9.100対2のかけひき

シーザーの死を悲しむ二人だったが、いつまでも悲しみに暮れている訳にはいかなかった。奥に続いていた血痕の量からワムウがシーザーとの戦いでかなりのダメージを受けていることを悟ったジョセフとリサリサは血痕を追って最奥の部屋にたどり着き、門番の吸血鬼を難なく撃破すると回復の時間を与えずワムウを倒そうと部屋に踏み込む。

だが、そこにはワムウとカーズだけでなく、カーズの手下の吸血鬼が100体も潜んでいた。カーズはここで二人を始末しようとしていたのだ。

それを聞いたリサリサは「自分達を殺せば赤石は永遠に手に入らなくなる」と言い、「赤石には時限爆弾を仕掛けておいた。自分かジョジョが戻らなければ時限爆弾が爆発し、スーパーエイジャは傷がついて使い物にならなくなる」とハッタリをかける。更に彼女は赤石をかけてワムウとジョセフ、自分とカーズとで一対一の決闘を行い決着をつけることを提案してきた。

カーズはその交渉を受け入れ、ワムウの提案によりピッツベルリナ山にて決闘を行うことを決めた。リサリサは人質としてカーズ達の下に残ることとなり、ジョセフはロッジにあるエイジャの赤石を取りに戻ることとなる。

 

ロッジへ戻ったジョセフは、リサリサのカバンからエイジャの赤石を取り出した際に二枚の写真を見つける。一枚は今のエリナの写真。もう一枚は若い頃のスピードワゴンとエリナ、そして赤ちゃんを抱いた若い頃のストレイツォが写った写真だった。

なぜリサリサが祖母の写真を持っているのかと驚いたジョセフは、その日の深夜ピッツベルリナ山の麓に到着した際にそのことをリサリサに問い質す。すると、リサリサは彼に自分の過去の一端を明かした。

リサリサは50年前、ジョナサンが死んだあの客船沈没事故でエリナと共に救出された赤ん坊であり、救助された後ストレイツォの養女となっていたのだという。彼女に波紋の修業をつけ、波紋使いが守ってきたエイジャの赤石を彼女に託したのも育ての父であるストレイツォであった。

そしてリサリサは、ストレイツォが老いを恐れるあまり吸血鬼と化し、ニューヨークにてジョセフに倒されたことも知っていた。

彼女の数奇な運命を知ったジョセフは、彼女もまた石仮面に運命を狂わされ、重いものを背負っていたのだと知る。

 

 

10.戦車競走~風にかえる戦士

ジョセフとワムウの決闘は、古代ローマの戦車戦で行われることとなった。戦いの装束を身につけ、本気で戦う意思を示すワムウ。ジョセフもシーザーの形見のバンダナをつけ、気合は十分だった。

そしていよいよ二人の戦いが始まった。ジョセフはいつものように策を活かして戦うが、「戦いの天才」と呼ばれるほどの優れた戦士・ワムウの策は彼をはるかに上回っていた。

知略で戦うジョセフに対し、知略のみならず柱の男としてのパワーを活かして更なる大胆な戦法を仕掛けるワムウ。両者の戦いは熾烈を極めるが、ジョセフはワムウが零距離で神砂嵐を放ったその瞬間に彼の腕に波紋を流してダメージを食らわせ、神砂嵐を破ることに成功する。

だがワムウも負けてはいなかった。精神的に大きなショックを受けたワムウはそれを克服すべく、何と自分の目を潰すという行動に出る。これによって一気にショックを乗り越えたワムウは再び持ち直し、更に「視力に頼らず風の動きで物を見る」ことでジョセフの位置をより正確につかめるようになった。

戦況はワムウの方へと一気に傾いていくが、ジョセフは諦めなかった。彼は命乞いをするふりをしてワムウの気を逸らし、再びワムウに波紋を食らわせたのだ。

だがしかし、ワムウは腕を切り落とされ胸に穴を開けられた状態になってもなお諦めなかった。彼は千切れた腕でジョセフを押さえ込み、最終流法「渾楔颯(こんけっさつ)」を以ってジョセフを仕留めようとする。その技はワムウ自身の肉体に取り込んだ空気を肺の中で圧縮し超高圧で放出するという最大級の技だったが、同時に風の放出に伴う摩擦や熱で自身の肉体を自己再生力が追い付かないほどボロボロにしてしまうという諸刃の剣でもあった。

これに対しジョセフが使ったのは、油のビンと頭に巻いていたシーザーのバンダナ。ワムウはそれらを容易く切り裂いてしまうが、実はそれこそがジョセフが仕掛けたトラップだった。ジョセフはワムウが空気を取り込んでいることを利用し、油と火の点いた細切れのバンダナを吸収させることで彼の体内で爆発を起こさせようとしていたのだ。

