし、大堀も増田も奥も、決していわゆる「推され」のメンバーではなかった。だから営業的観点からみたらそれは仕方ないことなのかも知れない。

 その伝で行けば、SKE的にはいつの間にか「マツムラブ」という楽曲がなかったことになってしまっても不思議ではなかった。「大人」たちはきっとそうしたかったんだろう。
 ところがぎっちょんちょん。
 
 SKE「アップカミング公演」のM1。
 SKE48リクエストアワー2014の13位。
 それを歌うご本尊は「総選挙」で堂々の第17位(忌まわしい事件と「交換留学」に伴う大人の事情がなかったら、などと泣き言は言うまい)。

 「大人」たちは目を逸らそうとしているが、嫌でも見ないわけには行かないこの現実。

 何が「どうかチャンスください」だよ。
 口を開けて「チャンス」が落ちてくるのを待っているヒヨッコに紛れて、自分の力でチャンスを狩り取ってくる猛禽類が一羽。

 松村香織。
 ひと呼んでかおたん。
 SKE48終身名誉研究生にして48グループ研究生会会長。

 いったい彼女は何者なのか?

 僕はそれをきちんと語る語彙をいまだ持ち合わせていない。
 ご大層な肩書きも、それが何を意味しているのか僕には全くわからない。

 だが僕は松村先輩が「何者ではないか」はよく知っている。

 まずなによりも、彼女は正規のメンバーではない。
 かと言って、ただの研究生でも、ない。

 「黄金の3期」の中で熾烈なオーディションを勝ち残った理由がそもそもわからない。

 ぱっと見で人々を引きつけるような美人では、ない。
 業界の基準によれば、若くはない。
 美声の持ち主でも、ダンスの名手でもない。スタイルはと言えばゲフンゲフン。
 バラエティ指向はあるのだろうが、自分のフィールドではないところで人を笑わせる術に長けているようでもない。 

 あれだけ「炎上」に見舞われていながら、それを反省をするでもない。かと言って打たれ強い訳では、決してない。

 要するに彼女は古典的な意味でのアイドルではない。

 ないないづくしの否定の積み重ねのその彼岸に、何者かとして傲然と屹立している松村先輩の姿を、僕らは痛快さと少々のおののきを持って見つめている。

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 舞浜アンフィシアター。
 その語源であるアンフィテアトルムの本来の意味は、「円形闘技場」。
 古代ローマでグラディエーターたちが栄光のために血で血を争った場所だ。 

 2014年11月26日。
 松村先輩はその闘技場に、たった6名の「研究生」とわずかな援軍を率いて立っていた。
 迎え撃つは、血に飢えた関東のヲタども。

 アウェイ。
 知名度の低さ。
 短かかった準備期間。
 ネガティヴな要因?
 いやいや、むしろ条件は整ったと言っていい。
 そうだよね、かおたん。

 それでもかおたんなら、松村香織ならきっと何とかしてくれる。