2nd Stage 成長
状況がイマイチ読めずキョトンとするリクと、新たな仲間が増えたと喜ぶ青年六人と、新たな世話役が増えたと苦笑する大人一人。合計八人が固まって歩いている光景は、周りから見たら奇妙な光景に思えるかもしれないけど、そんなこと、俺たちにとってはお構い無しだった。特にカズたち四人にとっては初めてできる弟分―といっても、年齢はさほど変わらないと思うけど―ということもあり、喜びも一入で、周りのことを気にすることなく大声で喋っている。俺もユートと共にリクにいろいろと話しかけていたが、リクは表情を変えることなく、その度に俺たちの言葉を復唱していた。…こうやってリクを見ていると、やっぱり体型だけ俺たちと変わらない赤ちゃんみたいだな、と感じる。あぁ、あと泣かないことぐらいか。それと言語をはっきりと喋れることと…。
そんなことを考えている最中、後ろからジュンさんに呼び止められた。
「リュウ、お前リクを風呂に入れてやれ。俺のとこの風呂貸してやるから」
いきなりの話題にビックリして、暫く声が出なかった。
「え?風呂??俺が入れるんですか?」
「当たり前だろう、あいつが何にも知らないんだったら風呂に入る方法だって知らないだろうよ。最初に教えてやれば、あいつだって自然に覚えると思うぜ」
「ま、まぁ確かにそうだとは思うけど…」
断りきれず、というか断る道理が見つからず、結局俺はリクを風呂に入れてやることにした。
リクを風呂に入れるのは、思った以上に至難の業だった。まず、服を脱ぐ方法を知らない。病院だと全て看護士がしてくれてるから、自らの意思で「脱ぐ」という行為をしなくて良かったんだろう。ということで、俺がまず率先して服を脱ぐ、という操作をする。リクは俺をまじまじと見つめる。
「…そんなに見るなよ」
俺がそう言ってみても、言葉の意味を理解できないリクはそのままじっと俺を見つめる。思わずため息が漏れてしまう。恥ずかしさを耐えて、パンツ一丁になるまで脱ぐ。
「さ、俺と同じ様にやってみろ」
言っても意味のないことは百も承知だったが、案の定リクはキョトンとしている。仕方なく、俺はリクの両手を掴み、服を脱ぐ操作をさせる。最初は脱がせるのにかなりの時間が掛かったが、次第に慣れてくるもので、下着を脱ぐ段階までいくと俺の手を借りなくても脱げるようになっていた。が、ここでもう一つ大きな問題が生じた。全てを脱ぎ終えたリクは、前を隠そうとすることもなく、俺に真正面に向かって立った。
「お前…、恥じらいというのはないのか…」
恥じらいなんて知るはずもない、と思いながらも、ついぼやいてしまった。堂々と突っ立っているその姿は、俺とほぼ同じ年齢の思春期の青年からは遠くかけ離れた姿だった。素早く側に置いてあるタオルを手に持ち、リクの手に掴ませ、局部を隠させた。その部分を指差して、俺はこう言った。
「ここは、他人に見せるべき部分じゃない」
これが、俺がリクにした一番最初の「教育」だった。
実際に風呂場に入った後も、悪戦苦闘の連続だった。石鹸の使い方もシャワーの仕方も分からないリクの為に、俺がリクの両腕を動かしてそれらの作業をこなしていく。洗われる方は気持ちよさそうだが、洗っている方は腕がつりそうになる。一番苦労したのは頭からシャンプーをお湯で洗い流すとき。シャンプーが目に沁みるなんて分かるはずもないリクは、初めて感じる目の痛みに耐えられず体をじたばたさせた。俺が慌ててお湯を目に流し込んだのは言うまでもない。これで学習してくれればいいが。
と、その時、ちらっとリクの左耳で光っているものを見つけた。…ピアスだ。銀色で球形の小さいやつ。急いで右耳を調べてみるが、そっちには付いていない。以前から付けていたのだろうか?どちらにしても、あまりそこまで意識しなくていいかな…。
俺がそんなことを考えている時、何を思ったのかリクは俺を、さっきまでリクが座っていた場所に座らせて、後ろから俺の両腕を握った。そして、俺がついさっきまでリクにしていたそのまんまのことをし始めた。どうやらやり方は理解したようだ。って違うか…。リクがひとりで風呂に入れるのはいつになることやら…と途方に暮れかけていたそのとき、何やら背中に妙な感触がすることに気付く。もしや…と思ってちらりと後ろを見ると、案の定、思ったとおりのモノがそこにはあった。しかも、さっきより若干大きくなっている。こればかりはもう降参だ。
「お前、…体だけはホントに俺らとそっくりだな…」
言っても無駄だと分かりきっていることは、既にリクに聞こえない程度の小声で呟いているようになっていた。絡み合う複雑な思いはそのままに、結局俺はリクに全ての部分を洗ってもらう羽目になった。
(#09に続く)