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(つづき)
いかにもキーファー、という感じの作品。
ガラスのケースに鉛の本が1冊、開いて置いてある。本のページからたくさんの芥子が伸びる。本の下には鉛の地面があるが、地面からも芥子は生えている。本を貫通して地面から生えているようだ。
本は知識を表すだろう。人間の知識が失われた世界でも植物は生えている、みたいなイメージかもしれない。破壊と再生みたいなことを表すのかもしれない。
これと同じタイトルの作品を見たことがある。ベルリンで見た、1989年の鉛の飛行機の大作。
タイトルは、パウル・ツェランの同名の詩集へのオマージュとなっている。
パウル・ツェランは、両親を強制収容所で失ったユダヤ人で、戦後ドイツを代表する詩人。キーファーの作品には、パウル・ツェランへのオマージュが多く見られる。
書籍「翼ある夜 ツェランとキーファー」(関口裕昭)によれば、芥子は睡眠薬に用いられることから忘却のメタファーであり、忘却と記憶という相反する意味を表す言葉として、芥子と記憶というフレーズが詩に出てくる。
飛行機の作品のほうも、翼に鉛の本が乗っていて、本の間から芥子が伸びている。
(ベルリンで撮った写真)
鉛の本は、キーファーが頻繁に使うモチーフだ。
鉛の本の本棚の作品もベルリンで見たことがある。「Volkszählung(国勢調査)」(1991)。巨大な鉛の本が並んだ本棚。100kgあるといわれる鉛の本が数百冊、3段の本棚に並んでいる。外側から見えるページに、鉛の板の下に大豆か何かのふくらみが見えるものがある。また、ページの間に大豆らしきものが埋め込まれているのが見える。3
(ベルリンで撮った写真)
・小さな脳の家[グリム兄弟]
ガラスケースいっぱいにレンガが積んである。正面と背面の中心に穴があり、穴から内部が見える。内部空間に脳がある。全体は見えないが確かに脳だ。上にも穴があるが高さ的に覗き込めない。
細く平べったく伸ばした鉛が、おそらく脳から伸びてレンガの隙間から出てきている。
カタログの解説にタイトルの意味が書いてあった。童話で有名なグリム兄弟は初めてのドイツ語辞書の編纂(生前には完成せず)でも有名で、その辞書で頭蓋骨を脳の家と表現した。
・バミューダ・トライアングル
ガラスケースの中に小さな飛行機が飛んでいる。小さくて手作り感のある飛行機。ひとつは、ただの四角い板が翼になっている。
茶色くさびているのもある。
タイトルは「バミューダ・トライアングル」。懐かしい言葉だ。小さいころにたぶん「ムー」とかで読んだな。
地面のテクスチュアが面白い。白と黒、泥と絵の具を混ぜたような。それとも石膏か。ひび割れと言うか破片に分かれている。海底の地割れだろうか。
そしてその中心に、茶色くさびた排水溝の栓がある。ここから異世界に吸い込まれるのか、それとも地割れの中に落ちるのか。
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ここまで書いた7作品が、特に自分は好きだった。
展示を見ているときに、売っているものはあるかスタッフに聞いている人がいた。キーファーといったら何でも1億円以上するものと思い込んでいた。普通の人間でない超大富豪みたいな人が買うものだと思っていたので、驚いた。(話をしているのが隣の部屋まで聞こえてきたが、高いもので数十万ユーロで、まだ売れていないのもあるのだそうだ)。
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・ウルズ、ヴェルザンディ、スクルド - ノルンたち
高さ2mの最大の作品。3神をコイルと銅線で表す。比較的単純で面白みは少ない。地面はがれき。
ノルンはゲルマン神話(北欧神話)に登場する運命の女神である。過去を司るウルズ、現在を司るヴェルザンディ、未来を司るスクルド、という解釈がある。
キーファーは同じタイトルの絵画を1983年に描いている。アーチ形の構造物に燃え盛る火、という当時よく描いていたモチーフで、空っぽの空間だが3女神の名が天井に刻まれている。
セラミックの絶縁体ということだが、たぶん電柱についているやつだ。絶縁体に電線が巻き付いて下に伸びているのだと思う。それが3つ下がり、ガラスケースに3人の女神の名が書いてある。
ガスマスクをつけたみたいな、口のとがった顔で、首から下は電線しかない。女神という感じはなくて、むしろ不気味な印象がある。
地面はがれき。陶器のかけらのようなものが見える。
・すべての夕刻の日、すべての日々の夕刻
水彩画による二つの画面が上下に連なっている。目をつぶり歯を食いしばり横たわる女の顔。
下は、美しい夕日。黄色に赤い日、これが女の金髪と色が似ていて、上の絵と下の絵が呼応している。
いまだに水彩画の具象画を描くことがあるとは知らなかった。キーファーが水彩画を描いていた1970年代にも、こんなふうに二つの画面をつなぎあわせたものがあったし、また、荒廃した風景と横たわる女性の顔を描いた絵もあった。
・野ばら
裸婦を描いた美しい水彩。ちょっとエゴン・シーレみたい。
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