相櫻【65】◇風見鶏◇
雅紀が上に来て、蛍光灯が視界から消えて俺に影が出来る。
唇が軽く重ねられた。
「男とキス、、、気持ち悪くない?」
「男とキスは、、正直気持ち悪いけど…
雅紀とキスは気持ち悪くないよ…」
なんとか、自分の気持ちを受け取って欲しい…
それで頭の中がいっぱいだった。
ノーマルだけど、好きになってしまったんだから。
「しょーちゃん、やっぱり頭いいね。」
「なんで?」
「言葉の使い方が匠だなって…ふふ、、、」
俺の上で笑ってくれたけど、その顔は笑っていなかった。
切なそうで寂しそうで悲しそう…。
そんな三拍子が揃った表情の奥には、俺なんかでは計り知れない苦労や過去があるんだろうな。
ノーマルじゃない雅紀にしかわからないこと。
「そろそろ寝よっか?」
「えっ?キスだけ?」
「そういうことばかり言ってると、襲っちゃうよ?」
ふふっ、と笑った雅紀は、今度は笑っていた。
そうか・・・・。
雅紀の強さは、それだけ色々な苦しみを乗り越えた上に出来上がったものなんだ。
電気を消して、雅紀がタオルケットをかけてくれる。
大きなタオルケットに二人一緒に包まれて、、、。
いや、俺は、雅紀に包まれてる。
「雅紀ぃ、、俺、雅紀のことをもっと知りたい。」
「ふふっ、、例えば?」
「いや、なんつーか・・・
昔っからなの?俺がノーマルならさ?
雅紀は、その・・・」
どうでもいいことって思うんだけど。
あー、こういうのが興味って思われんのか?
「雅紀っ!なんでもないっ!ごめんっ!」
「ふふっ、、気にしなくていいのに・・・
オレはねぇ、、しょーちゃんがさっき言ってたのと同じ。
男とか女とかノーマルとかじゃない。
人として、惹かれるかどうか、、、カナ?
でも、、女性は苦手だな。」
自分から言い出したことだけど、聞かなきゃ良かった。
俺にとっては初めてで、俺にとっては天地がひっくり返るぐらい特別なことで、それぐらい雅紀が好きなんだけど。
雅紀は、ずっとそうやって生きてきた・・・。
格段、若いわけじゃないんだから、過去があるのは当然だけど、普通の恋愛なら目を瞑れたのに、雅紀のことだと引っ掛かる。
「そっか・・・はぁっ…」
「ふふっ、溜め息ついたら幸せが逃げちゃうよ・・・
ただねぇ、オレ、ダメなんだよね。
オレ、重たいんだって。
オレの好きは重たいんだって。
うん、なんていうか・・・
付き合ってから、こんなはずじゃなかったーってなるんだろうね。
だからね、もういいやって思ってた。
しょーちゃんに会うまではね…」
「俺はっ、、そんな風にならないよ…」
「ふふっ、、なってもいいんだよ。
それは誰が悪いわけでもない。
そういう運命なんだから。」
そんな運命はいらない。
言いたかったけど、胸が苦しくて声に出来ないでいた。
過去には触れないほうがいい。
過去に嫉妬するなんてバカげてる。
ただ、この時、雅紀の過去の辛いこと全部、俺が幸せで上書きしたいって本気で思っていた。
…つぼ…