 

ワムウの肉体は爆発で粉々になり、頭部のみが残った状態となった。リサリサはジョセフにワムウにとどめを刺すように指示し、ワムウもまたジョセフにとどめを刺すように言うが、ジョセフは自分の血で彼の痛みを和らげようとする。

敵からの情けなどいらないというワムウだったが、ジョセフはそんな彼に「ならばなぜシーザーが最後に作ったシャボン玉を破壊しなかったのか」と問う。「誇り高き戦士であった彼への敬意ゆえだ」と答えたワムウは、そこでやっとジョセフの意図に気付いた。

ジョセフは、誇り高い戦士であったワムウへの敬意の表れとして自分の血を彼に捧げていたのだ。

その時、ワムウの敗北に怒り狂った吸血鬼達がジョセフを殺そうと襲い掛かってきた。それを見たワムウは最後の力でジョセフを襲おうとした吸血鬼達を蹴散らし、彼を守る。驚くジョセフに、ワムウは解毒剤を飲むように言う。それを感じ取ったワムウはジョセフと戦い、彼の成長を見届けられて満足だったと言い残し、灰となって消えていった。

その灰は風に流され、彼は文字通り風に帰っていった。それを見届けたジョセフは、無意識のうちに風に帰ったワムウに向けて敬礼の姿勢を取ったのだった――。

 

 

11.最後の決闘~助太刀

ワムウとジョセフの戦いに決着がつき、次はいよいよカーズとリサリサの決闘となった。

二人は闘技場にほど近い神殿遺跡にて決闘を行うこととなる。リサリサはカーズから殺気が感じられないことに不審感を抱くも、すぐさま波紋を流し彼を撃破することに成功した。

 

しかしその直後、リサリサの背後に現れたカーズが輝彩滑刀で彼女の胸を貫いた。リサリサと戦っていたのはカーズの影武者で、カーズは何が何でもエイジャの赤石を手に入れるために不意討ちで彼女を倒そうとしていたのだ。

この卑劣な行いに激怒したジョセフはリサリサを救出しようとするが、カーズの手下の吸血鬼達に行く手を阻まれて近づけない。その上、彼はワムウとの戦いで体力をほとんど使い果たしており、波紋を思うように練れなくなっていた。

絶体絶命のジョセフ。その危機を救ったのは、その場に駆けつけたシュトロハイムとスピードワゴン財団の戦闘部隊、そしてスピードワゴンとスモーキーだった。助太刀に入ったシュトロハイムと戦闘部隊は紫外線照射装置で吸血鬼達を蹴散らし、ジョセフをカーズの下へと行かせるのだった。

 

戦士として戦い抜いたワムウの誇りを汚したと怒るジョセフだが、カーズはそれを歯牙にもかけず、瀕死のリサリサを盾にしてまたもジョセフを窮地に追いやる。更にシュトロハイム達も吸血鬼達に行く手を阻まれ、ジョセフの下にたどり着けない状況に陥っていた。
しかし、その状況でもジョセフは諦めなかった。彼はカーズを挑発して彼の気を逸らし、その隙にリサリサを吊るしていたロープをカーズの足に引っ掛け、更に波紋の一撃をカーズに浴びせることに成功する。その一撃はカーズの腕の輝彩滑刀をへし折り、彼を尖った水晶の柱が並ぶ谷底へ叩き落としていった。
なんとかリサリサを救出したジョセフ。その姿を見たスモーキーは、エリナから聞いたある話を思いだした。
――リサリサの正体が、ジョセフが幼い頃に死んだとされていた彼の母親であるという事実を。

 

※以下の記述には物語の核心部分・結末のネタバレが含まれます。反転してお読みください※

 

12.絆と因縁

「なぜエリナはジョジョに母親が生きていることを話さず死んだと嘘をついていたのか、なぜリサリサは自分の素性をジョジョに明かさなかったのか」とスピードワゴンに問うスモーキー。

