2018年のクリパ企画に参加しました。
このお話は「同じセリフで話を書こう」という企画に参加したときのものですが、
例のごとく字数制限に泣きました(笑)
今回、加筆修正してから出しているので発表したときとはなんかニュアンスが
違っているような気がしないでもない。(気のせいかな)
ちなみに、お題は「体の芯まで冷える寒さを、何をもって癒せば良いのか?」でした。
頂いたお題をそのまま一行目で突っ込みましたヨン。
では、どうぞ~
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~ウダルチの場合~
「体の芯まで冷える寒さを、何をもって癒せば良いですか?」
新入りのウダルチがチュソクに尋ねる。
この新入りは、昨夜歩哨に立っていたのだが、あまりの寒さに直立不動の姿勢を保てず、
宿舎に戻ったあと組長のチュソクに注意されていたところだった。
直ぐさま叱りたい衝動がこみ上げたチュソクだったが、ふと妙な心地に囚われて開きかけた
口を閉じた。
『何だろう。この心地は。前にもこんなやり取りをした気が・・・』
気が削がれたチュソクは、新入りを改めて見つめる。
鍛錬を始めたばかりで、身体つきは線が細く、こちらを窺う目には反抗的な色はない。
この寒さをどうやって凌いでいるのか。純粋にそのことを尋ねたいようだ。
すると、その話を傍で聞いていたトルベが、口を開きかけたチュソクを差し置いて喋り始めた。
「やぁ、お前はだな、鍛え方が足りないんだよ」
トルベは椅子から立ち上がると、ぬっと顔を新入りに突き出してそういった。
「見ろ。オレぐらいになるとだな、こんな寒さなど屁でもないんだよ。身体の造りが違うんだ」
二の腕に力こぶを作って新入りに見せ付けるが、衣の上からではわかりづらく、新入りは曖昧な
顔つきになる。
「ゴホン!まあつまりだな。身体を鍛えるとそれだけ身の内の熱が上がるのだ。これはオレが
言ってるんじゃないぞ。医仙がそう仰ったんだ」
医仙の名を出した途端になるほどという表情を浮かべた新入りに、勢いづいたトルベが続ける。
「よしっ!お前、今日はオレがみっちりと鍛錬してやろう」
新入りの肩をぽんと叩くと、トルベはそのまま行ってしまった。
トルベはウダルチの中で五指にはいる猛者だ。その猛者から直々に鍛錬を受けることになり、
新入りは、顔に不安と憂鬱の色をにじませる。
チュソクはその顔を見て、はたと合点がいき、フッと笑みを漏らす。
「鍛えることで身体は引き締まり、熱が逃げぬのだ。鍛錬を励めば、寒さにも負けぬ身体が
手に入る。励めよ」
チュソクもそう言うと、肩に軽く手を置いて立ち去った。
部屋を出て、チュソクはふと振り返る。
思い出した。
かつての自分もそうだったことを。
それまでとは比べようのない厳しい鍛錬に、己も弱音を吐いたことがあった。
「慣れろ。他に術はない」
それだけ言って立ち去るテジャンの後ろ姿を思い出した。
湧き上がる思いが、暫くの間寒さを忘れさせるようだ。
チュソクは力強く一歩踏み出すと、あの日の背中を追いかけるように歩き出した。