相櫻【42】◇風見鶏◇ | ◆鼻血の嵐とエクスクレモン◆

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相櫻【42】◇風見鶏◇





大学の頃のニノの口癖だった。

“どんなに小さくても野望を捨てたくない”と。


二人より先に卒業した俺は設計事務所に就職した。

卒業後は忙しかったけど、潤とは時々会っていて、ニノが卒業を前に起業したことを知ったんだ。

ニノは、元から株で儲けるようなタイプだったし、起業も“ちっちゃな野望”のひとつだったんだろうけど。

それから数年して、久しぶりにニノから連絡があった。




「ざっくばらんに言ってしまえば…
ニノは俺の資格狙いで声をかけてきたんだ。」



「資格狙い?」



「二人より歳が上な分、早く一級建築士になれたからね…」



「ちっちゃな野望に必要だったんだね。
いいな、、なんだか羨ましい。」



「羨ましい?
雅紀は?前に、体育と図工が得意だったって言ってたけど。」



ちょうど注文したものが運ばれてきた。
ウェイターのお兄ちゃんが、茶髪にピアスで、昔の自分を少し思い出す。


雅紀は、どんな友達に囲まれて、どんな風に過ごしてきたんだろう。



「オレね、親が転勤族だったから、幼馴染みみたいのが居ないの。
一番短い学校は一ヶ月しか通わなかった。」



「一ヶ月?」



「そぅ、、だから、初めての友達って、親方の息子さん、、カナ?
しょーちゃんみたいに昔からの友達がいるって、ちょっと羨ましい…ふふ、、。」



それから、親方の息子さんの話をしてくれた。
たんに、親方の元に就職したと思っていたけど。

息子さんと同じ専門学校に通っていて、親方に気に入られて就職することになったそうだ。



「息子って、俊介くんだっけ?
インテリアコーディネーターだよね?」



「そ。オレもそのつもりだったけど、机に座ってるのが苦手で…
内装屋って地味でしょ?
建築業界で言ったらさ?
色んな業者さんいるけど、その中でも地味なとこあるでしょ?
でも、、内装ってさ?
家の中でも一番長く目にするものだからさ?
親方が“一番見られるんだから恥ずかしい仕事したらなんねぇ”ってのが口癖で、
それで現場に出たくなったんだよね。」



へー、そんないきさつがあったんだ。

初めて雅紀の内装を見た時には、不思議な気持ちになった。

美容院の内装だったけど、いつもの雰囲気と違ったから、親方に聞いてみたんだよね。

そしたら、雅紀がデザインしたんだって教えてくれて、“依頼主が気に入って、このデザインで是非にって言われてな。あいつの初仕事だ”って、嬉しそうに話してたっけ。


ふと、前に見つけた雅紀のデザイン画を思い出す。

自分の家の改築のデザインだった。


あれ、、設計に起こせないかな?
俺が雅紀のために何かやれるとしたら、、、それぐらいしかないけど。

追い出される前に、プレゼント出来たらいい、そう思っていた。





…つゆくさ…