イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い 宇都宮美術館

 イヴ・ネッツハマーは1970年スイス生まれの作家。自分は聞いたことがなかったが、2007年にヴェネツィアビエンナーレのスイス代表になるなど活躍しており、ヨーロッパで近年いくつも個展を開いている。

 そんな現代美術家がなぜ宇都宮で個展をやるのか不思議だ。しかも宇都宮美術館だけの単館開催。

 過去の映像作品がYoutubeにたくさん上がっていて、好きな感じだ。期待して出かけた。
 結果、映像がやっぱり面白かった。

 宇都宮美術館は中央のホールを挟んで二つの展示室に分かれている。
 展示室1で新作の大きなインスタレーション、展示室2で旧作の映像を展示している。

 新作「筏(いかだ)」(2024)。
 滞在制作されたもので、宇都宮を訪れたネッツハマーは大谷採石場や足尾銅山で地下空洞に魅了されたという。
 大谷採石場(大谷資料館)は大谷石の採石場の跡であり、地下に降りると広い空間が広がっている。宇都宮の観光スポットであり、これに影響を受けて作られたというのはちょっとうれしい。
 しかしどのへんんが地下空洞の影響なのか、作品を見ても分からなかった。


 広い展示室いっぱいに、竹を組んだ構築物が広がっている。
 あまり筏らしくもない。
 竹は先が黄緑やオレンジに塗ってある。いかだということなので、両端に白い布があるのが帆なのだろう。巨大ないかだに対して帆が小さすぎて心もとない。
 赤や青に塗られたドラム缶が竹にくくりつけられている。

 


 解説によれば、水面下=意識下に潜行するものの不安定な足場なのだという。
 大谷で魅了された地下空間を直接に作品にするのでなく、そこに入るための入口を作品に表したということだろうか。

 展示室2で見た十数年前の作品の映像で、いかだが出てくるのがある。(いかだorボートに乗った人たちが海に落ちていく)。そのいかだにも赤と青のドラム缶が付いている。

 

 



 作品の各所からときどき音がするのは、どこでなっているのだろう。すこし見回すと分かる。ところどころ、竹の筒が天井からぶら下がっていて振り子のように揺れている。これが別の竹(ドラム缶の場合も)に当たってからん(がらん)と音を立てる。



 脇から内部に入り、迷路のように進んで中心まで入ることができる。
 筏の中心には多数の小さなオブジェがある。針金で作った線描。竹にくっきり書かれているように見える絵は、針金線描の影だ。
 大きな黒いハエが入ったガラスケースがあったり、指があったり、アリみたいなものがあったり、ばらばらになった体があったり。

 輪の内側に植物の形、youtubeで見た別展覧会の映像で、これが車輪のように回転するのを見たと思う。

 


 奥に黒いカーテンがありその向こうも作品だった。白い台にマネキンのような白い人形が括り付けられていて、回転している。身をよじる体。右側は人間の形だが、片足の先がなくなり、片手は木の枝になっている。左側の人形はより変形が進んでいる。木の枝(もしくは鹿の角)が一つと、片手片足だけになっている。
 人形は木でできていて、もがきながら木に返っていく感じ。そして窓の向こうに森が見える。

 

 


 3か所で、筏から壁に映像が投影される。新作なのだと思うが、別展示室の旧作も見たうえでの感想は、映像は十数年前の作品と変わっていなくて、相変わらずという感じ。
 マネキンのような、顔のない(のっぺらぼう)人間が出てくるCGアニメーション。
 赤い鹿たちが人間の手足を背負っている。手足は飛んで行って体にくっついた。人体は頭からグレーの塊に置き換わっていく。このような短いシーケンスが次から次に現れる。



 奥に投影されるのは比較的大きな映像。
 椅子に座った人が倒れると、鳥になって飛んでいく。人と鹿の重なり。

 

 


 「世界は美しく、こんなにも多様だ。本当なら皆、愛し合ってもおかしくないはずなのに。」(2024)

 横に長く続く屏風絵。好きな感じの絵だ。
 ポップな、フラットな色面の現代的絵画。人と動物がからみあっている。人の体の線が途中で動物になったりする。動物や人が争っているらしき場面が描かれる。犬みたいな動物から、線は自由に変容して人の手が現れたり鳥の羽が現れたりする。

 

 


 今年開催されたスイスの個展(下記youtube)では、これと同じ絵が壁画として展示されている。

 

 

 

 

つづき;