スピードワゴンは、彼に「ジョセフには決して言うな」と約束させたうえで、すべてを語り始めた。

リサリサの本名は「エリザベス・ジョースター」といった。
赤ん坊の頃に客船沈没事故で両親を失い、エリナに救出された彼女はストレイツォの下に養女として引き取られ、彼の下で波紋の修業を積んで波紋の達人となった。
ある時エリザベスは、イギリス空軍に所属する若きパイロットと出会い、恋に落ちる。そのパイロットの名は「ジョージ・ジョースターⅡ世」。彼は、エリナが客船沈没事故の際に身ごもっていたジョナサンの遺児であった。
やがて二人は結婚し、彼らの間にジョセフが生まれる。二人は、この上なく幸せな日々を送っていた――。
しかし、50年前に断たれたはずのディオや石仮面との因縁がその幸せを破壊した。50年前にスピードワゴンやジョナサンが全滅させたはずだったディオの配下の屍生人の中に、人間の社会に紛れ込んで生き残っていた者がいたのだ。しかもその屍生人は、ジョージⅡ世が所属しているイギリス空軍の司令官となっていた。
やがてジョージⅡ世は司令官の正体に不信感を抱いて調査を始めたが、その行動を知った司令官の手にかかって殺害されてしまった。
そしてこの事件が、エリザベスの運命を大きく狂わすこととなってしまう。スピードワゴンとストレイツォの調査によって夫の命を奪ったのが空軍司令官に成りすましていた屍生人だと知ったエリザベスは、空軍基地へ乗り込み屍生人司令官を波紋で滅したが、その現場を兵士に目撃されたことで司令官殺しの罪で全世界に指名手配されてしまったのだ。
その後、エリザベスはスピードワゴン財団の助けを得て亡命し、彼女の戸籍は抹消された。そしてその事実を知ったエリナは、ジョセフまでもを石仮面の因縁に巻き込みたくないとの思いから、スピードワゴンにこう頼んだのだ。
もしジョセフが大きくなって両親のことを聞いたら、二人とも死んだと言ってほしい、と…。
そして、イタリアへと亡命したエリザベスは正体を隠し、「リサリサ」となったのだ。

全てを知ったスモーキーは「もう真実を隠す必要はないはず、ジョジョに打ち明けよう」とスピードワゴンに言う。しかし、スピードワゴンは「自分の一存ではできない、リサリサやエリナの気持ちを確かめなければ」と返すのだった。

 

13.究極の生命体
スモーキーがジョセフの家族にまつわる真実を聞かされていたその頃、シュトロハイムと戦闘部隊はカーズにとどめを刺そうとしていた。だが、紫外線照射装置を発射したその瞬間、彼は思わぬものを目の当たりにする。顔を上げたカーズは、いつの間にかエイジャの赤石をはめ込んだ石仮面をかぶっていたのだ。これに気付いたシュトロハイムは慌てて紫外線の照射を止めるよう指示したが、時すでに遅かった。カーズは紫外線を利用して石仮面にはめ込まれたエイジャの赤石の力を作動させ、その力を以って遂に自らが目指した最強の生物「究極生命体(アルティミット・シィング)」へと変貌する。

突然の出来事に呆然とするジョセフ達。その時、彼らがいる場所に朝日が昇ってきた。朝日を浴びた吸血鬼達が次々と灰になっていくのを見たスピードワゴンは「これで助かった」と安堵するが、カーズは朝日を浴びても灰にならず、逆に暁光を背に悠然と立っていた。彼は究極生命体となったことで弱点を克服していたのだ。
更に、カーズは自分の体の一部を様々な生物に変化させるという力を得ていた。その力でカーズは両腕を鳥の翼に変化させて飛び上がり、空中からジョセフ達を襲撃する。咄嗟に逃げるジョセフだが、カーズは易々と彼に追いついてきた。
このままではスモーキーやスピードワゴン達まで巻き添えにしてしまう。そう考えたジョセフは、ローマでワムウと戦った時のように自ら囮となってカーズを引き離す作戦に出る。シュトロハイムの部隊が持ってきていた戦闘機に乗り込んだジョセフは皆に別れの挨拶を告げると、カーズを引き離すべく遥か彼方へと飛び去る。


何とかカーズを引き離すことに成功したジョセフは、彼を確実に倒すため、ヴォルガノ火山の火口にカーズを叩き落とす作戦を練る。カーズが生み出す生物の襲撃を受けながらもヴォルガノ火山を目指してひたすら飛び続けるジョセフ。そんな彼に無線で通信を取ったスピードワゴンはリサリサの真実を伝えようとしたが、その言葉はジョセフに届かずじまいに終わった。
ようやくヴォルガノ火山の上空へたどり着いたジョセフだったが、戦闘機はカーズの攻撃でボロボロにされ墜落寸前の状態だった。それでもジョセフはカーズの気を逸らす作戦で彼に戦闘機をぶつけることに成功するが、カーズは戦闘機が墜落する前に逃げようとする。そこに、こっそり戦闘機に乗り込んでいたシュトロハイムがジョセフに加勢してカーズを機体に固定。身動きが取れなくなったカーズは、そのまま火口へと突っ込んでいった。

