その山に登れば、願いは叶うと信じた
サイバーセキュリティ対策課の土師太が、特命係に奇妙な案件を持ち込んできた。スイスの名峰・マッターホルン山で動画配信を行っていた男性が、配信中に変死を遂げたという。問題の動画を見せられた右京は、さっそくこの件を調査してみることに決める。
動画を配信していた「善ちゃん」こと善家光明の周辺で聞き込みを行っていた特命係は、善家と交流があった宗介という少年に出会う。実は善家は将棋奨励会の元会員で、宗介とは将棋を通して仲良くなっていた。宗介は善家が突然マッターホルンに向かった理由について何か知っているようだったが、それを話そうとはしなかった。
そんな時、特命係は善家が配信していた動画についての思わぬ情報を得ることに。そして、それがきっかけで善家の周囲でトラブルが起きていたことも明らかになる。
善家は誰に殺されてしまったのか？ 彼の身に何があったのか？ その鍵を握っていたのは、善家が親身になって応援していた「夢を追う子ども達」だった…。
①善い人
スイスの名峰・マッターホルンで殺人事件が起きたという奇妙な出だしから始まる今回。日本を飛び出しての大捜査になるかと思いきや、事態は次第に予想外の方向へと発展していきます。
そんな今回のキーパーソン・善家さんは、その名前が示す通りの「善い人」でした。誰にでも優しく、時には悩む子供達に寄り添い励ますこともあった善家さん。その「善い人」ぶりが最初から最後までブレずに描かれていたのが印象的でした。
自分を襲った犯人を責めたりせず、自分に猛反対してくる大人達にも落ち着いて向き合い説得しようとした点にも彼の「善い人」ぶりが表れています。ただ、その「善い人」故に、善家さんは大変な目に遭うことになってしまったのです。
②夢追う人
今回のテーマは「子供の夢」。善家さんが働いていた芸能プロダクションに所属するジュニアアイドル・ありさちゃんと善家さんと将棋を通して交流を持っていた少年棋士・宗介君。彼ら二人とそれぞれの親がこのテーマに関わる重要な人物として登場していました。
宗介君とありさちゃんは、実はどちらも親の期待を押し付けられ、本当の夢を諦めかけていました。それを知った善家さんは、彼らの夢を守るために奔走し、自分の意思で将来の道を選ばせてあげたいという想いからさまざまな行動を起こします。マッターホルン登頂を目指したのも、実はその一環でした。しかし、その行動が思わぬ事態を招き、今回の事件へとつながってしまったのです…。
子供の夢を守ろうとした大人の善意が予想外の事態につながってしまったという展開でしたが、その分右京さんがありさちゃんの母を諭した言葉や、最後に善家さんが宗介君に投げかけた言葉が印象に残りました。善家さん自身も自分の選択を後悔せず、前向きに人生を生きていた。だからこそ、子供達にも後悔のない選択をさせたかったのかもしれません。
叶えられなかった自分の夢を子供に押し付けてしまったありさちゃんの母も、父の後を継ぐという期待を子供に押し付けていた宗介君の両親も、善家さんの行動や今回の事件を経て変わることができた筈です。ラストシーンの宗介君が写った「ある写真」は、それを示唆しているかのように思えました。
③その他あれこれ
①今回は右京さんが将棋を指すという珍しい場面が見られました！ チェスを指すのはよく見ますが、それ以外のボードゲームをするのはとても新鮮に感じました。
②善家さんって善い人のように描かれていたけれど、よく見返してみると「それはやり過ぎなんじゃ…」「それはないんじゃ…」という行動・言動をとっているんですよね。ただそれは悪意のあるものではなく、子供達の夢を守りたいという純粋な願いからの行動だったので、そのために行き過ぎたことをしてしまったのかな、という同情の余地があるものでした。ありさちゃんの母を責めず、彼女の今後を心配していたのも「自分のせいでこんなことになってしまった」という自責の念から来たものだったのではないかと思います。
傷ついた人はたくさん出てしまったけど、その人達もいつか救われるのではないか…という希望も感じさせる終わり方が印象的でした。
④次回の「相棒」は…？
次回はシーズン1と繋がる物語。かつて妻の秘密を守るために殺人事件を起こして逮捕された落語家が出所し、高座に復帰。右京さんと薫ちゃんは彼の復帰公演を観に行くことにしますが、その直前に落語家は事件に巻き込まれ行方不明になってしまいます。右京さん達は彼の行方を捜すため捜査を始めますが…
過去の回と繋がっていそうだな、でもどの回と繋がってるんだろう…と思ったら、なんとシーズン1と繋がるとは！ ゲストの方も22年ぶり(！)に再登場されるんですね。次回と繋がる「秘密の元アイドル妻」の回はサブタイトルは聞いたことがありますがまだ観たことがないので、今から頑張って予習してきます！