Neo Rauch(ネオ・ラオホ)は1960年、ライプツィヒで生まれた。社会主義リアリズムが優勢であった東ドイツで絵画を学ぶ。
 1999年頃に知られるようになり、国際的な評価を得た。

●Heilstätten(サナトリウム)

 ネオ・ラオホは2000年台には人気画家であり自分も気になっていたが、日本であまり見る機会がなかった。原美術館のドイツ銀行コレクション展で1点見たのみだったと思う。

 2011年、ニューヨークのDavid Zwirnerギャラリーでラオホの個展を見た。5m×3mの大作がいくつもあって見ごたえがあった。

 

 

「Fundgrube」(宝の山)
 5m×3mの大作。左の画面では、黒服の3人の紳士たちが銀色の金属でできた彫刻か機械のようなものを地中から掘り出している。一人は笛を吹いている。右の画面にも銀色の物体が描かれる。こちらも金属のように見えるが、2本のつのを持ち、生物のようだ。謎の生物のつのに、3人の男女が交互に花輪をかけて遊んでいる。

 Rauchの作品では、肉体労働・作業に従事する人物たちがよく描かれる。しかし何のための作業なのかは分からない。
 写実的で具体的な場面を描いている。何か物語がありそう。意味ありげで、比喩や象徴が含まれていそう。しかし何なのかは分からない。

 色の使い方が独特。
 この絵では、黄色が印象的。黄色に色づいた植物が随所に描かれ、またそれを使った黄色い花輪が描かれる。

 

 


「Aprilnacht」(四月の夜)
 女性が目をつむり、フクロウを持ち上げている。男性もフクロウを捧げ持っているが、こちらは大きな顔だけのフクロウ。二人の間には炎があり、何かの儀式のよう。空には植物や枝が、文字のような形で浮かんでいる。男女が着ている服は、東ドイツの国境警備隊のコートであるらしい。
 フクロウは古来より知恵・知識の象徴とされる。この男女はフクロウから知識を授かろうとしているのかもしれない。

 

 

「Die Jägerin」(狩人)
 等身大のブロンズ彫刻。Rauchが彫刻作品を作るとは聞いたことがない。ここにもフクロウが出てくる。勇ましい女性(長髪の男性かもしれない)は伸ばした手にフクロウを載せる。胸元に4人の首をぶら下げた戦士。

 

 

「Das Kreisen」(旋回)
 有翼の紳士が倒れている。それを見る犬。犬の糞をさらに受け取ろうと四つん這いになる人。暗い室内に絵画が並んでいる。中央には台座に乗ったモデルらしき女性がいて、画家のアトリエであるようだ。右に画中画があり(アトリエに置かれた絵画にしては不自然だが)その後ろから画家の手が筆をもって伸びている。
 モデルの女性のドレスの青緑色が、ほかの人たちや画中画の人物の服の色に繰り返されていて印象的だ。

 ラオホは社会主義リアリズムの教育を受けているが、人物たちを配した劇的な構図にはルネサンスなど古典絵画の影響があると言われる。そしてシュルレアリスムの要素がある。特にマグリットっぽさがあると思う。

 

 

●それ以前の作品

(画像はwikiartより)

 

「Vater」(父)(2007)
 若い男が、赤ん坊のような大きさの中年男性を抱きかかえる。タイトルの「父」は明らかに抱きかかえられているほうだ。この若い男は14歳のラウホの肖像である。
 ラオホが生後5週間のとき、両親(19歳の母と21歳の父)が列車事故で亡くなった。その父のことを描いているのかもしれない。
 それと関係なく前景では、店のディスプレイを写真に撮る人が描かれる。


「Die Stickerin」(刺繍する人)(2008)
 黄色い旗を作る作業場だろうか。8人の男女がいるが、働いているのは二人くらいで、後の人は何をしているのか分からない。旗をもって壁にもたれている人、黄色い布が重なった上に椅子を置いて黄色い布を熱心に見つめる人。


●最新作

 David Zwirnerギャラリーのホームページを見ると最近の個展の作品が詳しく載っている。、
 "The Signpost"は最新、2021年の個展。

 

 

「Der Zwiespalt」(不和、二分法)
 左側では、白衣の人物が光る洞窟の中で炎を燃やす。中央では、画家が方向標識を使って机で作業していたが、黒衣の人物によって右側の世界に引きずり込まれようとしている。右側では黄色いテントの中で同じ画家が、何かの審査を受けているようだ。右側には全身赤い服のスタッフたちがいて、方向標識を運んでいる。解説によれば、左側がアーティストの私的な創造を表す(炎が創造力を表す)。私的な創造をしたかった画家だが引きずり出される。右側で画家の作品は公共の場に持ち込まれ、社会的なプレッシャーを受けている。
 この矢印は、社会に方向性を示すみたいな意味があるのだろうか。
 遠景には教会の塔のような建物が傾いていて、その先には方向標識があちこちの方向を向いて立っている。

 

 


「Wegweiser」(道しるべ)
 数人が道しるべの周りに集まっている。リュックサックの人物が、つのの生えたエイリアンの頭みたいな、黄色い物体を持っている。それを取り囲む人たちはピースサインをしたりハサミを取り出したりして、エイリアンのつのを模倣している。服を着たサイみたいな動物もそれに加わり、細長い2本の耳を立てている。付近にはまたも2本のつののはえた、大きな糸車みたいなものが落ちている。一人だけ輪に入らずに新聞を読んでいる男のズボンに、エイリアンの黄色と同じ色が繰り返される。
 特定の印象的な色が繰り返されるのも、Neo Rauchの特徴。

 

 

 

「Die Pumpe」(ポンプ)
 昔の手押しポンプのようなものを、二人の男性が操作している。ポンプにはチューブがつながっていて、自動車のハンドルみたいな形のバルーンが浮かんでいる。それを取り囲む、プラカードを持った人たち。木の枝のかたまりにすえつけられた人の形のものに向かって、女性はそれに覆いかぶさろうとしているのか、手を上げて浮かび上がっている。傍らには巨大な女性と、それに仕える、小人のような男。