アメリカのメジャーリーグベースボール(MLB)
ナショナルリーグのリーグ優勝決定シリーズ(NLCS)で、大谷翔平選手がMVPを受賞しましたね。
先発投手として6回を無失点、10奪三振。
打者として3打数3安打3ホームラン、1四球。
(先頭打者ホームランを含む)
100年以上の歴史で誰も成し遂げたことがないハイパフォーマンスを、ワールドシリーズ進出を決める重要な試合で成し遂げたことで、大谷選手に関する様々な議論に終止符が打たれたと思います。凄いピッチャーも、凄いバッターも、何年か、何十年かに1人は目にしますが、その両方を高いレベルで表現する人はいない。時代や世代ではなく、野球というスポーツ全体を代表する、唯一無二のアスリートを(彼が高校生のころから)リアルタイムで見ることができた私たちは、100年後の野球ファンから嫉妬されるでしょう。
(100年後があればですが)
直後のセレモニーでは、MVPを受賞した大谷選手のインタビューがおこなわれましたが「みなさん、今日は美味しいお酒を飲んでください」という大谷選手のコメントの英訳に、私は感銘を受けました。
大谷選手の通訳――ウィル・アイアトンさんは、「美味しいお酒」を「really good SAKE」と訳したのです。
大谷選手の「美味しいお酒を飲んでください」は日本のヒーローインタビューにおける常套句で、ワールドシリーズ進出を決めた夜に祝杯をあげるファンへのリップサービス。
当然、深い意味はありません。
しかし、これを直訳すると、誤解を招きかねない。
なぜなら、対戦相手のミルウォーキー・ブルワーズは、お酒と深い関わりがあるチームだからです。
ミルウォーキーはビールで有名な都市であり、ブルワーズの語源はbrewer(醸造家)からとられている。本拠地のアメリカンファミリー・フィールドでは球場内でビールが作られ、試合の途中にソーセージ・レース(ソーセージの着ぐるみによるレース)がおこなわれます。
このような伝統を持つチーム相手にスイープ(4連勝)したあとで「美味しいお酒を飲んでください」と言えば、お酒(ブルワーズ)を飲み干してやったという挑発に受け取る人がでてきてもおかしくありません。
だからこそ、アイアトンさんはSAKE(日本酒)と訳すことで、大谷選手のアイデンティティの1つである「日本人コミュニティ」に落とし込んだ。彼の翻訳で、大谷選手のコメントはユーモアとして評価され、笑顔があふれたわけです。
実際、ロサンゼルスの日本人街(リトル・トーキョー)には、大谷選手がホームランを打つたびに「SAKE」を1ショットふるまうお店があったりするので、よりリアリティのある祝辞になりました。
アイアトンさんのような優秀な通訳がいることで、大谷選手は自身のコメントが“本人の意思と反した”意味に受け取られることを防いでいる。これこそが、彼が英語を話せるようになっても通訳をつける理由の一つだと思いました。
