今週から、コペンハーゲンにトヨタ自動車本社のbz4X車のチーフエンジニアが招かれて、メディア向け試乗会が行われています。

 

 

延べ、300人近くの欧州各国の車の専門誌やメディアが24時間交代で訪問しています。

 

イベント会場は、2025年に世界初のCO2ニュートラル首都を目指すコペンハーゲンの象徴と言われる「Copenhill /Amager Bakke」、屋上の屋根を人工スキー場のレジャー施設にしたことで話題の廃棄物発電所です。

 

 

車とのカラーコーデもバッチリ。

 

 

 

そもそもBEV車に乗ったことすらなかった私ですが、月曜日からの1週間、通訳として参加させていただき、プレゼンやインタビューに加え、恐れ多くもチーフ自らの解説付き運転で移動するなど、最後はディーラー並のトークができるくらいbz4Xについては詳しくなりました。

(大口叩く子。実際はチーフは英語が堪能な方で、私は横に立っていただけでした…)

 

さっそく各国ではReviewもちらほら出ているようで、辛口と言われる英国のメディアでの評価もかなり高かったとか。乗り心地、広いキャビン、安定感、SUVとしてのダイナミックさなど、その魅力は写真からも想像できると思います。

 

とにもかくにも、日本のトヨタが世界のトヨタである理由は、想像を絶する使命感と責任感を背負った企業サムライがいてこそのものなのだということを実感しました。

 

ああ、我が祖国、日本のモノづくりは本物。

コペンハーゲンには1870年創業のLa Glace(ラ・グラース)という有名コンディトライがある。

いつも地元の人々やツーリストで行列が絶えないカフェである。

 

(ジューンブライドのウィンドウ)

 

現在のオーナーは5代目(一族ではない)のMarianne Stagetorn さん。地元テレビにもよく登場する有名人で、日本のテレビ撮影で私も2度ほどクルーをお連れしたことがある。どうやら私と同じ歳のようなのだが22歳の時にこの伝統店を任されて名声を維持しているのだから尊敬の一言だ。

 

(オーナーのマリアンネの肖像画)

 

(ピンクとゴールドの店内。今でもスタッフは同じ制服)

 

ケーキは20種類以上、マカロン、ペストリー、パンや、この国には珍しいお土産用の缶入りクッキーも買える。

トレードマークの緑のエプロンを付けた若いバイトの女の子やベテランスタッフと思われる女性がきびきびとケーキやコーヒーを運んでいる姿はとても絵になる。

 

いわゆる超高級というほどではないものの、ここでお茶とケーキを頂くことはちょっとした高揚感を味わう。

 

今時の健康志向やビーガンフードなどはお構いなしのクリームたっぷりのコッテコテのケーキはまさに伝統的。ウィーンっぽくもあるのがどこか異国情緒を味わえる。季節ごとに変わるウィンドウや1800年代オープン当時のマーブルのテーブルも素敵だし、何と言ってもやはりどれをとっても美味しい。

 

(コーヒーエクレアとバターたっぷりのバンズにラ・グラースティー)

 

(ルバーブやホワイトチョコなどが入ったその名も「ゴールデンタワーケーキ」)

 

お店の名物ケーキはその名も「Sportskage (スポーツケーキ)」。1891年に上演された「スポーツマン」というお芝居に因んで名付けられたという。

 

ケーキの土台の生地はマカロン、中心部はクラッシュヌガーと生クリームのミックス、それをてんこ盛りの生クリームでドーム状に固めて表面に飴で固めたミニシューがはめ込んである。まぁはっきり言って全部生クリームという大胆なケーキ。こんな大量のクリームオンリーのケーキ、一体誰が…と思う私の懸念をよそに、エプロンの可愛い子ちゃんたちは何度も出来立てのをキッチンから運んでくる。当然、デン人夫も即決でオーダーしていた。

 

(名物スポーツケーキ。超ヘビー!)

 

 

ところで、このお店が人気店なのには別の理由がある。

私は何を隠そう、撮影時にそれを見てしまったのである。

 

1日の始まりは開店前のフロア、キッチンのスタッフ全員の朝の会から始まる。

これから怒涛の1日が始まる前のリラックスしつつも準備万端な気合が伝わってくる。そして閉店後、もっと驚く光景を目にした。フロアスタッフ総出による店内の一斉掃除が始まったのである。

 

広い店内の椅子やテーブル、床、そして飲料水用の真鍮の蛇口からなんから全て拭き掃除してピッカピカにして帰っていくではないか!これ毎日!客を迎えるための万全の準備はまさに見えない部分でのおもてなしによるものだった。

この国では稀に見るきめ細やかなサービス、そこには150年以上の伝統を伝える誇りと意気込みと真摯な姿勢が固く根付いているのだ。そんな唯一無二のお店に客足が途絶えるわけがないのである。全てが府に落ちた日だった。

 

ということで、素敵な伝統店を応援するためには多少のカロリーには目をつむり、社会人になった長女に早めの母の日のお祝いにリクエストして久しぶりに訪ねた。なぜかデン人夫もついてきたので「これで父の日はもう何もしなくて良いよね」という長女には「父の日にはまた二人セットでどこかに招待してね」とそつなく母は答えておいた。

濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が話題になっている。

私はアカデミー賞受賞前にMUJIデンマークの主催で行われた映画会で観た。

 

村上春樹の小説を始め、日本関係の映像字幕も手がけるMette Holmさんの解説もあったが、作りが複合的で、チェーホフの戯曲も交差して一度で理解をするのは難しかった。

Metteさんとはお友達で、私が村上作品を気にするようになったのは明らかに彼女の影響が大きい。

 

