希望は等しくあるべき。見えざる者達にもまた。


「INVISIBLE」と名乗り、一連の爆弾事件を起こしていた少年・山田が警察に自首してきた。彼は自分の取り調べの相手に、自首の現場に居合わせた右京を指名する。右京はなぜ今回の事件を起こしたのか問いただすが、山田は右京を挑発するような言動を繰り返すばかりで真相を語ろうとはしなかった。

一方、薫と捜査一課はかつて城北中央署に勤務していた新人警官が酷いいじめを苦に自ら命を絶っていたことを知り、その件が今回の事件に深く関わっていると気づく。同じ頃、口を閉ざしていた山田は突如「四つ目の爆弾を仕掛けた」と宣言。それと同時に彼の共犯者・本城が行動を開始する。

第四の爆弾はどこにあるのか。山田と本城はなぜ連続爆弾事件を起こしたのか。彼らの計画を止めようと奔走する特命係は、やがて悲しい真実に辿り着く。


​①透明人間の叫び

謎に満ちた爆弾事件、その真相がついに解き明かされます。しかし明らかになった真相は、あまりにも悲しいものでした。

山田少年が名乗った「INVISIBLE」とは、「社会から見放された者」「誰にも目を向けられない者」という意味が含まれた言葉でした。その名を自ら名乗り、爆弾事件を起こした山田少年の動機は、自分たちのような人々を見放した理不尽な社会に復讐するため、そして自分たちが受けた苦しみを知らせるため−–怒りを訴える叫びをあげるためでした。彼が上げた叫びを受け止めたのは……


②差別の目と救いの手

今回の鍵になっていたのは、児童養護施設で育った人々への差別。色々な作品で触れられるテーマですが、今回は観ているこちらも怒りを覚えるような理不尽すぎる差別が描かれていました。

前編の段階で人を見下す傲慢さが滲み出ていた山田署長が想像以上に酷すぎる人間(ひどい言い方をするなら「人間のクズ」)だったことが明らかになる場面では、「あの署長の方こそ非常識でしょ!」という芹沢さんのセリフに思わず同意するほどでした。父親の山田市長はいい人だったのに、なぜ息子はこんなボンクラになってしまったのかと嘆いたほどです。同時に、牧野が爆弾事件の被害に遭った理由が署長と同じく非常識な振る舞いをしたからだったと分かった時は「ざまあみろ」の一言しか出てきませんでした。敢えて殺さず半殺しにするだけに留めた点にも山田少年の憎悪と恨みの深さが伺えますね。

「親がいないから」「施設で育ったから」「人と違う才能があるから」−−そんなしょうもない理由で人を差別する者達の浅はかさを描き、私達が普段気づかぬ差別の実態をこれでもかと突きつけてきた今回はしかし、逆に差別される人々に手を差し伸べた者の姿もまた描かれていました。



③「希望は、あります」

施設育ちという理由だけで幼い頃から謂れのない差別に晒されてきた山田少年。「希望(のぞみ)」という名前とは真逆に、彼の人生には希望など一つもありませんでした。親がいない上、一度見たものを全て記憶する瞬間記憶能力を持っていたが故に周りから気味悪がられ差別されてきた彼は、同じ施設で兄弟同然に育ち、いじめられていた自分を助けてくれた年上の親友を理不尽な差別によって喪ったことで自分のような「見放された者」を生み出し差別する社会への憎しみを爆発させ、今回の事件を引き起こしました。その事件の結末として彼が計画したのは「警察署の爆破と自分の死」。自ら命を断とうとした山田少年に救いの手を差し伸べたのは、右京さんでした。「罪を償えばやり直せる」という言葉をかけられた山田少年はそれを「きれい事」だと一蹴しますが、それに対し右京さんはこう返します。

​「きれい事でも、信念を伝えることは大人の責任です!」

そして右京さんは、「希望はあります」と繰り返し語りかけながら、山田少年を優しく抱きしめたのでした。


右京さんは前編で「幼い頃から賢すぎたために友達がいなかった」と語っていました。だからこそ山田少年の気持ちや彼が受けてきた苦しみを理解し、彼を救おうとしたのでしょう。上記の「きれい事でも〜」という言葉も、シーズン21第19話で薫ちゃんが死を望んだ少年に「自分の命を大切にしろ」と説得する際に言った「使い古されているのは、それが本当のことだから。」という言葉を思い出します。

大人に守られず、自分の力だけで生きていかなければならなかった山田少年は、右京さんという大人の優しさによって救われました。「生まれてこなければ良かった」という山田少年に対し「この世に生まれてこなくてよかった命などありませんよ」と諭し、「希望はある」と繰り返した右京さんの言葉は、山田少年の心に響いたことと思います。

最後に右京さんと薫ちゃんは、山田少年に代わって署長に鉄槌を下します。「今回の事件が起きたのはあんたのせいだ!」と真正面から署長を叱り飛ばした薫ちゃんの姿に胸がスッとしました。「正義も希望もない」と絶望していた少年達に特命係の二人が「正義や希望はある」ことを言葉と行動で示し、彼らを救うという壮大な物語、間違いなく今シーズン一番の傑作でした。


ラストシーン、降る雪を窓から一人眺める右京さんの姿が印象的でした。チェスを通して良き友人になれたかもしれない山田少年のことを想っていたのでしょうか。なんとも切ない締めくくりが心に残りました。



​④その他あれこれ

①薫ちゃんが言っていた「おっかない監察官」って、たぶん大河内さんのことですよね。真面目で厳格な大河内さんのこと、今回の一件を知って大激怒したのではないでしょうか。彼があの後鬼の形相で山田署長の下へ向かう姿が目に浮かびます。

②本城君を演じた吉田日向さん、見事な名演技でしたね! 彼が自分をいじめていた職場の先輩に一矢報いる所はちょっとスッキリしました。彼も山田少年も今回の事件を通して救われたと願いたいです。


​⑤次回の「相棒」は…?

次回は最終回・前編! 半年にわたり応援してきたシーズン22も遂に最終回。前シーズン同様に、最後の事件が前後編で描かれます。

ゲストも黒谷友香さん佐戸井けん太さん甲本雅裕さん金田明夫さんと豪華な顔ぶれが勢揃い! 佐戸井さんや金田さんは過去にも「相棒」に出演されたことがある俳優さんで、二人とも次回の事件で重要な立ち位置にいる人物を演じます。金田さん演じる官房長官は特に重要な人物で、特命係にとっては強敵になりそう。また黒谷さんは瀬戸内米蔵・鶴田翁助に次ぐ三人目の「法務大臣」役で、これまた重要な役割を持った人物のようです。特命係とどう関わるかも気になる所ですね。

更には社さんや甲斐さん、衣笠副総監、そして大河内さんも登場し、フルメンバーが勢揃い! この面々がどんな動きを見せるかも注目ポイントです。

シーズン22完結まで後2回。寂しいながらも次回が楽しみです!


…ところで次回予告にあった右京さんの動画。あれ、本当に右京さん本人なんですかね? ディープフェイクにも見えますが、だとしたら誰がなんの目的で作ったのか…。