宝瓶宮 28.君を害する者として

―1月28日―

「復讐の手立てを教えてください。」
私はレオンに思い切ってそう頼んでみた。
「私は、あの男に復讐するためにあそこにいたのです。」
私は全てを話した。
両親があの男のせいで死んだこと。私が偶然その事実を知って復讐を目論んでいたことを。
「単純な話ではないぞ。」
話を一通り聞き終えたレオンは険しい顔でそう言った。
「下準備も、計画も綿密に立てねばならない。それにひとえに復讐すると言っても、そう単純には済まないだろう。
 君の決意が固いと言うなら尚更だ。」
そう説明したレオンは、情はもうないのだな、と念を押してきた。
「あの男は次に現れる時、君を害する者として現れるだろう。
 そうなった時に迷わず敵意を向けられるのか?
 育て親への情に惑わされるなどということがあるのではないか?」
「いいえ、私の中にあの男への情はもう欠片もありません。
 あるのは復讐心だけです。」
私はきっぱりと言い切った。
そうだ、あの男への恩などとうに捨て去った。私に今あるのは復讐するという意思のみだ。
沈黙が辺りを支配する。傾きかけて薄っすらとオレンジ色を帯びた日の光が部屋の中に差し込んでいる。
温かそうな光景なのに、真剣な雰囲気のせいだろうか、部屋の中はとても冷たく感じた。まるで水牢の中に座っているように。
レオンは許可してくれるだろうか。私があの男に復讐することを、許してくれるだろうか。
「…わかった」
暫くして呟いたレオンは、
「君が望むのなら、復讐の計画を共に練ろう。」
そう言ってくれた。
私はその時、とても明るい顔をしていた。とても明るい顔で、嬉しそうに、何度も何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。
――レオンには、きっとこの時の私は異様に見えたかもしれない。
でも、私は嬉しかったのだ。
両親の復讐を遂げるためのとっかかりが見つかった、それだけの事がとてもうれしかったのだ。