映画鑑賞の翌日、映画の解説ビデオを片っ端から観ていると、アカデミーの授賞式に先立って行われた映画イベントでの監督のインタビュービデオもいくつか上がってきた。その後予想に外れず国際長編映画賞を受賞すると、さらにインタビュー番組が流れたのでそれもほとんど食い入るように観た。

 

私は濱口さんの受け答えにとにかく魅かれてしまった。

彼は全ての質問にとても真摯に自分の考えを述べるのだ。浮き足立つようなそぶりや、適当に流すような回答もせず、全くブレることがない。自分の映画への感想や質問を受けて、初めてこの映画が表現したかったものに気付かされました、などということまで口にしてしまうような正直な人なのである。そしてそれが全て淀みなく口から出てくることからも、格好をつけたような受け答えでないことは見て取れる。

 

常に謙虚、でも確固とした意志があり、唸らせる表現力を持ち合わせている。

映画の魅力はこの人の人間性の現れなのだと確信した。

 

今日は日本記者クラブでの記者会見をNHKニュースのアプリからライブでたまたま全部見ることができた。

そして彼はそこで私の心を揺り動かす素晴らしい言葉を放ったのである。

 

受賞のスピーチの話に触れて、「通訳さんが英語にしてくれたお礼の言葉などは予め覚えておいて自分で述べました。本当はその後に日本語で話す内容も考えていて、そこは通訳の方に訳してもらうはずだったのに、『サンキュー』と言ってしまった後は音楽が流れてその先が言えずに終わってしまいました。素晴らしい通訳さんなのに発揮していただく場面がなくなってしまって申し訳なかったんです」と。

 

この通訳に対する思いやりある発言、誰でもできることではない。

というか、普通はまずあり得ない。

 

私は仕事柄、通訳さんの仕事ぶりはかなり注目する部分。確かにこの通訳の方、他のインタビュービデオで拝見したが日英訳ともに完璧。ほぼ全てを拾って的確にスピーディーに訳している。

 

通訳は、集中力と頭の回転が命の仕事なのだが、どうしても影武者で、さらにできて当たり前的に過小評価されることがほとんどだろう。だから仕事への理解はもちろん、そこまで通訳への労りをあのような場で口にできる濱口さんと言う人に私はもう決定打を打たれたような気分だった。

実際、濱口さんの言葉とは裏腹に、言葉を発することもなく終わった通訳さんは(仕事を忘れ?)笑顔で大拍手しながら彼を讃えていたのも印象的だった。

 

世界が認めた表現者・濱口竜介さんのインタビュー、映画と同じくらいお勧めしたい。

”つれづれなるままに、 デンマークの日暮らし、PCに向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ”

 

今からおよそ700年前ほどに吉田兼好が書いたとされる随筆の徒然草の冒頭のフレーズ、まさしく今はこれをブログと呼ぶ。つまりブログって、カタカナコトバになっているがなんのことはない古くからあったわけである。

 

兼行法師と比べるのは恐れ多いけど、令和4年、私も徒然とここデンマークの日暮らしの話を書き溜めていくことにした。日頃は西暦しか使わないので、元号がさっぱり分からなくなっている。でも随筆(ブログ)をしたためると決意し、デンマーク徒然草を創刊するにあたってはあえて令和を使わせていただこう。

そう、東の日出る国から出て来た私は、今では日本のそんな風習に魅かれたりびっくりしたりするデンマーク人の目を持ち始めている。

 

私が最後に日本を後にしてデンマークに来てから13年目を迎えた。延べでは15年以上。もし、初めて移住した時から引っ越しを繰り返さなければ29年になる。

初めてきた90年代のデンマーク…あの頃は、土曜日の2時から日曜日はお店も全部閉まって目抜き通りのストロイエからは人が消えていた。東京との格差に唖然とした。

それが今や世界幸福度2位、SDGs達成度3位、デジタル政府1位などの羅列なのだから変われば変わるものだ。

 

さて、第1回目のテーマは春。

 

デンマークでも3月ぐらいからは春めいてくる。

まだ10度以下で寒いけど太陽の光が変わってくる頃に夏時間も始まる。

クロッカスの花があちらこちらで咲き始める。我が家にも黄色や紫が顔を出していたがようやく開き始めた。

クロッカスの前にはまず黄色いエランティス(節分草)、白いスノードロップがまだ凍えるような時期に出てきて、ああ春が来たのか、と希望を抱かせてくれるのだ。

 

 

年齢とともに王道の「趣味の園芸」街道を走り始めた私とデン人夫はこの10年ほどは家庭菜園に精を出し、季節ごとの花を見にいくのが楽しみになっている。

 

クロッカスが綺麗なのはなんと言ってもコペンハーゲン市内のRosenborgだった。

「だった」と言うのは先日見に行ったら何も咲いていない。と言うより花自体が花園からなくなっていた!!

でも大丈夫。実はクロッカスならここしかない、と言う取っておきのスポットを私たちは去年発見しているからである。

それはGentofte市にあるCharlottenlund Palace 。

 

 

「お城」と言うには本当に名ばかり、そのこじんまりとした白亜の館は今はオフィスやイベントセンターになっているのだけど18世期に王家の夏の別荘地として建てられた。そのお城の正面の小さな庭にこの時期クロッカスが咲き乱れるのである。

 

日本の梅や桃の花を見上げる楽しむ3月、デンマークではこのように土からやっと出てきた素朴な小さなお花を愛でる時期。白と紫のミックスのこのお花畑は、地味だけど相当頑張っている。

 

デンマーク人は季節を問わず散歩をする国民である。

寒くても防寒着を来て森やら公園やら海沿いを歩く歩く歩く。

クロッカスの庭はそんな近隣市民のお散歩コースとしてこの時期の楽しみの一つになっている。