墜落する戦闘機から脱出したジョセフは、シュトロハイムに助けられて何とか火口の縁に降り立つ。カーズが溶岩の中に沈んでいくのを見届けた二人はこれで終わったと安堵し、その場を去ろうとした。
しかしその直後、溶岩を泳いでやり過ごしたカーズがジョセフ達を地中から急襲し、ジョセフは彼の奇襲で左腕を切り落とされてしまう。ジョセフは波紋で反撃するが、カーズは驚くべき方法で応戦した。それは、彼のもう一つの弱点だった「波紋」。カーズは究極生命体となったことで自分も波紋が使えるようになり、更にジョセフの何百倍もの強力な波紋が練れるようになっていたのだ。ジョセフはカーズの波紋で返り討ちにされ、更に負傷してしまう。
「もはやカーズに勝てる方法はない、奴は神になったのだ」と嘆くシュトロハイム。カーズはジョセフにとどめを刺そうと更に波紋を放とうとしたが、その時誰も予想していなかった事態が起こった。ジョセフが咄嗟に身を守ろうとかざした右手にあったエイジャの赤石にカーズの波紋が当たり、その波紋が赤石の中で何倍にも増幅されていったのだ。
それを見たジョセフは、以前リサリサが言っていた波紋使いの言い伝えの意味をようやく知った。エイジャの赤石の本当の姿は、波紋を増幅させるための装置だったのだ。

エイジャの赤石の中で増幅されたカーズの波紋は凄まじいエネルギーとなって火山に流れ込み、大噴火を引き起こした。その勢いでジョセフとカーズが乗っていた地面は火山弾となり、噴き上がったマグマと共に天高くほうり上げられる。カーズは再び両腕を翼に変化させて逃げようとしたが、偶然飛んできたジョセフの腕に気を取られたことが彼の運の尽きとなった。カーズはそのまま下から飛んできた小型の火山弾によって更に上空へと押し上げられ、遂には地球の外――宇宙へと放り出された。
その様子を見届けたジョセフは、心の中で皆に別れを告げながら、火山弾の上で静かに力尽きた…。

宇宙に放り出されたカーズは地球へ戻ろうとするもかなわず、そのまま永遠に宇宙を彷徨う運命となった。そして、彼はやがて考えるのをやめてしまったのだった。


 

-エピローグ-

ジョセフとカーズとの戦いから数時間後、生還したシュトロハイムはジョセフが死んだと皆に伝えた。
二か月後の1939年4月。ニューヨークの郊外の墓地にてジョセフの葬儀が執り行われた。そこに、何処かで聞いたことのある軽い口調の男が現れる。葬儀のスタッフ達は彼を追い出そうとしたが、男の顔を見た一同は騒然となった。
何とその男は、死んだと思われていたジョセフ・ジョースターその人だったのだ!

実は、ジョセフが乗っていた火山弾はあの後海に落下し、ジョセフは海を漂流していた所をヴェネツィアの漁船に救助され、エア・サプレイーナ島に残っていたスージーQの下で介抱されていた。そして彼は、その間に何とスージーQと結婚していたのだ。
皆の反応を不思議がったジョセフは、自分の墓石が建てられているのに気づいて仰天。ジョセフは遅れてやってきたスージーQに「お前、俺が生きてるって電報打ったか!?」と問うが、スージーQから返ってきた答えは…
「ごめんなさ~い、忘れちゃってた~!」
スージーQは、電報を打つのを忘れてしまっていたのだった。
かくして、ドタバタしながらも皆はジョセフが生存していたことを知り、悲しみから一転して喜びに包まれた…。

その後――
リサリサはジョセフに自分が実母であったことを明かし、彼やスージーQと共にニューヨークに移住。9年後にハリウッドの脚本家と再婚した。
エリナはその後も小学校の先生を続けていたが、1950年に家族に看取られながら逝去した。
スピードワゴンはアメリカの経済発展に尽力し続けたが、エリナが逝去した2年後に心臓発作により亡くなった。彼は、生涯独身だったという。
シュトロハイムはジョセフと再会することなく第二次世界大戦に出兵し、1943年のスターリングラードの戦いで戦死を遂げた。
スモーキー・ブラウンは苦学の末に大学に入って政治学を学び、後に故郷のジョージア州で歴代初となる黒人の州知事になったという。
そして、ジョセフはニューヨークで不動産会社を興し成功をおさめ、妻との間にも可愛い娘が生まれ、幸せな日々を送った。
――それから44年後の1983年、彼の祖父が命を落としたあの客船沈没事故が起こった海から、「あるもの」が引き上げられるまでは。

そして1987年。年老いたジョセフは、日本に住んでいる娘からある連絡を受けて単身日本へと向かう。それは、100年に渡るディオとの因縁に決着をつけるための戦いの始まりだった…。


(第2部「戦闘潮流」完/第3部「スターダストクルセイダース」へ続く)

 

2016年10月25日 エディタを新型に変更・ネタバレ部分の隠し方変更・文章一部訂正