忘れてしまう前に | Commentarii de AKB Ameba版

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AKBとかその周辺とか

少したらみんな忘れてしまうから
きっと僕もすっかり忘れてしまうから
そうなる前に書いておこう

なっちゃんのこと

2005年12月8日
はじまりの日
秋葉原の
シアターの舞台よ
あなたは覚えているだろう
きらきら輝く笑顔たちの陰
一番後ろの端の方で
ぴょんぴょんと跳ねていた女の子を

まるでそうすることによって
もっと高く
もっともっと高く
高い高いところの夢に手が届くといわんばかりに
ぴょんぴょんと
その日から毎日毎日
ぴょんぴょんと跳ね続けていた女の子を
流し続けた
その汗を
その涙を

シアターの舞台よ
あなたは覚えているだろう
それがなっちゃんだった

眩しいスポットライトを
浴びることはあまりなかったが
他の誰よりも多くシアターに立ち続けた
それがなっちゃんだった

とびっきりのべっぴんさんというわけではなかった
かかとに羽根が生えたような軽やかなステップは踏めなかった
一輪車は得意だったけど)
歌い出しを時々間違えた
でもその声は遠くまで届いた
遠く遠く離れた僕たちのところまで
それがなっちゃんだった

ある者は美しさを誇り
ある者は澄んだ声を響かせ
ある者は彫像のようにたたずみ
ある者は華やかに踊り
ある者は溢れんばかりの恩寵を受けた
それら以外の者
それがなっちゃんだった

大人の都合に振り回され
こどものわがままをなだめすかし
遅れる者の手を引き
傷ついた者をいたわり
涙流す者を抱きしめ
去ってゆく者を見送り続けた
それがなっちゃんだった

暗い夜空に星々がきらめく
その傍らにひっそりと光る
小さな青白い星
目立たない星
でも僕たちは知っていた
その星の温度を
そばにいる者を温める穏やかなぬくもりと
何もかも焼き尽くす内に秘めた熱を
その星がなっちゃんだった

はじまりの日から
二千と二百五十日め
2012年2月5日
お別れがやって来た
今日

今日から先も
賑やかなバンドを引き連れて
PARTYは続く
たくさんの水を後ろに残して
船は進む
そして少ししたら僕たちは忘れてしまうだろう
そこにはなっちゃんがいないことを

そこにはなっちゃんがいない
そこにはなっちゃんがいない
そこにはもうなっちゃんはいない

夜空の片隅の黒い黒い場所
かつてそこに確かにそれはあった
まるで何者かが闇の底を切り取って
べっとりと貼りつけたように
絶望と同じ色になった夜空のその場所に
かつて目立たない小さな星が
確かにあった

少ししたら僕たちは忘れてしまうだろう
そこにそれがなくなっていることを
そこになっちゃんがいないことを

秋葉原の
シアターの舞台よ
あなたは覚えていてくれるのだろうか
夢に向かって
ぴょんぴょんと
ぴょんぴょんと跳ね続けていた女の子が
誰よりも
あなたを愛していた
一人の
小さな女の子が
もういないことを

それがなっちゃんだった