あなたはわたしの「希望」


最近、美和子の下に匿名のラブレターが届くようになった。美和子はその内容を読んでどんな人が書いたのかと胸を躍らせていたが、側で見ていた薫はどうにも面白くない様子。そんなある日の夜、一人出歩いていた薫は偶然男性の他殺体を発見。男性の手には「亀山美和子様」と書かれた封筒が握られていた。

この男性が美和子にラブレターを書いた人物なのか?と疑惑を抱きつつ、特命係はいつものように捜査を開始。殺された男性の周辺を調べていくと、戸倉充という老画家と接点があったことが判明する。戸倉は12年前に妻が失踪し、今も彼女の行方を捜し続けていた。右京と薫は男性の殺人事件と並行して戸倉の妻の失踪事件も調べるのだが、やがて二つの事件は「あること」を接点にして繋がり始める。



​①愛する人へ

今回は「夫婦の愛」をテーマにした切ない物語でした。亀山夫妻と戸倉夫妻、二組の夫婦の対比それぞれの絆が印象に残る話でしたね。

事件のキーマンとなる戸倉さんは、12年前に失踪した奥さん・祥子さんを今でも想い続け、彼女の情報提供を求めて毎日警察署の前で座り込みをしていました。病を患いもう長くない中、妻との思い出を心の支えとし、妻の捜索だけを生きがいにしていた姿からは、戸倉さんが奥さんを本当に大事にしていたことが伝わってきます。

もう少し細かく見ていくと、戸倉さんの食卓での場面も印象に残るものになっています。祥子さんの肖像画を向かいの席に置き、その前に食事を並べ、妻と二人で食事をとっているように見立てていた戸倉さん。同じアングルでの映像が何回か繰り返されるうちに戸倉さんの表情がだんだん険しくなっていき、最後に出てくる奥さんがいた時の幸せな過去の光景で再び同じアングルでの映像が映り、そこでは戸倉さんが笑顔を浮かべていたことから、奥さんがいた頃の戸倉さんがどれほど幸せだったかが言葉がなくとも伝わるようになっていた演出が心に残りました。真実を知った戸倉さんが祥子さんの肖像画に縋りつき泣き崩れる姿も、まるで祥子さんを抱きしめているように見え、観ているこちらも悲しくなるほどでした。


​②送るラブレター

今回の鍵になっていたのは「メッセージを伝えること」。美和子さんに送られた匿名のラブレター、殺人事件の被害者・佐藤さんが美和子さんに送ろうとしていた手紙、そして祥子さんが戸倉さんに残していたメッセージ。それぞれ異なる形で人に言葉や想いを伝えることが、重要な意味を持って登場していました。

かつて祥子さんに救われた恩がある佐藤さんは、祥子さんの失踪を知って戸倉さんに協力し彼女を捜そうとしていました。しかし祥子さんが失踪前に他の男と浮気していたという疑いが浮上し、それが元で佐藤さんは「祥子さんの浮気を知って逆上した戸倉さんが彼女を手にかけたのではないか」と誤解してしまいます。実は真相は全く異なるものだったのですが、それが解けぬまま佐藤さんと戸倉さんは対立し、取り返しのつかない事態が起きてしまったのでした。

妻のために真実を隠す道を選んでしまった戸倉さん、一方的に誤解したまま戸倉さんを憎んでしまった佐藤さん。もし戸倉さんが真実を隠すのではなくきちんと打ち明けようと決意できていたら、もし佐藤さんが(命の恩人が殺されてしまったかもしれないと気づいて動揺していたとはいえ)一方的に決めつけずに少しでも聞く耳を持ってくれていたら、きっと悲劇は起こらなかったのではないか。そう思ったほどでした。

一方、物語の発端になった美和子さんへのラブレターの件ですが…実はこれ、薫ちゃんが書いたものでした。一時は「まさかストーカーの仕業なんじゃ…」とヒヤヒヤしていましたが、最後に真実が明らかになると一転して心が温かくなりました。薫ちゃんが愛する美和子さんのために一生懸命ラブレターを書いていたという可愛らしい真相とその時の姿からは、それだけで薫ちゃんの愛情が伝わってきますよね。そして美和子さんもラブレターを書いたのが薫ちゃんだと気づいていたという点も、美和子さんから薫ちゃんへの愛情が感じられてウルっときました。

そしてもう一つ。ラストシーンで右京さんが書いていた手紙の中で「宮部たまき」の名前が登場したのにビックリ! 「花の里」を畳んだ後、旅に出たたまきさんを右京さんが今でも想っていることが伝わってきて切なくなりました。右京さんは、手紙になんと書こうとしたのかな…。温かい中にほんの少し切なさが残る結末が心に残りました。


​③次回の「相棒」は…?

次回は美術品と強盗事件をめぐる物語。ある美術品コレクターの邸宅で男性が殺され、美術品が全て盗まれる事件が発生。最近犯行を繰り返している強盗グループの仕業と思われたのですが、何やら不可解な点があるようで…?

大河ドラマ「真田丸」や「鎌倉殿の13人」で名キャラを演じた小林隆さんが事件のキーマンとなる美術品コレクターの役を演じます。右京さんとも親交を持つ人物のようで、右京さんとチェスをする場面もあるそうです。小林さんがチェスを打つ姿、どんな感じなのかなあ。気になりますね。

次回も楽しみです!