処女宮 17.きみに降った雨のぜんぶ

―9月17日―

今日も玲緒と一緒に飲んだ。
彼はとにかくよく飲む方だ。あまりキツイお酒は飲めないけれど、ビールならグイグイと開けてしまう。
そういやさ、と玲緒が赤い顔で話し始めた。
「この間、風邪ひいて病院いったんだけどよ。名前呼ばれて返事したら、周りからジロジロ変な目で見られるのな。何でだって思ってたら、俺が男みたいなカッコしてるからだって気ぃついちまってよ。…おかげで気分悪くなったわ。」
はは、と乾いた声で笑う彼を、私はじっと見守っていた。
玲緒はその体と心の性の齟齬故、ここに来た当初はかなり荒れていたという。ここでの生活に慣れて来て、自分の状態を理解した後も、彼に偏見の目を向ける人は絶えなかった。
ふと今日は雨だったな、と思い出し、同時に彼は今までどれ程雨に打たれてきたのだろうとも思った。
彼はどれほどの間、雨のように降り注ぐ差別や偏見をその身に受けてきたのだろう。
きみに降った雨のぜんぶを私が受け止めてあげられたら――そんなこと何度思っただろう。
彼に傘を差し掛けて、一緒の傘に入って、一緒に雨を凌ぎたい。
何度も何度も、そう思っていた。

星川真珠美はそう思わなかったのかしら、不意にそんなことを思った。
星川真珠美はただ単に天宮君に寄り添うだけでなく、その人に降りかかる災難を身代わりに受け止めたいと思えるほど天宮君を愛していたのだろうかと。
―― 一方的に所有物にしたいと思っていたのなら、それは愛していたとは言わない。
それは、「執着」だ。