(2021/7/10)

 入り口を入ると狭いスペースになっており、奥に広い部屋がある。広い部屋の入り口に議事堂があり、奥の部屋から、こちらに向かって指が伸びる。ボタンを押すように、または議事堂を潰そうとするかのように。

 


 「MONUMENT FOR NOTHING Ⅴ 〜にほんのまつり〜」。
 ギリギリ入るだけの部屋なので、余計に作品の大きさが感じられる。(こんな巨大なものをよくギャラリーに運び込めたな)。ガイコツのよう

にやせ衰えた日本兵。口の中には歯、舌がある。天井の高い部屋だがその天井まで体が届く。

 

 

 議事堂のお花。子供みたいなお花はバカな政治家を表すのだろうか。
 木を組んで構造はしっかりしているが、外形は紙(布?)を切りはりでもろい素材。
 青森のねぶたは、角材を組んで柱を作り、針金で形を作り、奉書紙(和紙)を貼って作る。それと同じ作り方をしているようだ。


 兵士は、全部を和紙で覆っているわけでなく、一部だけ残っていて骨組みが見える。朽ちて皮膚が残っている死体のようにも見える。
 兵士は日本軍の軍服を着ている。赤に黄色の星は二等兵、軍隊の最下級の兵士。

 



 作品に回り込むことができる。迫力の大きさ。
 議事堂は裏から見ると骨組みが見えていて、ハリボテ感が強調されている。


 日本兵は戦闘より飢えで死んでいったというのは本で読んだことがある。日本は兵站(前線への物資の補給)を軽視した。戦争の初期、中国では現地で徴発と称する略奪をしながら進んだ。のちにこれを東南アジアでも繰り返し、住民のいない(略奪できない)ジャングルで補給を行わないので餓死者が大量に出た。

 この兵士は国に恨みを持ちながら餓死していった兵士の亡霊だろうか。
 そしてその巨大な兵士の周りには、梅干しの絵が並ぶ。遠くから見れば、日本兵を見送るたくさんの日の丸のようにも見える。(または、兵士が飢えの中で梅干しおにぎりを思いながら死んでいった?)  



 毎回思うが、一つの作風を完成させたらそれを続ける(奈良美智のように)という美術家が多い中、会田誠は常に違う作風で作っていてすごいと思う。今回は面倒な手仕事で大変な労力が感じられる。

 

 MONUMENT FOR NOTHINGはペラペラで巨大な作品のシリーズと思っていた。あの、震災のツイートを貼りつけて作った福島原発の形がMONUMENT FOR NOTHING Ⅳだった。

 明治時代、日本の近代洋画の父と呼ばれる高橋由一は、油絵の迫真的な描写にひかれ、卑近で妙に日本的なモチーフの絵をまじめに写実的に描いた。有名な「鮭」や、豆腐と焼き豆腐と油揚げの質感を描き分けた「豆腐と油揚げ」など。
 会田誠は高橋由一に言及し、日本的なモチーフである梅干しを描く小さな油彩画を描いた。

 思った以上に数が多く、同じような絵ばかり。描き方はどれも同じ。異なる梅干しを描き、時にその周りに黄色や水色の光を描く。
 会田誠展 GROUND NO PLAN(2018)では軽く描いたポスターみたいな絵が多くて、(森美術館の個展の新作には まだあったような)丁寧な絵画はもう描かないのかなと思っていた。しかし今回はなぜか日本の油絵の最初にまで戻り、ストイックに丁寧に写実的に描いている。ただ、1点1点の絵画としては面白みはない。



 「北東アジア漬物選手権の日本代表にして最下位となった糠漬けからの抗議文」。表彰台の写真。韓国、北朝鮮、中国、日本の国旗が掲げられ、日本は最下位。1、キムチ、2、ザーサイ、3、ぬかづけ。最下位となったぬかづけの抗議文。「好敵手沢庵に申し訳が立ちません」が面白い。
 抗議文は日本語のほか英語、ハングル、中国語でも書かれている。(なぜか英語も縦書き)。ハングル含めずいぶん丁寧に書いている。

 


 

 


 糠漬けは「神宿る国の住人」とか名乗っていて、キムチ、ザーサイに負けることを「あってはならない」と言う。この糠漬けは、日本が中国・韓国に負けるはずないと考え欧米人に褒めてもらいたい、現代の右翼寄りの人々だろうか。


 個展タイトルは「愛国が止まらない」。

 愛国といえば、今のテレビの日本礼賛が気持ち悪い。日本好きという稀有な外国人を取り上げたり、日本の技術・文化のすばらしさを外国人に褒めてもらったり。一方で、昔は日本は物価が高いと言われていたはずだが、いつからか、海外旅行に行くと物価が高くて辟易するようになった。ほかの国が普通に発展する中で、日本だけデフレで給料が上がらず。日本が先進国から落ちつつある中で日本礼賛番組ばかり増えている。

 会田誠が愛国と言うと皮肉にしか聞こえないが、確かに並んでいる作品は日本を扱ったものばかり。それを言ったら会田誠の過去の作品も日本を扱うものが多い。これだけキャリアがありながら欧米の美術界で評価されそうなものでなく日本人にしかわからないようなネタを作品にすることが多い。

 

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