「…俺たちで彼を引き取りたい、と思っている」
「ユート…」
「リョウ、お前は覚えているよな…。あの事件のこと」
やはりユートがそう思うのも、俺と同じ理由であった。…無理もない、あの光景は当時まだ十歳だった俺たちには刺激が強すぎた。
「あぁ…今日の仕事中、ずっとそのことが頭から離れなかった」
「あの事件って?」
サエがすかさず聞いてきた。カズも頭の上に?マークを浮かべている。俺は、話を進めるためにできる限り詳しく、かつ簡潔に事件のことをを説明した。説明し終える頃には二人とも顔が険しい表情に変わっていた。
「それは…ひどい」
思わずカズが声を唸らせる。
「勿論、これは極端な話だけど…あれから、俺は施設が信用できなくなったんだよな…。いくら病院と提携を結んでいるって言っても、今までに症例のないような子の世話をどうしたらいいなんて、そう簡単にできるはずがない。だったら、俺たちでも出来るんじゃないかって思う」
いちいち俺が言うこともなかった。俺の意見は、そっくりそのままユートの意見だったから。俺はユートが意見を述べるその様子をただ眺めていた。
「…俺たちそれぞれの勤務時間を考えたらさ、『Dust Boys』みんなで協力すれば、二十四時間彼の世話だってできると思うんだ。」
「確かに、私たちの勤務時間はバラバラだから、ずっと彼がここにいれば誰かしらが一緒になることになるわね」
カズもうんうんと頷いた。
「彼が施設に移されても、孤独になってしまうかもしれない。だったら、俺たちが彼の『仲間』になってやろうぜ!これ以上悲しい思いをする人を俺は見たくない!」
孤独、ということを俺は知らない。俺は物心ついた頃からずっとユートと一緒だったから。…だが、この言葉はサエやカズには重くのしかかったようだ。二人とも昔を思い出しているようで、険しい表情や悲しい表情を浮かべている…「Dust Boys」では、基本的に過去の話はタブーだ。個々それぞれに嫌な過去を背負っている。俺とユートが両親を地震で失ったことを、サエたちは知らない。逆に俺はサエたちがどういう経緯で東京に来たのか全く知らない。いつかは聞きたいと思っているが、話すのが嫌な話ならいちいち聞こうとは思わない。だって、大切なのは「今、この時」なのだから。それはここにいる誰もが感じている。
「やろうぜ!俺たちならきっと出来るって!」
「私も賛成!ちょうどカワイイ後輩が欲しいと思っていたところだし!」
「…よし、サエとカズはオッケーだな。リョウは…?」
こちらを見てニヤニヤしてるユート、もう答えはわかっているぞという感じでちょっと生意気に感じるが、彼の表情を見ていると憎めない。
「…言わなくても分かってるだろ?」
「アハハ…そうだよな。あとは、クミとタイガ、それに一応ジュンさんにも言っといたほうがいいのかな…」
「俺たちの心配をする必要はないぜ!」
突然の声に一同はビックリする。振り返るとそこにはクミとタイガがいた。
「クミ!それにタイガも!…今仕事中じゃ!?」
「仕事より大切なことって、あるんじゃない?」
「昨日のリョウの様子が気になってたから、今日は早めに上がることを最初から決めてたんだよ」
「お前ら…」
「話は途中からだけど聞いたわよ、私たちもその案には賛成。彼には会ったことないけど、施設なんかより私たちと一緒にいたほうが絶対に楽しいはずよ!」
「そうそう、それに彼のことも若干気になるしね。どんな子か興味あるし」
「なら、『Dust Boys』の総意として、彼を引き取る方向で、あとは、彼の生活環境の確保だけ…」
「その点については心配しなくてもいいぜ」
そう言いながらゲームセンターの奥からジュンさんが出てきた。どうやら最初から俺たちの話を聞いていたようだ。
「ジュンさん!」
「お前らがそうしたいって言うのなら俺は止めない。好きなところまでやってみろ。彼の食事代ぐらいは面倒をみてやるから」
「あ、ありがとうございます!」
食事代を支給してくれる、というのは嬉しすぎる予算だった。俺とユートは自然と頭を下げていた。
「ただ、寝る場所はさすがに用意できないな、…リョウ、狭いかもしれないがお前の部屋で寝させてやれ」
あの狭い部屋に二人で…、抵抗はあるが、これくらいは仕方がないと思い承諾した。そして、その後俺たちは夜遅くまで彼の引き取りに関する打ち合わせをしたのだった。
翌日俺とユートが代表して病院に行き、彼の引き取りについて承諾を得に行った。病院側は「きちんと世話するのであれば」ということで二つ返事で承諾してくれた。
そしてその日の夜、俺たちは「Dust Boys」の六人+ジュンさんで彼を迎えに行った。看護士に連れられて、彼は病院から出てきた。俺とユート以外初対面である彼は最初戸惑ったような感じでこちらを見ていたが、その違和感は今後のコミュニケーションで徐々になくしていけばいい。
俺たちは、大きな声で彼に名付けた新しい名前を叫んだ。名前は、「Dust Boys」のみんなで決めた。大地のように無限の可能性を秘めている、という意味の名前だ。…これから、彼との激動の日々が始まるのだ。
「リク!」
(#08に続く)