阿武町4630万円の誤送金の「田口翔容疑者を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕」の件はご存知でしょうが、法律家から言えば、イロイロと問題があるようだ。

 つまり逮捕は「無理筋」だという。ややこしい解説を書いているページがある。素人筋には難解なんで、具体例を無理やり阿武町に置き換えて要約してみた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20220519-00296769

 「誤振込による預金債権の有効性に関する平成8年の最高裁の民事判例」がある。

 つまり4630万円の有効性とは、田口容疑者が5000万円ほど借金していたとして、その貸主が、田口容疑者の預金をその貸金債権で差し押さえたとした場合です。

 従来は『「誤振込による預金債権は無効であり、口座名義人の債権者が誤振込預金を強制執行によって差し押さえることはできない」』

 つまり、貸主は間違って振り込まれた4630万円の差押はできないとしていたわけです。


 だから、この4630万円は「無効」だから、田口容疑者がいかにも有効な顔をして預金を帰し出したら、これは銀行・銀行員を騙した、つまり詐欺罪になるわけです。
(第246条 人を欺いて財物を交付させた者は・・・、)

 ところが、平成8年4月26日の最高裁判決の判決で、これを覆したのです。つまり

 誤振込による4630万円預金債権の成立を肯定して、田口容疑者の預金に対する貸主の差押えを認め、強制執行に対する(阿武町)の第三者異議の訴えを退けたのです。


 まぁ、田口容疑者にカネ貸した方を勝たせたのです。一見、不合理に見えますが、一般論で、貸主にしたら、銀行の預金口座に残額があれば、この預金が無効だとダレも思いませんわね。銀行の通帳残高を信用できないとなると、経済取引はできませんわ。実際、銀行に振り込まれた印字を見て、領収書を発行したことがある。

 それに、ミスしたんは阿武町なんだし、その不当利得返還は別途、当事者間でやってください、ということ。実際、今、資産がないだけで、「少しずつ返金する」と言ってる。(実際は無理だろうけど)

 

 (実務上も、銀行は一度は誤送金だという連絡は相手さんに伝えて、戻すように言うが、相手が拒めば、当事者同士で話し合ってくださいとのことで傍観視)


 振込が無効だったら、それを引出したら「詐欺罪」。

 しかし、最高裁は誤昼込みでも「有効」としたので、それを引出す行為は、詐欺でもなんでもないことになる。


 それはなんぼなんでも、世間は許さんということで、最高裁は、「有効」である4630万を誤振込みであることを、『自己の口座に誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。』

 『誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為』とした。本来は言うべきなのに、言わなかったからアカン!というわけ。

 でも「ワケあり煎餅」の「ワケあり」の表示がなかったら、詐欺罪かい??

  仮に田口容疑者が「これは誤送金であることを銀行に告知しても、預金残高は有効なので、引出しを請求されたら拒めない。

 そこでやっかいなのは、間にヒトを介さないオンラインの銀行システムだということ。それで、「電子計算機使用詐欺罪」なんだが、「虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作った・・・」

 ハッカー集団がウソの情報をつくったりするもんを想定しているが、誤送金は「有効」だとされているので、田口容疑者の出金は詐欺でもなんでもないのは自明なわけ。


 これが法律家の見方だそうな。
 

 

「刑法上の罪はない」では世間は許さんだろうと考えられる罪は、
 
『刑法96条の 2の「強制執行妨害目的財産損壊等罪(強制執行妨害罪)」』かと。


 口座の仮差押を予期して、預金口座からネットカジノの口座に振替えたことが、「強制執行を妨害する目的」があったとすることだと。

(3年以下の懲役、もしくは250万円以下の罰金、またはこれらの両方)