マシュー・バーニー(Matthew Barney)による6時間の映画"River of Fundament"(2014)を、ついに見ることができた。

 自分がマシュー・バーニーを初めて見たのは2002年、「クレマスター3」の映画だった。それから「クレマスターサイクル」(クレマスター1,2,3,4,5)を映画館で見た。金沢21世紀美術館の個展と「拘束のドローイング9」の映画を見たのが2005年。しかしそれ以降、作品を見る機会がなかった。

 "River of Fundament"も気になっていたのだが、下記で全編公開されていることに気が付いた。

 

 

 休憩をはさんで2時間ずつの3つのパートからなる。

 第1部の最初、いきなりマシュー・バーニーらしい変態的な場面がある。バーニーがトイレに入る。便器を開けると茶色い棒が浮いている。おもむろに棒を持ち上げ、そこにあった金箔を巻いて便器に戻した。気が付くとトイレの代わりに、汚れたうつろな目のおじさんが立っている。おじさんが巻いていたタオルを取ると、金箔に包まれた男性器がある。バーニーは後ろから入れられる。

 第1部はこの後は地味な場面が続く。長ったらしい通夜のパーティー場面と、パフォーマンスもわりと地味なやつで、けっこう退屈だ。

 しかしそれを超えると、第2部からは面白くなった。特に第2部の火を用いたパフォーマンスがすごかった。そして、たまに訪れる衝撃的な場面。(衝撃的な場面はたいてい、排泄物に関わる)。

 予備知識なしで見ると、全然分からない。

 "River of Fundament"の公式サイトを見ると多くの情報が得られる。
 公式サイトに脚本(台本?)が公開されていることに気づいた。ここに、セリフも全部書いてある。セリフだけでなく場面の説明もある。これを見ると、映画だけでは分からないことまで分かる。登場人物の名前も重要だがここで分かる。

 マシュー・バーニーの過去の作品と違って、"River of Fundament"には意外とちゃんとストーリーがある。一つは小説家ノーマン・メイラーの通夜の最中、メイラーが若者、中年、老人と3度生まれ変わる。もう一つはエジプト神話のオシリスとイシスの物語をなぞっていて、ホルスとセトが闘う。

 結局、ノーマンは3度生まれ変わってどうなったのか。ノーマンの生まれ変わりの話と、オシリスとイシスの話はどう関わるのか。など、分からないことがいっぱいあるが、しかし自分としては面白かった。

 

 

※予告編;

 


●3台の自動車

 アメリカの歴代の高級車3台が破壊されたり再生したりして、これも人の生まれ変わりを表す。

・薄緑色の、1967年のクライスラークラウンインペリアル
第1部で壊さればらばらにされる。第2部では残骸が川から引き揚げられて、オシリスとしてイシスと交わる。そして炉で解かされて型に注がれる。

・金色の、1979年のGMポンティアックファイアバードTRANS AM
第1部では女性を車の天井に載せて登場、第2部では金色の男を乗せて川に転落。しかし川から現れ、その中でイシスがホルスを出産する。第3部ではホルスの勝利の儀式の中で型を作る。

・茶色の、2001年フォードクラウンビクトリア
第2部で警察車両として登場。イシスが閉じ込められる。第3部では自動車工に分解されて儀式に使われる。


●オシリスとイシス
 "River of Fundament"の下敷きとなっている、古代エジプトのオシリスとイシスの神話はこんな話。

エジプト神話の4兄弟の神、長男オシリス、長女イシス、次男セト、次女ネフティス。オシリスとイシスが結婚し、セトとネフティスが結婚した。セトは王権を奪おうとオシリスを殺そうとする。

セトは、木棺にピッタリ入った者には、褒美として棺が贈られるという催しに乗じてオシリスを殺そうと企む。この木棺は、オシリスの体に合わせてセトらが作らせた物であったが、オシリスはピッタリした棺に横たわった。すると蓋がかぶせられ、隙間には鉛が流し込まれた。そしてオシリスが入った棺は、セトたちによってナイル川に流されてしまう。

