第10回|「乳酸が上がりにくい」という結果は何を意味するのか
前回は、12人の女子学生による2か月間の飲用試験から、さらに4年後に行われた水泳選手4人による追試までを紹介しました。
そこで測定されたものの一つが、「乳酸値」です。
同じ選手が、同じ条件で泳ぐ。それでも、水を常飲する前と後では、乳酸値の推移に違いが見られたと著書には記されています。
では、「乳酸が上がりにくかった」という結果を、著者はどのように見ていたのでしょうか。
今回は、前回紹介した追試の中から、この「乳酸」に焦点を絞って見ていきます。
■ タイムではなく、体の中を見る
スポーツの結果というと、「何秒縮まったのか」「どれだけ速くなったのか」といったタイムに目が向きがちです。
しかし、この追試で著者が注目していたのは、それだけではありません。
同じ距離を、決められたペースで泳いだとき、「体の中では何が起きているのか」。そこを見るために測定されたのが、乳酸値と心拍数でした。
つまり、「以前より速く泳げたから能力が上がった」という単純な比較ではありません。
運動条件をそろえたうえで、同じ運動をしたときの体の反応に違いがあるのか。そこを見ようとしていたのです。
ここが、この追試を見るうえで大切なポイントです。
■ 著書に登場する「MLSS」とは
追試の報告には、「MLSS」という言葉が登場します。
MLSSは、Maximal Lactate Steady State(最大乳酸定常)の略です。
著書では、「乳酸が定常状態である最大運動強度」と説明され、持久性能力を見るための指標として扱われています。
少し難しい言葉ですが、今回の記事で重要なのは、運動している途中で乳酸値がどう変化していったのか。そこを追っているということです。
一度だけ測定して、「高かった」「低かった」と判断したわけではありません。泳いでいる途中から、泳ぎ終わった後まで、その変化を追っています。
著書に掲載されたグラフでは、休憩後から始まり、500メートル、1000メートル、1500メートル、2000メートル、2500メートル。さらに2500メートル終了3分後、5分後まで測定されています。
つまり見ていたのは、一瞬の数字ではなく、運動によって数値がどう動いていくのか。その「流れ」でした。
■ 常飲前と常飲後を比べる
そして、このグラフでは、水を常飲する前と、常飲した後の乳酸値が比較されています。
著書では、4人の被験者について変化が見られたと記されています。
ここで重要なのは、4人が別々の距離を泳いだわけでも、常飲後だけ短い距離を泳いだわけでもないということです。
比較しているのは、同じ選手が、同じような条件で運動したときの違い。だからこそ著者は、この乳酸値の変化に注目しました。
もし運動量そのものが違えば、「運動量が違ったからでは?」という話になります。
しかし、条件をそろえて比較した中で数値に違いが見られた。著者にとっては、そこが次の「なぜ?」になったのです。
■ 著者は乳酸値の変化をどう考えたのか
では、著者はこの結果をどのように考察したのでしょうか。
著書では、処理された水を体内に取り入れることで、
血液が体内の組織へ行き渡りやすくなったのではないか。
さらに、水の体内への浸透が良くなったことで、乳酸の排出にも影響したのではないか。
そして、その結果としてMLSSに変化が見られたのではないか。そのように考察しています。
ここも、第9回と同じように分けて読む必要があります。
「乳酸値に変化が見られたこと」。これは著書に記載されている測定結果です。
一方で、「なぜその変化が起きたのか」。血液の流れや水の浸透性などを理由として挙げている部分は、著者による考察です。
結果と、その理由についての考察は同じではありません。
DEN LABでは、この二つを混ぜずに見ていきます。
■ 面白いのは「同じなのに違う」ということ
今回の追試で興味深いのは、何か特別な運動をさせたから数字が変わった、という話ではないところです。
同じ選手。同じ距離。決められたペース。
それでも、常飲前と常飲後では体内で測定された数値の推移に違いが見られた。
だから、「なぜ?」が生まれます。
そして、その「なぜ?」を考えるために、最大酸素摂取量だけではなく、乳酸、心拍数、MLSS、と見る対象が増えていきます。
著書を順番に追っていくと、一つの結果だけで結論を出すのではなく、別の数字でも同じような変化が見られるのか。そうやって検証の範囲を広げていった流れが見えてきます。
■ 乳酸の次に残った、もう一つの数字
そして、この追試では乳酸値だけを測っていたわけではありません。もう一つ、同時に測定されていたものがあります。
「心拍数」です。
著書では、同じ速度で、同じ距離を泳いでいるにもかかわらず、心拍数にも違いが見られたと記されています。
同じ2500メートルを泳ぐ。それなのに、なぜ心拍数まで違ったのか。
乳酸値の次に、著者の視線はそこへ向かっていきます。
次回は、「同じ距離を泳いでも心拍数が違った理由」について、著書の記述を追っていきます。
次回|第11回
同じ2500メートルを泳いでも、なぜ心拍数に違いが出たのか

