暖かな晩に 父は僕の最初の家の玄関先に立っている
ぼくは四歳で もう疲れている
ぼくは星空のなかに 父の顔を見る
父のタバコの火は 周りの屋根に低くかぶさる
夏の月よりも赤い 父とぼくだけがそこにいて
父はぼくにしあわせかと尋ねる
「しあわせか」 という問いに ぼくは答えられない
ぼくはその言葉を本当は理解できない
父の声は 本人の声らしくなく
なぜかしゃがれていて 息を詰まらせている
前には聞いた事がなかったが その後よく聞く事になった声だ
父は屈んで ぼくの両眼の下を親指でなでる
たばこはもうなくなっているが
ぼくは 父の息に漂う疲労を嗅ぐ
父は涙が出てないと知り 微笑んで両手でぼくの顔を押さえる
それから父は ぼくを肩まで持ち上げる
こうしてぼくも父と同じ高さになって 星空のなかにいる
「しあわせ?」 とぼくは訪ねる
父はうなずく そうさ そうとも そうだよ
その新しい声で 父はそれ以上何も言わず
ぼくの頭をしっかりと自分の頭に押しつけ 星の光に両眼を閉ざす
一人の背の高い やせた子が 秋の実りの前で
もう一人の子を抱えているのを
あのまばたく 小さな光の眼が見つけてはくれないだろうか
少年はか細くつぶやいた そして 少年は静かな眠りにおち
この世界で 二度と 眼を覚ますことはなかった
<星の光>
