カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師@新国立劇場
前回は「12音技法を使ったオペラ・ヴォツェック」、前々回は「20世紀を代表するオペラ・死の都」ですた。で、今回は「ヴェリズモ・オペラの二大傑作・カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師略してカヴァ&道化師」、英語で言うところの "Cav and Pag"。この二演目って、だいたい抱き合わせ販売なのね。DVDもそう。
ヴェリズモってのは英語で言うところのリアリズム、19世紀後半から20世紀初頭にかけてイタリアで興った文芸上のムーブメントのことだそうです。神話やおとぎ話じゃなくて、日常のリアルな生活を描写する、ってことでしょうか。
そうすると、ヴェリズモ・オペラというのは、絵空事じゃなくて日常的な生活の中の「リアル」をテーマにしたオペラ、ってことになりますね。ってことは「ラ・ボエーム」なんかもヴェリズモなのかしらとも思うのだけど、そうでもない。
ヴェリズモ・オペラって言うとなんか自動的にこの「カヴァ&道化師」の名前が挙がるようです。
どうやら「日常」っぽいってだけじゃダメで、それプラス「貧乏くさくて悲惨」という要素が入らないといけないみたい。それがリアルなオペラってことらしい(「ラ・ボエーム」だって貧乏くさくて悲惨不思議とじゃん。アドルフォはその日暮らしでストーブには薪はないし、ミミは結核で死んじゃうし。でもお話しは全体を通して明るいんですよね)。
じゃあどんなお話しがイタリアの「ヴェリズモ=リアル」なのか。
まず「カヴァ」。
お話しを要約すると、主人公が旦那のいる元カノと浮気をしてたら、主人公の今の彼女がブチ切れて元カノの旦那にチクっちゃって、ブチ切れた元カノの旦那によって主人公が刺されて殺されちゃいましたちゃんちゃん。
抱き合わせの「道化師」。
これまた要約すると、主人公がカミさんに浮気されてブチ切れて、カミさんと浮気相手を公衆の面前で刺して殺しちゃいましたちゃちゃん。
ホントだってば。ホントにそうゆう話なんでびっくり。
「貧乏+悲惨+浮気+ブチ切れ+殺人」。
うーむ、これがイタリア人の「リアル」ってことなのか。
そう言われるとそんな気もするな。
どっちも殺伐としたストーリーなんですけど、歌の力でひっぱりますね。
「カヴァ」、前半は少し眠かったけれど、後半ブチ切れた彼女のアリアは絶品でした。
あとラストの、元カノとの浮気がばれて、やっべー、オレ殺されちゃうよママごめんね、というシーンが泣けた。主人公、情けないんだか潔いんだか。あ、それが「田舎の騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)」ってことなのか。
「道化師」、「芝居を演じている役者にもリアルな人生がある」ってのがテーマ。芝居なんて「テーマ」とか言い出すと急につまんなくなるのが常だけど、これもまた歌の力で救われてますね。
幕が開く前に「口上」が述べられ、客席から主役級の役者が舞台に上がって行き、芝居の中の芝居で人が殺され、主人公は舞台を降りて客席から外へ出て行く。
お、芝居の「枠」から飛び出すってことね。手塚治虫大先生のマンガのコマが壊れる、みたいな演出。
最後に「喜劇は終わった」と「口上」。
なんかアングラが流行る前の、おベンキョウができそうなスタッフが作った新劇をホウフツとさせて懐かしかった。
でもこういう演出で言ったら、「フォルスタッフ」の、「みんなダマされた!」て観客を指さしながら、ちょっとっつ客電が明るくなってくって演出の方がインパクトでかかったかな。今まで安全地帯で笑ってた客が、実は笑われてたってオチ。
初日ってことで、例によって各国外交官にみなさまがドレスアップでご来場してて華やかでした。その一方Tシャツジーパンのおっちゃんがいたり、最前列は相変わらず常連さんの井戸端会議みたくなってました。何かこういう感じ好きですね。例の紳士は今日も欠席だったけど。