貧しいものがいなくなれば 憐憫もいらなくなるだろう
みなが一様に幸福ならば 慈悲が求められることもない
気遣いは平和をもたらすが そこに利己的な愛が忍び込むと
残忍さが罠をつむぎ 人の心をとらえようとする
神への恐れからひざまずき 涙で地面をぬらす先から
その足元には おぞましき 人間の性が根を下ろす
しかして人間の頭の上には 神秘の木が影を広げ
毛虫やらハエどもが 神秘をえさに繁殖する
神秘の木には欺きの実がなる 赤々として甘い実だ
すると大ガラスが木の陰に 巣を作って子を育てる
地上や海の神々は 自然の中にこの木を探すが
どこにも見つけることはできぬ 人間の頭の中にあるからだ
「人間たちが互いに気遣いあい みなが平等で 貧しいものもいないならば
憐憫や慈悲といった言葉は意味を持たない しかし人間には自己愛というものがあって
この利己心が互いを引き裂く ここから人間は無垢の状態から引き離されて
おどろしい現実へと入っていく 自己愛が育つのは神秘の木の陰であり
それは人間の頭の中に生える
したがって神々もそれを見つけることが出来ない 人間の本性 避けられない結末である」
<人間の抽象> ウィリアム・ブレイク