セトはオシリスの遺体を14の部分に切断して、バラバラになったオシリスをエジプト中にばら撒いた。イシスは魔力でオシリスを復活させた。しかし不完全な体だったためオシリスは、現世に留まれなかった。止む無くオシリスは、冥界の王として蘇る。

オシリスとイシスの子ホルスがセトと闘い、ホルスは左目を失うものの、セトの睾丸と片足を奪って勝利する。

●クレマスター3とのつながり

 クレマスター3にはフリーメーソンの志願者(マシュー・バーニー)、女性新参者(エミー・マランス。義足のアスリートであり、モデルでもある)が出てくる。クレマスター3ではフリーメーソンの長を倒すべくグッゲンハイム美術館を登っていく。

 River of Fundamentには冒頭から、この二人がクレマスター3のときと似た格好で現れる。今回は、志願者と女性新参者が、ノーマンの生まれ変わりをサポートする付添人的な役割で出てくる。(第2部ではこの二人がオシリスとイシスの役割も演じる)。

 もうひとつクレマスター3からつながっているのが、1967クライスラーインペリアルである。
 「クレマスター3」には、NYのクライスラービルの1階ロビーで、1台の車を4台の1967クライスラーインペリアルがよってたかって潰していく、という印象的な場面がある。その車の1台が、今回壊れた状態で出てくる。

 第1部のパフォーマンスに出てくる壊れた1967クライスラークラウンインペリアル。ボンネットに人が横たわっている。その足は、クレマスター3で女性新参者が履いていた義足で、そこにクレマスター3のフラッグ(オレンジと薄緑)がかけてある。


■あらすじ
●第1部

 この映画はアメリカの小説家ノーマン・メイラー(1923-2007)の「Ancient Evenings」を(たぶんかなり緩やかに)原作としている。(バーニーの「クレマスター2」はメイラーの小説をもとにしており、クレマスター2にはメイラーも出演している)。

 "River of Fundament"の舞台はメイラーの家であり、そこではメイラーの通夜に、たくさんのゲストが集まってきている。

 汚物まみれの川から若者が現れ、通夜の席に現れる。これがノーマンの生まれ変わりノーマン1であった。

 通夜の席にいる下品な感じの男はファラオで、普通の人物に混じって古代エジプトの人物が飲食している。傲慢にふるまうセト、歌を歌ったり楽器を弾いたりするネフティスなど。志願者、女性新参者やノーマン1は死者であり、汚物まみれの恰好で食事の席にいる。


●第1のパフォーマンス"REN"/ロサンゼルス

 アメリカの3つの都市で行われた3つのパフォーマンスを撮った映像が、映画の重要な部分を占める。かなり大がかりなパフォーマンスで、むしろ儀式のようなものだ。

 クライスラーのディーラーである"REN"が舞台。
第1のパフォーマンス。
 レン・クライスラー。ディーラー。
 壊れたクライスラークラウンインペリアルの前で、マネージャーが「ロサンゼルスには糞便の水道橋がある。糞便の間に私たちは生まれ、水の中で死ぬ」と演説する。

 ショールームに裸の女性が立っている。Khepera。(Kheperaは古代エジプトの朝日を表す神。顔がスカラベで置き換えられた姿で表される)。顔と腹に巨大なスカラベが付いている。
 女性歌手が情熱的に歌う中、クラウンインペリアルは重機を使って壊されていく。

 作業者がKheperaの尻の穴から黒いビニールを引き出す。金色のTrans Amの上に横たわった女性(新参者)に黒いビニールはかぶせられる。

 インペリアルはばらばらになる。4気筒エンジンを少年が分解した。金色の枠を取り付けた。水銀を注いだ。(このエンジンが第2部で再び発見されることになる)。


 第2部ではパフォーマンスがさらに大がかりになる。

 

つづき;